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52『人だかり』

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鳴かぬなら 信長転生記

52『人だかり』 信長  




 朝食を済ませて、街の中心部に向かう。


 さすがに中心部が近くなると、街路も舗装されて、家並みも雑ながら整ったものになってくる。

「なんだろ……」

 辻に人だかりを見つけると、市は駆けだした。

 ちょっと不用心だが、興味のあるものにまっしぐらという感性は悪くない。

 人だかりをザっと見渡してから市の後を追う。

 人だかりの大半は男だ。人だかりにほとんど隠れてはいるが、どうやら高札らしい。


「また年齢が下がったぞ」

「今度は、15歳~35歳」

「先週は、17歳~33歳だったな」

「これで、一万ほどは定員が増えるか」

「弟にも声をかけてやろう」

「給金は……」

「据え置きか……」

「いや、十元増しだ」

「いいなあ」

「おまえは下兵だろ」

「下兵は据え置きだな」

「上兵は装備支給……」

「悪い話じゃないな……」


 男どもの会話でおおよその所が分かる。兵隊の追加募集だ。

 まだ戦闘が行われた様子はないから、おそらくは作戦の変更で、より多くの兵が必要なんだ。

 十中八九、指揮官が交代している。

「すごい熱気だ!」

 人だかりの外で背伸びしている市が振り返る。

「前には出ないのか?」

「さすがにね」

「シイは、どう見る?」

「シイ?」

「憶えろ、お前の名だ」

「あ、そうだった」

「歩きながら話せ」

「うん……大将はバカだね」

「バカか」

「数だけ増やしても戦いには勝てない。それも素人の子どもとおっさん。装備もろくに行き渡らないみたいだし」

「それは分からんぞ」

「どうして?」

「擬兵には使える。長城の上に並べたり、後方に配置して大軍に見せたりな」

「あんた、バカ?」

「バカとはなんだ!」

「戦場に配置された軍勢には気がある。闘志とか敵愾心とか。カカシ同然の素人並べても、そういう気は湧かないよ」

「いや、『気』は作れる。優れた指揮官なら、たった一度の檄や策略でも、カカシを神兵にもする」

「そうなのか?」

「桶狭間でやった」

「ああ、熱田神宮でやったハッタリ」

「ハッタリなもんか、ちゃんと四方に隈なく偵察を出した上での判断だ。むろん劇も飛ばしたが、策略においても隙は無かったぞ」

「フフ、それはそうだたね、功名一番の手柄は梁田政綱(今川義元が桶狭間で休憩していることを一番に知らせた)に与えたものね」

「そうだ、優れた情報は、一番槍に勝るのだ。そして、情報を活かせる者が大将の器なのだ」

「それはそれは、でも、あれ以降、桶狭間的な戦いはやってないよね。やっぱ、博打同然の一発勝負だったって思ってんでしょ」

「違う!」

「図星、でも、成功体験を頼りの自己模倣やらなかったのは認めてあげるわ」

「越前の退却戦のおり、秀吉が金ケ崎城でやったのもそうだ。十倍の朝倉軍に城を囲まれ、あえて篝火をたいて城門を開き、さっさと搦め手から逃げて時間を稼いだ。諸葛孔明も真っ青の空城の計だ」

「サ、サルの話は無し!」

「とにかくだ、勇み足とはいえ袁紹の大敗北の後でも、これだけの士気を保たせている。敵の指揮官は並の男では無いぞ」

「そ、そうね(-_-;)」

 いちおう沈黙した市だが、目がクリクリしているところを見ると、なにか突っかかるネタを探している様子。

 懲りない奴だ。




☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 

 
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