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42『本番まで一ヶ月ちょっと』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
42『本番まで一ヶ月ちょっと』
「ダルマサンガコロンダ、今日はしないの?」
「あの芝居中止になった……」
「なんでぇ!? お母さん楽しみにしてたんだよ。はるかの初舞台」
「出られない子が、三人出ちゃって……」
「その子たち、バイトでしょ?」
「家庭事情って子もいるよ」
「ほら、バイトの子もいるんだ。でしょ?」
「……これ、代わりにやる本」
「ん……『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』どれどれ……」
お母さんは、それまで読んでいた旅行案内を置いて熟読しはじめた。
手持ちぶさた。アクビ一つして、ベランダの向こうの空を見上げる……。
あ、流れ星……!
とっさにつぶやいて、願い事……間に合わない(くそ!)
「この本、おもしろい。わたし好きよ、こういう切ないファンタジー。それに、はるかの台詞多いじゃん。まさか主役!?」
「ん……準が付くけど」
「ハハ、去年の学園祭も準だったよね」
「どうせわたしは、一等賞にはなれない子なんです」
「ひがむなひがむな……そうだ、来週発表だよ!」
「なにが?」
「ジュニア文芸。ノミネートされてんでしょ?」
「なんで知ってんの!?」
「商売道具だけじゃないのよ、パソコンは。ね、お願いしとこうよ目玉オヤジサマにさ」
「だって、あれは……」
「いいから、いいから」
久々に仰ぎ見る目玉オヤジ大権現……ウソ、後光が差している!
と、思ったら。赤、白、青の光がしずしずと……伊丹空港に降りようとする飛行機。これもなにかの瑞兆(ずいちょう)かと手を合わせた。
どこかにマサカドクンの気配……気づくと、エアコンの室外機の上で、いっしょに振動しながら手を合わせておりました。
翌週、稽古はいきなり佳境に入った。本番まで一ヶ月ちょっとしかない。
「毎日、稽古やりましょ!」
乙女先生の鼻息は荒かった。
「まあ、ぼちぼちで、いきましょ」
あいあかわらずのコンニャク顔。
「ほんまは、季節が一回替わるぐらいのスパンが欲しいんですけどね」
「ほんなら、なおのこと……」
「まあ、最短で芝居仕上げた新記録目指しましょ。オレの記録は二十五日やから……二十四日。これでいきましょ」
「そんなアホな……」
わたしたちも同感だった。
「本気やで、かつ統計的に出した合理的な日数や。ここに居てる三人。まあ、お手伝いさんの山中さんは置いといて、平均出席率は0・九や。これを三回かけて0・七、これに残りの日数三十八をかけて……なんぼや、タロくん?」
「えーと……二十六・六です」
「これに、乙女先生の介護の日ぃとか、考えると妥当な線やと思いますよ」
「「「「……」」」」
「試しに、一回、日程組んでみよか。タマちゃん、ホワイトボ-ドにカレンダー書いてくれる。で、みんな都合の悪い日入れてみい」
書き入れてみるとみんな二三日都合の悪い日が出てきた。
「他に、教員採用試験の会場になってるから、一日。電気点検で、半日使われへん日ぃがありますね」
なるほど、二十四・五日という日数になった。
「これで、日に五時間の稽古として……」
「百二十時間です」
タロくん先輩が即答した。
かくして、わたしたちの百二十時間が始まった。
気合いが入っていたので、台詞は四日で入った。エッヘン!
でも、演出の手が入ると、とたんに台詞は怪しくなる、なんで!?
「台詞は、機械的に、感情抜きで覚える。そやないと、解釈が変わったり、相手の芝居が変わったりしたら、すぐに抜ける」
五日目、台詞は完ぺき。早くも芝居らしくなってきた。
「あかんあかん、芝居が走ってる。それにガナリすぎ。自分をコントロールでけてへん。昼メシ食べたら、グランド集合!」
42『本番まで一ヶ月ちょっと』
「ダルマサンガコロンダ、今日はしないの?」
「あの芝居中止になった……」
「なんでぇ!? お母さん楽しみにしてたんだよ。はるかの初舞台」
「出られない子が、三人出ちゃって……」
「その子たち、バイトでしょ?」
「家庭事情って子もいるよ」
「ほら、バイトの子もいるんだ。でしょ?」
「……これ、代わりにやる本」
「ん……『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』どれどれ……」
お母さんは、それまで読んでいた旅行案内を置いて熟読しはじめた。
手持ちぶさた。アクビ一つして、ベランダの向こうの空を見上げる……。
あ、流れ星……!
とっさにつぶやいて、願い事……間に合わない(くそ!)
「この本、おもしろい。わたし好きよ、こういう切ないファンタジー。それに、はるかの台詞多いじゃん。まさか主役!?」
「ん……準が付くけど」
「ハハ、去年の学園祭も準だったよね」
「どうせわたしは、一等賞にはなれない子なんです」
「ひがむなひがむな……そうだ、来週発表だよ!」
「なにが?」
「ジュニア文芸。ノミネートされてんでしょ?」
「なんで知ってんの!?」
「商売道具だけじゃないのよ、パソコンは。ね、お願いしとこうよ目玉オヤジサマにさ」
「だって、あれは……」
「いいから、いいから」
久々に仰ぎ見る目玉オヤジ大権現……ウソ、後光が差している!
と、思ったら。赤、白、青の光がしずしずと……伊丹空港に降りようとする飛行機。これもなにかの瑞兆(ずいちょう)かと手を合わせた。
どこかにマサカドクンの気配……気づくと、エアコンの室外機の上で、いっしょに振動しながら手を合わせておりました。
翌週、稽古はいきなり佳境に入った。本番まで一ヶ月ちょっとしかない。
「毎日、稽古やりましょ!」
乙女先生の鼻息は荒かった。
「まあ、ぼちぼちで、いきましょ」
あいあかわらずのコンニャク顔。
「ほんまは、季節が一回替わるぐらいのスパンが欲しいんですけどね」
「ほんなら、なおのこと……」
「まあ、最短で芝居仕上げた新記録目指しましょ。オレの記録は二十五日やから……二十四日。これでいきましょ」
「そんなアホな……」
わたしたちも同感だった。
「本気やで、かつ統計的に出した合理的な日数や。ここに居てる三人。まあ、お手伝いさんの山中さんは置いといて、平均出席率は0・九や。これを三回かけて0・七、これに残りの日数三十八をかけて……なんぼや、タロくん?」
「えーと……二十六・六です」
「これに、乙女先生の介護の日ぃとか、考えると妥当な線やと思いますよ」
「「「「……」」」」
「試しに、一回、日程組んでみよか。タマちゃん、ホワイトボ-ドにカレンダー書いてくれる。で、みんな都合の悪い日入れてみい」
書き入れてみるとみんな二三日都合の悪い日が出てきた。
「他に、教員採用試験の会場になってるから、一日。電気点検で、半日使われへん日ぃがありますね」
なるほど、二十四・五日という日数になった。
「これで、日に五時間の稽古として……」
「百二十時間です」
タロくん先輩が即答した。
かくして、わたしたちの百二十時間が始まった。
気合いが入っていたので、台詞は四日で入った。エッヘン!
でも、演出の手が入ると、とたんに台詞は怪しくなる、なんで!?
「台詞は、機械的に、感情抜きで覚える。そやないと、解釈が変わったり、相手の芝居が変わったりしたら、すぐに抜ける」
五日目、台詞は完ぺき。早くも芝居らしくなってきた。
「あかんあかん、芝居が走ってる。それにガナリすぎ。自分をコントロールでけてへん。昼メシ食べたら、グランド集合!」
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