鳴かぬなら 信長転生記

武者走走九郎or大橋むつお

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24『花を拾う』

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鳴かぬなら 信長転生記

24『花を拾う』  




 俺は高いところが好きだ。


 好きだと言っても、俺はバカでも煙でもない。

 想いを無限の空に飛ばして、天下布武を思う。

 などとキザを言うつもりもない。


 ただ、清々しいのがいいんだ。


 岐阜にしろ安土にしろ、山の上に天守を高々と築いたのは、ザックリ言って高いところが好きだからだ。

「お戯れを(^▽^)」

 などと都の公卿どもは言うが、バカと煙の例えを知っているからの追従にすぎない。

 都で御馬揃え……本能寺の前の年にやった盛大な軍事パレードのことだ。

 正親町(おうぎまち)天皇をお招きしたら「高きところは、まことに清々と心地よきものよのう」と喜んでおられた。

 わずか三間の高欄に過ぎなかったが、主上は空の高きも青さも分かっておいでであった。

 ぜひ、安土の天守にお招きしたいと心に誓って果たせなかったな……

 そんなことを思って、昼休みの屋上に立っていると、旧館横の庭で知った声がする。


 セイ! トウ! ヤー!


 見ると、茶道部の古田がナイフ片手に太刀まわりをしている。

 古田は華道部も兼ねているのだから、部活に使う花を切っていてもおかしくないのだが……。

 たかが花を刈るにはオーバーアクションだろう……。

 ナイフを小太刀のように正眼に構え、瞬間に気を貯めて「セイ!」「トウ!」と切りかかっている。

 まるで、剣術の稽古……あの太刀筋は見た事がある。

 威力はあるのだが、型や流れに重きを置きすぎ、十人の敵に向かうと、五人は華麗に倒すのだが、残る五人は取り逃がしてしまうという、実戦では、それほどの働きにはならない剣術だ。

 思い出した!

 俺は、階段を一気に駆け下りると、旧館の庭に向かった。


「佐吉!」


 幼名で呼んでやる。

「ヒ!?」

 猿が心臓発作を起こしたような声をあげて固まった。

「その無駄に華麗な太刀筋は、天下広しと云えど、俺の馬周り役の古田重然(ふるたしげなり)しかおらん、いや、懐かしいぞ。なんで古田(こだ)などと音読みにして身を偽っておった!?」

「い、いや、わたしは……ご、ごめん(;#'∀'#)!」

 ピューーーーー!

 刈り取った花をまき散らしながら、ダッシュで逃げていく。

 思い出した、最初に佐吉に感心したのは、あの足の速さであったぞ。


 苦笑していると後ろに気配。

 振り向くと利休が花を拾っている。


「やっと気づいたのね」

「知っていて言わなかったんだな」

「古田(こだ)……バレてるから織部でいいわね。信長くんには言わないでくれって、それでね……」

「変な奴だ」

「転生学園にパヴリィチェンコって鉄砲撃ちの子がいるんだけどね」

「ああ、こないだ公園で会った。狙撃309人の記録を伸ばすために転生を目指していると言っていたな、礼儀正しいが、ちょっと辛気臭い奴だった」

「文化祭に来たパヴリィチェンコに言われたのよ『おまえ、なんで学院にいるんだ』って」

「あの二人、知り合いなのか?」

「ううん、パヴリィチェンコは自分と同じニオイを感じたんでしょうね」

「そうなのか?」

「ええ、織部は『もっと美しいものに出会いたい』っていうのが信条だから『もっとたくさん撃ち殺したい』と重なるのね」

「佐吉には、口では言えん色気があるということか」

「うん、突き詰めると境目の難しい『学院』と『学園』だけど、そんなに難しく考えなくてもって、わたしなんかは思う」

「であるか」

「信長くんの家にも学園生がいるでしょ?」

「ああ、妹がな……知っているのか市のこと?」

「茶道って、人のうわさには鋭いのよ。まあ、大事にしてあげて」

「その花は使うのか?」

「ええ、花に罪は無い。それに、織部が切ったのは、どれも形がいいし、活けるタイミングがピッタリなの。こういうものを見る目は、わたしといい勝負。ただ、いったん地に落ちた花を使うのは、織部嫌がるから」

「利休は気にならないのか?」

「だって」

 花を拾う手を停めて、俺の顔を正面から見る利休。

「花は、元々地面から生えているものじゃない」

「それも『野にあるごとく』なのか?」

「ハハ、しぶちんの言い訳かもね(´∀`*)、じゃ、また部活で」

「あ、ああ」

 不覚にも、利休の後姿を美しいと思ってしまった。

 

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手

 
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