鳴かぬなら 信長転生記

武者走走九郎or大橋むつお

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23『女狙撃手パヴリィチェンコ』

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鳴かぬなら 信長転生記

23『女狙撃手パヴリィチェンコ』  




 おい、何をしている!?


 振り返ったそいつは、一瞬戸惑ったような目をした。

 理由は分かっている。

 距離感が狂ってしまったんだ。

 俺の声は甲高い。普段は意識しないし、周囲の者も慣れているので戸惑いを見せる者はいない。

 気が高ぶった時や非常のときは、俺の声は、いっそう甲高く大きく聞こえてしまうので、実際の距離よりも近く感じてしまうのだ。

「上総介殿の声が間近に聞こえて、振り返ると意外に遠くにおわして驚きました」

 桶狭間の後で、久々に会った家康も言っておったな。

 杉谷善住坊以外にも何度か狙撃されたが、一発も当たらなかったのは、この声が距離感を誤らせたからかもしれない。

 
 そいつは、プラチナブロンドの髪に、抜けるように白い肌をしている。

 南蛮人とは違った人種なのか?

 整った顔をしているのだが、猛禽類のように鋭い目が美少女という属性を凌駕して、並の人間なら肝をつぶしてしまうほどの迫力を発散させている。

「妹に、なにか用か?」

「あなたは?」

「こいつの、あ……姉の信長だ」

 兄と言いかけて姉に直す、まだ順応しきれていないようだ。

「あなたが……」

「おまえは?」

「転生学園二年のリュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコです。わたしの銃を返してもらいにきました」

「おまえの銃?」

「はい、転生世界では実銃の所持を禁止されています。持ち込んだものはエアガンに変換されて、これが唯一残された自分の銃なのです」

「リュドミラ・ミ……イテ!」

 名前を言い損ねて市が舌を噛む。

「リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコだ」

「ああ、二年に転生した女性スナイパーがいるって……あんたのことだったの?」

「ああ」

「持っていたのは、カラミティー・ジェーンだったよ」

「あいつはガンマン捨てたから、銃は持ち込んでなかった。そのくせ、時どき無性に撃ちたくなって、わたしのを持っていくんだ」

「そうだったの、悪かったわね。ほら、返すわ」

「スパシーボ」

「あんた、ソ連のスナイパーよね?」

「あ、まあ……」

 目線を落とした……ちょっと興味が出て来たぞ。

「わけありのようだな?」

「わけなんかありません、ソ連と言う国は、もう存在しませんから」

「あ……ロシアだったか?」

「ロシアでもありません、ウクライナです。でも、次に転生するのはソ連です」

「ややこしい」

「自分は、ソ連軍の狙撃手として309人を仕留めました」

「たった一人で309人か!?」

「それって、ほとんど世界記録じゃないの!」

「目標は3000でした。今度転生したら3000人のドイツ兵を撃ち殺します」

「「サンゼン!?」」

「はい」

「……であるか」

「はい、では、失礼します」

「一つ聞きたい」

「なんでしょう?」

「俺のことを知っているようだったが」

「はい、長篠の合戦で鉄砲の威力を証明されました」

「ああ、あれか」

「評判でした。自分は、その対極から鉄砲の記録に迫ります。では……」

「励め」

 後姿のまま一礼すると、パヴリィチェンコは夕闇迫る街に消えて行った。

 今夜はフグ鍋にしよう。

 フグはてっぽうとも言うからな……。

 


☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ

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