はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

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84『枯葉と焼き芋の尻尾』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

84『枯葉と焼き芋の尻尾』



 帰りの電車は、大橋先生といっしょになった。

「前から、聞こうと思っていたんですけど……」
「なんや、女の趣味か?」
「違いますよ……以前先生は言ってたでしょ、真田山の演劇部の世話をするのは。メソードとか、マネージメントの実験だって。そのために、コンクールで一等賞をとるんだって」
「そんなことも言うたかなあ」
「もう、しらばっくれて」
「それが、どないかしたんか?」
「この半年、いっしょにやってもらって、なんだかそれだけじゃないような気がしてきたんです」
「どんな気ぃ?」
「それを、聞いてるんです!」

 その答えを聞くころ、わたしたちは玉串川の遊歩道を歩いていた。

 歩くにつれ、足許の落ち葉たちがシャワシャワと陽気な音をたてる。

 わたしは、五月に越してきた。あのころは一面の葉桜だった。
 あのころの桜の若葉が今は、枯れ葉になって、わたしの足に踏みしだかれていく。

「ほんまのとこは、オレにもよう分からへん……今の気持ちは、忘れ物を見つけたような気ぃやな」

「忘れ物……?」
「はるかやったら分かるやろ。荒川まで忘れ物とりに行ったんやさかい」
「……先生の忘れ物?」
「はるかのんとはちゃうけどな……そうとしか言えへんかなあ」
「それって、見果てぬ夢ですか?」

 わたしは、吉川先輩の言葉を思い出していた。だから否定してほしかった。

「そうかもしれん……かな」

 やっぱ、そうなのか……その気持ちを見透かしたように先生が立ち止まった。

「はるか、言うとくけどな、高校演劇いうのはお遊びやない。プロの予備校でもない。新劇とか、新派とか、歌舞伎とかと同じ演劇の一ジャンルやと思てる。しかし、一ジャンルにしては在り様が未熟や。なんちゅうか、ソシャゲのオフ会みたいな……マイナーで求心力の無いお祭り」

「……そうなんだ」

「ああ、やんぺ。これは説明するもんやない、実践するもんや」
「ですね……」

 そのときいい匂いがしてきた。

 先生が焼きイモを、おごってくれた。

「一本百円か……昔は、もうちょっと高かったけどな。味は……ホクホク(食べる音です)昔と変わらへんのにな」
「ホクホク……先生、じつは……」

 わたしは、由香に約束させられたNOZOMIプロの白羽さんのことを話した。

「そうか、吉川いうのんはそんな風に見とんねんな」
「ひどいでしょ」
「まあ、焼きイモの価値を値段だけで評価するようなもんやな」
「でしょ」
「そやけどな。もし、はるかにその気と才能があるんやったら、その話のってもええと思うで」
「先生……」

 わたしは、焼き芋の尻尾を持てあました。

「誤解すんなよ。オレは高校演劇をそんなイジケたもんやとは思てへん。あくまでジャンルの違いや。新劇の役者が映画にいくんと同じ感覚や。白羽さんのことはオレも、間接的には知ってる……けど、予備知識はいっさい言わへん。自分で判断しぃ」
「はい……」
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