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48『早く稽古に来てみると』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
48『早く稽古に来てみると』
「ナイスお下げ!」
この一発から稽古が始まった。
てか、自主練やるために、わたしは一時間も早く学校に来た。そしたら、プレゼンの前で、大橋先生が中庭のソフトボール部の練習を見ていた。
この先生は退屈を知らない。放っておくと、何かしら人を見ている。
時々「ホウ」とか「ヘエ」とか「ナルホド」とか呟いている。
ソフボの子たちは、ウォーミングアップのため、ユニフォームではなく、ハーパンにTシャツ。それに日陰とは言え、もう八月。汗だくだ。
見る人が見れば、ただの不審者。
「先生、早いんですね」
プレゼンを開けて、エアコンをつける。
ズゥィ~~~~~ン
効きの遅いエアコン、音だけは一人前の開始音。
「乙女さんはお母さんの介護やろなあ、まだ来てへん」
「ケータイ買えばいいのに」
「死んでもイヤ! それに、こういう偶然の出会いもあるしな」
ソフボの子たちを見ていたとは言わない……。
「お下げにはしてほしかったんやけど、今時の子ぉは嫌がる思て言いそびれてた」
「トコさんには、一ヶ月前からメガネかけさせたんでしょ」
「え、トコ知ってんのか!?」
「昨日、志忠屋でいっしょでした」
「ええオバハンになっとったやろ」
「ううん、とってもキャリアでナイスなオネエサンでしたよ」
「そうか、キャリアか、あいつもドラマチックな青春しとったさかいにな」
「ロマンスの多い人だったんですか」
女子高生としては、しごく当たり前の想像をした。
「それもあるけどな、あいつはいっつも、人生の最前線におらんと収まらん性分でな」
「人生の最前線?」
「もとは高校卒業してS銀行に行きよった。あ、今のMS銀行」
「MS銀行!? 大卒でもめったに入れませんよ!」
「まあ、時代がちゃうけどな、学年でもピカイチやった。芝居は……まあ、それなりやったけどな」
「でも、今は理学療法士さんでしたよ」
「ああ、ある災害事故で、ボランティアに行きよってな。MS銀行にはボランティア休暇があってな。で、そこで偉いドクターと運命の出会いをしよった」
「あ、そこでロマンスが!?」
「話は最後まで聞け」
ポコン
台本で頭を刺激された、我ながらいい音がした。
「ドクターは女医さんや」
「なんだ」
「その女医さん、ガンに侵されてはってな、そんな自分の病気はほっといて働いてはった。ほんでいろいろあって、トコは、その女医さんの最後を看取りよった……それで、人生の大転換。オレにも多くは語りよれへんけど……」
ブワ~~~
エアコンがアイドリングを終えて冷気を吐き始めた。
「そのお下げ、トコが言いよったんか?」
「まあ、そうかな。トコさんが台本を見て、メガネの話になって、由香とお母さんがノっちゃって」
「うん……まだ取って付けたみたいやなあ」
「自分でもそう思います」
「これに着替えといで」
紙袋を渡された。中味はセーラー服……!
「ウッ……なんでこんなもん持ってんですか!?」
「そんな変態オヤジ見るような目ぇで見るなよ。昔、劇団持ってたから、そのころのん見つくろうてきた。他にもいろいろ入ってるやろ」
なるほど、よく見ると、モンペや防空ずきんなどが入っていた。準備室で着替えて、鏡に映してみた。
カオルがそこには居た……やっとアイドリングだけどね。
48『早く稽古に来てみると』
「ナイスお下げ!」
この一発から稽古が始まった。
てか、自主練やるために、わたしは一時間も早く学校に来た。そしたら、プレゼンの前で、大橋先生が中庭のソフトボール部の練習を見ていた。
この先生は退屈を知らない。放っておくと、何かしら人を見ている。
時々「ホウ」とか「ヘエ」とか「ナルホド」とか呟いている。
ソフボの子たちは、ウォーミングアップのため、ユニフォームではなく、ハーパンにTシャツ。それに日陰とは言え、もう八月。汗だくだ。
見る人が見れば、ただの不審者。
「先生、早いんですね」
プレゼンを開けて、エアコンをつける。
ズゥィ~~~~~ン
効きの遅いエアコン、音だけは一人前の開始音。
「乙女さんはお母さんの介護やろなあ、まだ来てへん」
「ケータイ買えばいいのに」
「死んでもイヤ! それに、こういう偶然の出会いもあるしな」
ソフボの子たちを見ていたとは言わない……。
「お下げにはしてほしかったんやけど、今時の子ぉは嫌がる思て言いそびれてた」
「トコさんには、一ヶ月前からメガネかけさせたんでしょ」
「え、トコ知ってんのか!?」
「昨日、志忠屋でいっしょでした」
「ええオバハンになっとったやろ」
「ううん、とってもキャリアでナイスなオネエサンでしたよ」
「そうか、キャリアか、あいつもドラマチックな青春しとったさかいにな」
「ロマンスの多い人だったんですか」
女子高生としては、しごく当たり前の想像をした。
「それもあるけどな、あいつはいっつも、人生の最前線におらんと収まらん性分でな」
「人生の最前線?」
「もとは高校卒業してS銀行に行きよった。あ、今のMS銀行」
「MS銀行!? 大卒でもめったに入れませんよ!」
「まあ、時代がちゃうけどな、学年でもピカイチやった。芝居は……まあ、それなりやったけどな」
「でも、今は理学療法士さんでしたよ」
「ああ、ある災害事故で、ボランティアに行きよってな。MS銀行にはボランティア休暇があってな。で、そこで偉いドクターと運命の出会いをしよった」
「あ、そこでロマンスが!?」
「話は最後まで聞け」
ポコン
台本で頭を刺激された、我ながらいい音がした。
「ドクターは女医さんや」
「なんだ」
「その女医さん、ガンに侵されてはってな、そんな自分の病気はほっといて働いてはった。ほんでいろいろあって、トコは、その女医さんの最後を看取りよった……それで、人生の大転換。オレにも多くは語りよれへんけど……」
ブワ~~~
エアコンがアイドリングを終えて冷気を吐き始めた。
「そのお下げ、トコが言いよったんか?」
「まあ、そうかな。トコさんが台本を見て、メガネの話になって、由香とお母さんがノっちゃって」
「うん……まだ取って付けたみたいやなあ」
「自分でもそう思います」
「これに着替えといで」
紙袋を渡された。中味はセーラー服……!
「ウッ……なんでこんなもん持ってんですか!?」
「そんな変態オヤジ見るような目ぇで見るなよ。昔、劇団持ってたから、そのころのん見つくろうてきた。他にもいろいろ入ってるやろ」
なるほど、よく見ると、モンペや防空ずきんなどが入っていた。準備室で着替えて、鏡に映してみた。
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