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53『賑やかな合評会』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
53『賑やかな合評会』
明くる日は合評会、お菓子やジュースを並べ、観にきてくれた子も何人か交えて賑やかにやった。
「よかったよ!」「すごかったよ!」と、みんな褒めちぎってくれた。
ちぎって、ちぎって、ちぎり倒してちょうだい!
しかし……。
ちぎったお褒めの言葉を掃き散らすように、大橋先生は言った。
「合評会いうのんは、互いに批評する場所や。批評にはええことも悪いこともある」
「悪いとこなんかなかったですよ」
由香が異議をとなえた。
「そうでもない……」
先生は、記録に撮ったDVDを観ながら鋭く指摘した。不自然な力み。感情表現のフライング。ミザンセーヌ(舞台上での役者の立ち位置)が、稽古とは違ってしまい、かぶってしまったところ。心理的距離と物理的距離が合っていないことなど。
やっぱキビシイー……落ち込むよぅ。
「提案が一つある。合評会は元来、言いっぱなし、言われっぱなしでかめへん。せやけど出てきたアイデアは生かしたいと思う」
「アイデアて、まだなんにも出てないと思いますけど……」
タマちゃん先輩がおそるおそる言った。
「オレの頭には出てる。N音大からもろた譜面生かして挿入曲を増やそと思う。山中さんに譜面預けとくさかい、いけそうなん見つくろうてくれる。あんたの感覚は音大の学生並や……て、ひょっとして音大志望?」
「は、はい……一応」
みんな驚いた。山中先輩はスーパーガールだ!
「いや、山中さんだけやない。キミらやったらいけると思う。稽古の休憩中に唄てた歌聞いてていける思た。なあ、乙女先生」
「は……はい」
さっきから静かだと思ったら、乙女先生、顔が真っ青……。
ズルズルっと先生が椅子からくずおれた!
「乙女先生!」
救急車を呼んで、乙女先生は病院へ行った。大橋先生と、職員室に居合わせた竹内先生が付いていった。
わたしたちは、どうしていいか分からず、そのままプレゼンに全員が残った。わたしたちは、先生達の都合なんて考えもしなかった。
乙女先生には、要介護三のお母さんがいる。
知識としては知っていても、その大変さを想像したこともなかった。
先生は主婦であるとともに、要介護三のお母さんの娘であり、教師である。そして、その三つの立場には、またそれぞれわたしたちの想像もつかない事情や苦労があるんだ。
二三十分もたっただろうか、タロくん先輩のスマホが鳴った。
『オレや、乙女先生は大丈夫や。過労みたいやな。今は点滴やってる。で、よう聞けよ、これから一週間は部活休みにする。自分らも疲れてるやろ、オレも野暮用溜まってるさかいにな。あ、はるかと代わってくれるか』
「え、わたし?」
先生はトコさんのケータイ番号を聞いてきた。ケータイを持たない先生だから当然といえば当然なんだけど、なんでトコさんだったんだろう……。
幸い乙女先生は病院に一泊しただけで、無事に退院。自宅療養。
お見舞いを考えたんだけど、かえって先生の負担になるだろうと中止になった。
われわれも、それぐらいの想像はできるようにはなった。
53『賑やかな合評会』
明くる日は合評会、お菓子やジュースを並べ、観にきてくれた子も何人か交えて賑やかにやった。
「よかったよ!」「すごかったよ!」と、みんな褒めちぎってくれた。
ちぎって、ちぎって、ちぎり倒してちょうだい!
しかし……。
ちぎったお褒めの言葉を掃き散らすように、大橋先生は言った。
「合評会いうのんは、互いに批評する場所や。批評にはええことも悪いこともある」
「悪いとこなんかなかったですよ」
由香が異議をとなえた。
「そうでもない……」
先生は、記録に撮ったDVDを観ながら鋭く指摘した。不自然な力み。感情表現のフライング。ミザンセーヌ(舞台上での役者の立ち位置)が、稽古とは違ってしまい、かぶってしまったところ。心理的距離と物理的距離が合っていないことなど。
やっぱキビシイー……落ち込むよぅ。
「提案が一つある。合評会は元来、言いっぱなし、言われっぱなしでかめへん。せやけど出てきたアイデアは生かしたいと思う」
「アイデアて、まだなんにも出てないと思いますけど……」
タマちゃん先輩がおそるおそる言った。
「オレの頭には出てる。N音大からもろた譜面生かして挿入曲を増やそと思う。山中さんに譜面預けとくさかい、いけそうなん見つくろうてくれる。あんたの感覚は音大の学生並や……て、ひょっとして音大志望?」
「は、はい……一応」
みんな驚いた。山中先輩はスーパーガールだ!
「いや、山中さんだけやない。キミらやったらいけると思う。稽古の休憩中に唄てた歌聞いてていける思た。なあ、乙女先生」
「は……はい」
さっきから静かだと思ったら、乙女先生、顔が真っ青……。
ズルズルっと先生が椅子からくずおれた!
「乙女先生!」
救急車を呼んで、乙女先生は病院へ行った。大橋先生と、職員室に居合わせた竹内先生が付いていった。
わたしたちは、どうしていいか分からず、そのままプレゼンに全員が残った。わたしたちは、先生達の都合なんて考えもしなかった。
乙女先生には、要介護三のお母さんがいる。
知識としては知っていても、その大変さを想像したこともなかった。
先生は主婦であるとともに、要介護三のお母さんの娘であり、教師である。そして、その三つの立場には、またそれぞれわたしたちの想像もつかない事情や苦労があるんだ。
二三十分もたっただろうか、タロくん先輩のスマホが鳴った。
『オレや、乙女先生は大丈夫や。過労みたいやな。今は点滴やってる。で、よう聞けよ、これから一週間は部活休みにする。自分らも疲れてるやろ、オレも野暮用溜まってるさかいにな。あ、はるかと代わってくれるか』
「え、わたし?」
先生はトコさんのケータイ番号を聞いてきた。ケータイを持たない先生だから当然といえば当然なんだけど、なんでトコさんだったんだろう……。
幸い乙女先生は病院に一泊しただけで、無事に退院。自宅療養。
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われわれも、それぐらいの想像はできるようにはなった。
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