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38『偵察隊隊長 孫策』

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鳴かぬなら 信長転生記

38『偵察隊隊長 孫策』  





「きみたち、こんなところで何をし……具合が悪いのかい?」


 意外に優しい口調で隊長らしいのが声を掛けてきた。

「あ……え、えと……」

 信玄が俺たち三人を庇うようにして、でも、怖さで言葉が出ない風を装う。

 謙信は、酸欠の金魚のように口をパクパクさせて、目尻に涙さえ浮かべている。

 俺は武蔵の上に覆いかぶさって友だちを庇う風を装う、実際は、武蔵が反射的に攻撃姿勢をとらないように戒めているんだけどな。

 武蔵は、嫌がって爪を立てるものだから痛くて涙が出そうだ。

 で、この四人四様のリアクションは、いかにも偵察隊の押し出しに怯えた女子高生めいている。

「脅かしてすまない。我々は三国志の警戒隊で、僕が隊長の孫策だ。いや、この近くで、ちょっとした争いがあってね、その警戒の為にパトロールをしているところなんだ」

「わ、わたしたち、授業で使う薬草を、さ、さ、探して……ハ、ハ、ハ……」

「すまない、ちょっと過呼吸ぎみだね。お前たち、そこに突っ立てると、この子たちが怯える。みんな下がってなさい」

「しかし、隊長、袁紹たちを襲ったのは……」

「つい昨日まで、このあたりは三国志と扶桑の緩衝地帯だったのだ、女学生が薬草を探しに来ても不思議でもないし、咎めるべきことでもない。ただ、我々には役割があって、この子たちを誰何するんだ、無用に威嚇することない」

「ハ」

「その子は大丈夫なのかい?」

「はい、すこし横になっていれば落ち着くと思います」

「きみは落ち着いているね、話を聞かせてもらってもいいだろうか?」

 お、俺に聞くな。

「その子の風体が、情報にあるのと近くてね、いや、具合が悪くて横になっているんだから、そんなことはないと思うんだけど、僕たちも役目だからね……」

 隊長!

 後ろの人相の悪い組頭風が前に出てくる。

「そこで言いなさい」

「ハ、自分は袁紹殿といっしょでしたので、分かります」

「なにが分かると言うんだい?」

「右のふくらはぎに見えるホクロがやつのといっしょです!」

「ホクロ? よく見てたいたね」

「はい、袁紹殿に切りかかってきたところを庇おうとして、一瞬の遅れをとりました。その折、跳躍したそいつの足が目の前を掠めて言ったので、はっきりと覚えております」

「そうか……しかし、見ての通り、この子は具合が悪いのだ、ここで問いただすのも酷だろう」

「顔を見れば分かります! あの時の阿修羅のような顔は忘れません!」

「む……そうまで言うならね、どうだろ、ここに居てもらちが明かないし、十分休ませることもできないだろう、僕たちの詰所まで運ばせるから、それからということで」

 ムム、孫策というやつ、ソフトに見えて、なかなか手ごわい。

「そんなことをしなくとも、ここで面体を改めれば、やつの面構えは忘れません!」

「お、おい」

 制止したが間に合わなかった風を装って組頭風が武蔵の顔にかけたハンカチをむしり取るのを看過する。

 なかなかの策士だ。

「「「あ!?」」」

 俺たちも、よく堪える。

「どうだった?」

 表情の読めない声で、孫策が聞く。

「べ、別人でした……」

「そうかい……すまない、部下が無体なことをした。この通りだ。では、僕たちは他を当ることにしようか。きみたち、もうしばらくしたら、ここいらは三国志の支配地になる。僕たちは先行の袁紹部隊のような乱暴はけしてしない。学校や知り合いの人たちに言っておいてくれるとありがたい。むろん、一般の人たちの生活や往来を制限することもしない……と、こんな完全武装の姿で言われてもだね、アハハ、じゃ気を付けて行きなさい。じゃ、みんな行くよ!」

 一様に頷くと、偵察隊は茂みの向こうへ行ってしまった。

「武蔵、もういいぞ」

「うう……」

「どうした、武蔵?」

「ずっと白目をむいていたらもどらなくなった……」

 ハンカチをとると、武蔵の目はバグったように白目で、口元が痙攣していた。

 笑いをこらえるのに、ちょっと苦労したぞ。



☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本武蔵        孤高の剣聖
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