鳴かぬなら 信長転生記

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
23 / 192

23『女狙撃手パヴリィチェンコ』

しおりを挟む
鳴かぬなら 信長転生記

23『女狙撃手パヴリィチェンコ』  




 おい、何をしている!?


 振り返ったそいつは、一瞬戸惑ったような目をした。

 理由は分かっている。

 距離感が狂ってしまったんだ。

 俺の声は甲高い。普段は意識しないし、周囲の者も慣れているので戸惑いを見せる者はいない。

 気が高ぶった時や非常のときは、俺の声は、いっそう甲高く大きく聞こえてしまうので、実際の距離よりも近く感じてしまうのだ。

「上総介殿の声が間近に聞こえて、振り返ると意外に遠くにおわして驚きました」

 桶狭間の後で、久々に会った家康も言っておったな。

 杉谷善住坊以外にも何度か狙撃されたが、一発も当たらなかったのは、この声が距離感を誤らせたからかもしれない。

 
 そいつは、プラチナブロンドの髪に、抜けるように白い肌をしている。

 南蛮人とは違った人種なのか?

 整った顔をしているのだが、猛禽類のように鋭い目が美少女という属性を凌駕して、並の人間なら肝をつぶしてしまうほどの迫力を発散させている。

「妹に、なにか用か?」

「あなたは?」

「こいつの、あ……姉の信長だ」

 兄と言いかけて姉に直す、まだ順応しきれていないようだ。

「あなたが……」

「おまえは?」

「転生学園二年のリュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコです。わたしの銃を返してもらいにきました」

「おまえの銃?」

「はい、転生世界では実銃の所持を禁止されています。持ち込んだものはエアガンに変換されて、これが唯一残された自分の銃なのです」

「リュドミラ・ミ……イテ!」

 名前を言い損ねて市が舌を噛む。

「リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコだ」

「ああ、二年に転生した女性スナイパーがいるって……あんたのことだったの?」

「ああ」

「持っていたのは、カラミティー・ジェーンだったよ」

「あいつはガンマン捨てたから、銃は持ち込んでなかった。そのくせ、時どき無性に撃ちたくなって、わたしのを持っていくんだ」

「そうだったの、悪かったわね。ほら、返すわ」

「スパシーボ」

「あんた、ソ連のスナイパーよね?」

「あ、まあ……」

 目線を落とした……ちょっと興味が出て来たぞ。

「わけありのようだな?」

「わけなんかありません、ソ連と言う国は、もう存在しませんから」

「あ……ロシアだったか?」

「ロシアでもありません、ウクライナです。でも、次に転生するのはソ連です」

「ややこしい」

「自分は、ソ連軍の狙撃手として309人を仕留めました」

「たった一人で309人か!?」

「それって、ほとんど世界記録じゃないの!」

「目標は3000でした。今度転生したら3000人のドイツ兵を撃ち殺します」

「「サンゼン!?」」

「はい」

「……であるか」

「はい、では、失礼します」

「一つ聞きたい」

「なんでしょう?」

「俺のことを知っているようだったが」

「はい、長篠の合戦で鉄砲の威力を証明されました」

「ああ、あれか」

「評判でした。自分は、その対極から鉄砲の記録に迫ります。では……」

「励め」

 後姿のまま一礼すると、パヴリィチェンコは夕闇迫る街に消えて行った。

 今夜はフグ鍋にしよう。

 フグはてっぽうとも言うからな……。

 


☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...