38 / 192
38『偵察隊隊長 孫策』
しおりを挟む
鳴かぬなら 信長転生記
38『偵察隊隊長 孫策』
「きみたち、こんなところで何をし……具合が悪いのかい?」
意外に優しい口調で隊長らしいのが声を掛けてきた。
「あ……え、えと……」
信玄が俺たち三人を庇うようにして、でも、怖さで言葉が出ない風を装う。
謙信は、酸欠の金魚のように口をパクパクさせて、目尻に涙さえ浮かべている。
俺は武蔵の上に覆いかぶさって友だちを庇う風を装う、実際は、武蔵が反射的に攻撃姿勢をとらないように戒めているんだけどな。
武蔵は、嫌がって爪を立てるものだから痛くて涙が出そうだ。
で、この四人四様のリアクションは、いかにも偵察隊の押し出しに怯えた女子高生めいている。
「脅かしてすまない。我々は三国志の警戒隊で、僕が隊長の孫策だ。いや、この近くで、ちょっとした争いがあってね、その警戒の為にパトロールをしているところなんだ」
「わ、わたしたち、授業で使う薬草を、さ、さ、探して……ハ、ハ、ハ……」
「すまない、ちょっと過呼吸ぎみだね。お前たち、そこに突っ立てると、この子たちが怯える。みんな下がってなさい」
「しかし、隊長、袁紹たちを襲ったのは……」
「つい昨日まで、このあたりは三国志と扶桑の緩衝地帯だったのだ、女学生が薬草を探しに来ても不思議でもないし、咎めるべきことでもない。ただ、我々には役割があって、この子たちを誰何するんだ、無用に威嚇することない」
「ハ」
「その子は大丈夫なのかい?」
「はい、すこし横になっていれば落ち着くと思います」
「きみは落ち着いているね、話を聞かせてもらってもいいだろうか?」
お、俺に聞くな。
「その子の風体が、情報にあるのと近くてね、いや、具合が悪くて横になっているんだから、そんなことはないと思うんだけど、僕たちも役目だからね……」
隊長!
後ろの人相の悪い組頭風が前に出てくる。
「そこで言いなさい」
「ハ、自分は袁紹殿といっしょでしたので、分かります」
「なにが分かると言うんだい?」
「右のふくらはぎに見えるホクロがやつのといっしょです!」
「ホクロ? よく見てたいたね」
「はい、袁紹殿に切りかかってきたところを庇おうとして、一瞬の遅れをとりました。その折、跳躍したそいつの足が目の前を掠めて言ったので、はっきりと覚えております」
「そうか……しかし、見ての通り、この子は具合が悪いのだ、ここで問いただすのも酷だろう」
「顔を見れば分かります! あの時の阿修羅のような顔は忘れません!」
「む……そうまで言うならね、どうだろ、ここに居てもらちが明かないし、十分休ませることもできないだろう、僕たちの詰所まで運ばせるから、それからということで」
ムム、孫策というやつ、ソフトに見えて、なかなか手ごわい。
「そんなことをしなくとも、ここで面体を改めれば、やつの面構えは忘れません!」
「お、おい」
制止したが間に合わなかった風を装って組頭風が武蔵の顔にかけたハンカチをむしり取るのを看過する。
なかなかの策士だ。
「「「あ!?」」」
俺たちも、よく堪える。
「どうだった?」
表情の読めない声で、孫策が聞く。
「べ、別人でした……」
「そうかい……すまない、部下が無体なことをした。この通りだ。では、僕たちは他を当ることにしようか。きみたち、もうしばらくしたら、ここいらは三国志の支配地になる。僕たちは先行の袁紹部隊のような乱暴はけしてしない。学校や知り合いの人たちに言っておいてくれるとありがたい。むろん、一般の人たちの生活や往来を制限することもしない……と、こんな完全武装の姿で言われてもだね、アハハ、じゃ気を付けて行きなさい。じゃ、みんな行くよ!」
一様に頷くと、偵察隊は茂みの向こうへ行ってしまった。
「武蔵、もういいぞ」
「うう……」
「どうした、武蔵?」
「ずっと白目をむいていたらもどらなくなった……」
ハンカチをとると、武蔵の目はバグったように白目で、口元が痙攣していた。
笑いをこらえるのに、ちょっと苦労したぞ。
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
熱田敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本武蔵 孤高の剣聖
38『偵察隊隊長 孫策』
「きみたち、こんなところで何をし……具合が悪いのかい?」
意外に優しい口調で隊長らしいのが声を掛けてきた。
「あ……え、えと……」
信玄が俺たち三人を庇うようにして、でも、怖さで言葉が出ない風を装う。
謙信は、酸欠の金魚のように口をパクパクさせて、目尻に涙さえ浮かべている。
俺は武蔵の上に覆いかぶさって友だちを庇う風を装う、実際は、武蔵が反射的に攻撃姿勢をとらないように戒めているんだけどな。
武蔵は、嫌がって爪を立てるものだから痛くて涙が出そうだ。
で、この四人四様のリアクションは、いかにも偵察隊の押し出しに怯えた女子高生めいている。
「脅かしてすまない。我々は三国志の警戒隊で、僕が隊長の孫策だ。いや、この近くで、ちょっとした争いがあってね、その警戒の為にパトロールをしているところなんだ」
「わ、わたしたち、授業で使う薬草を、さ、さ、探して……ハ、ハ、ハ……」
「すまない、ちょっと過呼吸ぎみだね。お前たち、そこに突っ立てると、この子たちが怯える。みんな下がってなさい」
「しかし、隊長、袁紹たちを襲ったのは……」
「つい昨日まで、このあたりは三国志と扶桑の緩衝地帯だったのだ、女学生が薬草を探しに来ても不思議でもないし、咎めるべきことでもない。ただ、我々には役割があって、この子たちを誰何するんだ、無用に威嚇することない」
「ハ」
「その子は大丈夫なのかい?」
「はい、すこし横になっていれば落ち着くと思います」
「きみは落ち着いているね、話を聞かせてもらってもいいだろうか?」
お、俺に聞くな。
「その子の風体が、情報にあるのと近くてね、いや、具合が悪くて横になっているんだから、そんなことはないと思うんだけど、僕たちも役目だからね……」
隊長!
後ろの人相の悪い組頭風が前に出てくる。
「そこで言いなさい」
「ハ、自分は袁紹殿といっしょでしたので、分かります」
「なにが分かると言うんだい?」
「右のふくらはぎに見えるホクロがやつのといっしょです!」
「ホクロ? よく見てたいたね」
「はい、袁紹殿に切りかかってきたところを庇おうとして、一瞬の遅れをとりました。その折、跳躍したそいつの足が目の前を掠めて言ったので、はっきりと覚えております」
「そうか……しかし、見ての通り、この子は具合が悪いのだ、ここで問いただすのも酷だろう」
「顔を見れば分かります! あの時の阿修羅のような顔は忘れません!」
「む……そうまで言うならね、どうだろ、ここに居てもらちが明かないし、十分休ませることもできないだろう、僕たちの詰所まで運ばせるから、それからということで」
ムム、孫策というやつ、ソフトに見えて、なかなか手ごわい。
「そんなことをしなくとも、ここで面体を改めれば、やつの面構えは忘れません!」
「お、おい」
制止したが間に合わなかった風を装って組頭風が武蔵の顔にかけたハンカチをむしり取るのを看過する。
なかなかの策士だ。
「「「あ!?」」」
俺たちも、よく堪える。
「どうだった?」
表情の読めない声で、孫策が聞く。
「べ、別人でした……」
「そうかい……すまない、部下が無体なことをした。この通りだ。では、僕たちは他を当ることにしようか。きみたち、もうしばらくしたら、ここいらは三国志の支配地になる。僕たちは先行の袁紹部隊のような乱暴はけしてしない。学校や知り合いの人たちに言っておいてくれるとありがたい。むろん、一般の人たちの生活や往来を制限することもしない……と、こんな完全武装の姿で言われてもだね、アハハ、じゃ気を付けて行きなさい。じゃ、みんな行くよ!」
一様に頷くと、偵察隊は茂みの向こうへ行ってしまった。
「武蔵、もういいぞ」
「うう……」
「どうした、武蔵?」
「ずっと白目をむいていたらもどらなくなった……」
ハンカチをとると、武蔵の目はバグったように白目で、口元が痙攣していた。
笑いをこらえるのに、ちょっと苦労したぞ。
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
熱田敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本武蔵 孤高の剣聖
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
地の果ての国 イーグル・アイ・サーガ
オノゴロ
ファンタジー
狂気の王が犯した冒涜の行為により闇に沈んだダファネア王国。
紺碧の王都は闇の王に取り憑かれ漆黒の死都と化した。
それを救わんと立ち上がったのは、運命の旅路をともにする四人。
たった一人残された王の血脈たるミアレ姫。王国の命運は姫の一身にかかっている。
それを守るブルクット族の戦士カラゲル。稲妻の刺青の者。この者には大いなる運命が待っている。
過去にとらわれた祭司ユーグは悔恨の道を歩む。神々の沈黙は不可解で残酷なものだ。
そして、空を映して底知れぬ青き瞳を持つ鷲使いの娘クラン。伝説のイーグル・アイ。精霊と渡り合う者。
聖地に身を潜める精霊と龍とは旅の一行に加護を与えるであろうか。これこそ物語の鍵となる。
果てしない草原に木霊するシャーマンの朗唱。それは抗いがたい運命を暗示するいにしえの言葉。
不死の呪いを受けた闇の道化。死霊魔法に侵される宿命の女。これもまた神々の計画なのか。
転がり始めた運命の物語はその円環を閉じるまで、その奔流を押しとどめることはできない。
鷲よ! 鷲よ! 我らの旅を導け!
陽光みなぎる青空の彼方、地の果ての国へと!
ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww
刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。
さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。
という感じの話です。
草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。
小説の書き方あんまり分かってません。
表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。
【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳) KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
【表紙画像】
歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる