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92『本選の合評会』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

92『本選の合評会』




 明くる十二月の半ばに本選の合評会がひらかれた。

 駅前の焼鳥屋さんのいい匂いを嗅ぎながら、会場のR高校に着いた。
 有数の私学だけあって、五階建ての立派な校舎がドデンとそびえている。

「昔は、蔦の絡まる、おもむきのある校舎やってんけどなあ」

 と、大橋先生は感慨深げ。

 会場は、これが視聴覚教室かと、ぶったまげるほど立派な劇場だった。
 さすがは演劇部が売りのR高校だ。

 合評会は、時間になっても、まだ到着しない学校があって少し遅れた。
 受付でもらったレジメを読む。

 ……頭に血がのぼった。

 審査員のコメントから、真田山学院高校を落としたポイントが完全に抜けていた。

 作品に血が通っていない。行動原理、思考回路が高校生ではない……どこを探してもない。

 それどころか、最後にはゴシック体で、こう書いてあった。

――審査の帰り道、電車の中でフト思った。真田山学院高校にもなんらかの賞をあげるべきだったかな……と。

 審査員が「賞をあげるべきであった」と思うのは「審査は間違いだった」と認めたことだ。

 さらに冷静に読むと、学校によってコメントの長さに大きな開きがある。短い学校は五行ほど、長い学校は二ページ近くある。生徒のわたしが見ても「イチジルシク教育的配慮」に欠けていた。

 横に座っている先生の表情が硬い。コンニャクが石になったみたい。

 こんな、おっかない顔の先生は初めてだ。

 十五分遅れて合評会がはじまった。

 出場校の全員が舞台にあがって自己紹介。司会はイケメンの実行委員の男の子。

 二校目で「あれ?」と思った。

 批判が一つも出ない。

「おつかれさま、とてもよかったです。衣装がとてもきれいでしたけど、どうやって作ったんですか?」

 などと、芝居の中味に触れた質問や批判などが、まるで出ない。

 国会の与党の質問でも、もっと鋭い。チョウチン発言ばかり。

 質問が無いと、あらかじめ用意されていた(なんたって、カンペ見てたもん)賞賛の言葉が、質問という形式で発せられる……。
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