43 / 95
43『なぜか実況中継の練習』
しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月
43『なぜか実況中継の練習』
グラウンドは無対象のトスバレー以来だ。懐かしい。で、暑い……!
「なにするんですか?」
早くも汗をにじませて、タロくん先輩が言った。
「実況中継をやる」
「え?」
「手ぇにマイク持ったつもりで、目ぇに見えたもんを解説する。まず見本やるから、よう見とけ」
先生は実況中継を始めた。
「晴れ渡った空に、むくむくと入道雲。積乱雲と表現するより、ずっと夏を感じさせる言葉ではあります。ここに蚊取り線香。ヒエヒエのスイカ。風鈴なんかがチリンと音を響かせますと、立派に夏の道具立てが揃い、あっぱれ『ああ、日本の夏』の風情であります。目をおもむろに下ろしますと、一面のグラウンドに、部活に励む生徒諸君の姿が(長いので割愛します)……と、Y高校、真夏のグラウンドからの実況でありました」
なんと十分間も。思わず拍手! 休憩中の女子バレーの子たちもいっしょになっていた。
「どうもありがとう(女バレの子たちにお愛想)いいかい君たち……あかん、標準語のままや。オホン、ええか。観察しながら、見たこと、感じたことを言葉に置き換えて、同時に話す。テンポとか聞いてる視聴者、ここでは君らやけどな。その反応も見ながら話題を変えていく。簡単に言うたら、演じる自分と、それを観察してコントロールする自分と二人要る。基本的にはアナウンサーの練習やけど、役者の練習にもなる。今の自分らの芝居はコントロールができてない。ほな、はるかからいこか」
「え、わたしですか?」
「ほかに、はるかはおらん」
なんとか一分はもった。
目をグラウンドから、校舎に目をやったところで、詰まってしまった。二階の窓に吉川先輩「あとで……」と口パク。
先輩二人も、二分と持たなかった。
「栄恵ちゃんおったら、このレッスン喜んでやったやろねえ、アナウンサー志望やさかいに」
タマちゃん先輩が、まぶしそうに空を見上げた。
「お母さん、早よようなったらええのにな」
時刻表のように精密な出欠表を見ながら、タロくん先輩がため息をついた。
吉川先輩の口パクが無ければ、もう二三分はもったのに、とわたしは負け惜しみ。
午後の稽古では「感情に飛びつくな」と注意された。笑うところで、笑ったら「笑うな!」と言われた。
「人間、笑おと思て、笑うんは『お愛想笑い』だけや。そんなんシラコイやろ。はるか、おまえはカオルや、スミレがシンパシー(共感てな意味)感じて、呼吸がいっしょになる。ほんで初めて喜びやら、はしゃぎに繋がって笑いになる。出会いのとこは七十何年ぶりに生きた人間と話して、それも、狙い付けてたスミレと話せたことでびっくりして笑いになるんや」
「どうしたら……」
「とりあえず、自分の台詞は忘れろ(せっかく覚えたのにー)。そんでスミレの言葉を聞け。そしたら自然に笑いがこみ上げてくる」
雲をつかむような話。よくわからなかった。
「それから、香盤表と付け帳。舞台で使う衣装やら小道具を書く。一応必要なもんはプリントにしといた。これ参考に書いといで」
これはよく分かった。
「それから、はるか」
「はい?」
「……もうええわ」
先生は、わたしの顔を見て、何か言おうとしてやめた。
「先生、ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした」
お決まりの挨拶をして、帰り支度をしていると、先生が思い出したように言った。
「今日、ドラマフェスタの最終日やな。だれか行ってこいよ小屋はPホールや近鉄沿線のもんが行きやすいぞ」
「ボク今日は、家族と出かけますねん」
U駅近くのタロくん先輩が予防線を張った。
「じゃ、わたし行きます。近所のホールだし」
これで五本目。クラブの中でも一番たくさん観ている。だから気軽に手が上がった。
「はるか、観るんやったら、台詞をしゃべってない役者見とけ。オレの言うてることが、ちょっとはわかる」
「はい……?」
43『なぜか実況中継の練習』
グラウンドは無対象のトスバレー以来だ。懐かしい。で、暑い……!
「なにするんですか?」
早くも汗をにじませて、タロくん先輩が言った。
「実況中継をやる」
「え?」
「手ぇにマイク持ったつもりで、目ぇに見えたもんを解説する。まず見本やるから、よう見とけ」
先生は実況中継を始めた。
「晴れ渡った空に、むくむくと入道雲。積乱雲と表現するより、ずっと夏を感じさせる言葉ではあります。ここに蚊取り線香。ヒエヒエのスイカ。風鈴なんかがチリンと音を響かせますと、立派に夏の道具立てが揃い、あっぱれ『ああ、日本の夏』の風情であります。目をおもむろに下ろしますと、一面のグラウンドに、部活に励む生徒諸君の姿が(長いので割愛します)……と、Y高校、真夏のグラウンドからの実況でありました」
なんと十分間も。思わず拍手! 休憩中の女子バレーの子たちもいっしょになっていた。
「どうもありがとう(女バレの子たちにお愛想)いいかい君たち……あかん、標準語のままや。オホン、ええか。観察しながら、見たこと、感じたことを言葉に置き換えて、同時に話す。テンポとか聞いてる視聴者、ここでは君らやけどな。その反応も見ながら話題を変えていく。簡単に言うたら、演じる自分と、それを観察してコントロールする自分と二人要る。基本的にはアナウンサーの練習やけど、役者の練習にもなる。今の自分らの芝居はコントロールができてない。ほな、はるかからいこか」
「え、わたしですか?」
「ほかに、はるかはおらん」
なんとか一分はもった。
目をグラウンドから、校舎に目をやったところで、詰まってしまった。二階の窓に吉川先輩「あとで……」と口パク。
先輩二人も、二分と持たなかった。
「栄恵ちゃんおったら、このレッスン喜んでやったやろねえ、アナウンサー志望やさかいに」
タマちゃん先輩が、まぶしそうに空を見上げた。
「お母さん、早よようなったらええのにな」
時刻表のように精密な出欠表を見ながら、タロくん先輩がため息をついた。
吉川先輩の口パクが無ければ、もう二三分はもったのに、とわたしは負け惜しみ。
午後の稽古では「感情に飛びつくな」と注意された。笑うところで、笑ったら「笑うな!」と言われた。
「人間、笑おと思て、笑うんは『お愛想笑い』だけや。そんなんシラコイやろ。はるか、おまえはカオルや、スミレがシンパシー(共感てな意味)感じて、呼吸がいっしょになる。ほんで初めて喜びやら、はしゃぎに繋がって笑いになる。出会いのとこは七十何年ぶりに生きた人間と話して、それも、狙い付けてたスミレと話せたことでびっくりして笑いになるんや」
「どうしたら……」
「とりあえず、自分の台詞は忘れろ(せっかく覚えたのにー)。そんでスミレの言葉を聞け。そしたら自然に笑いがこみ上げてくる」
雲をつかむような話。よくわからなかった。
「それから、香盤表と付け帳。舞台で使う衣装やら小道具を書く。一応必要なもんはプリントにしといた。これ参考に書いといで」
これはよく分かった。
「それから、はるか」
「はい?」
「……もうええわ」
先生は、わたしの顔を見て、何か言おうとしてやめた。
「先生、ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした」
お決まりの挨拶をして、帰り支度をしていると、先生が思い出したように言った。
「今日、ドラマフェスタの最終日やな。だれか行ってこいよ小屋はPホールや近鉄沿線のもんが行きやすいぞ」
「ボク今日は、家族と出かけますねん」
U駅近くのタロくん先輩が予防線を張った。
「じゃ、わたし行きます。近所のホールだし」
これで五本目。クラブの中でも一番たくさん観ている。だから気軽に手が上がった。
「はるか、観るんやったら、台詞をしゃべってない役者見とけ。オレの言うてることが、ちょっとはわかる」
「はい……?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女難の男、アメリカを行く
灰色 猫
ライト文芸
本人の気持ちとは裏腹に「女にモテる男」Amato Kashiragiの青春を描く。
幼なじみの佐倉舞美を日本に残して、アメリカに留学した海人は周りの女性に振り回されながら成長していきます。
過激な性表現を含みますので、不快に思われる方は退出下さい。
背景のほとんどをアメリカの大学で描いていますが、留学生から聞いた話がベースとなっています。
取材に基づいておりますが、ご都合主義はご容赦ください。
実際の大学資料を参考にした部分はありますが、描かれている大学は作者の想像物になっております。
大学名に特別な意図は、ございません。
扉絵はAI画像サイトで作成したものです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる