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35『たこ焼きホロホロ』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
35『たこ焼きホロホロ』
「ハ……ハ……ハ……ハーックチュン!」
案の定、風邪をひいてしまった。
熱いシャワーを浴び、身ぐるみ着替え葛根湯を飲んだ。
「あ、制服乾かさなきゃ」
濡れた制服をバスタオルで挟んで、半分くらいの水分をとり、体育座りしてドライヤーで乾かす。
モワーっと、やな臭いが湯気とともに立ちこめる。
制服って、見かけよりずっと汚れている。まだ二ヶ月足らずなのに……。
臭いとともに、慶沢園でのことが思い出される。
吉川先輩の言うことは、表現はともかく、断片としては正しいことが多かった。
でも、全体として受けるメッセージは、ちょっとね(^_^;)。
お母さんは「案外、はるかと同類かもよ」って言う。
吉川先輩は、大阪弁と標準語ってか横浜弁を使い分けている。まあ、向こうは中学入学と同時に大阪に来たんだから、当たり前……この当たり前には、それ相当の苦い経験もあったんだろうけど。わたしは「大阪くんだり」とは言えない。
だって、由香を筆頭にかけがえのない大阪の人たちがいる……。
気がつくと、マサカドクンが同じ姿勢でドライヤーをかける仕草。よく見ると、手にはドライヤーを持っていないのに、当てているところからは、小さな湯気が立っている。
そう言えば、菓子箱の湯船で「ポッカーン」をやっていたときも、お湯もないのに泡がたっていたっけ……でも、どうしてわたしの真似をするようになったんだろう。
テストは、三日目の数学でコケた。
「はずれたね、ヤマ」
帰り支度をして、すぐ横の由香に話しかけた(テストのときは、出席簿順なので、由香が真横にくる。部活以外は単調になってきた学校生活のささやかな喜び)
「ごめんな、あたしの読みが甘かった」
「そんなことないよ、二人で張ったヤマだもん」
「せやけど、はるかは転校してきて最初のテスト。あたしは、ここで七回目のテストやのに」
「わたしも、東京から数えたら七回目だよ」
「せやけど、ほんまにごめん」
由香の「ごめん」は、校門を出るときには六回目になっていた。
「このごろの由香『ごめん』て言い過ぎだよ」
「そうかな、ごめん」
「まただ、テストと同じ数になった」
駅前のタコ焼き屋さんに行くまで、由香は無口だった。
わたしが三つ目のタコ焼きを、口の中でホロホロさせて(やっと、大阪の子並にできるようになった)いるときに、由香は重い口を開いた。もっともタコ焼きは食べ終わっていたけど。
「あたし、吉川先輩にニアミスし始めてんねん……」
「え……?」
「ねねちゃんのことで、いろいろ話してるうちに……気ぃついたら……」
「好きになっちゃった?」
「せやけど、吉川先輩は、はるかの彼氏やんか。あたし、心にいっぱい鍵かけてんねん。せやけど、せやねんけど、毎日鍵がポロって、はずれていくねん……」
「なんだ、そんなことか……」
「え?」
うかつに、わたしは四つ目のタコ焼きを頬ばってしまった。
由香のすがりつくような眼差し。
早く食べなくっちゃと、ホロホロ口の中で、タコ焼きを転がす。
熱くて、なかなか噛めない……涙がでてきた。
「ごめん、ごめんな。はるか」
「いいよ、いいんらよ、そんなふぉろ」
ゴックン
やっと飲み込んだ。
「そやかて、そんなに涙浮かべて……タコ焼きかて、まだ二つ残ってる」
「これ、一個づつ食べよう」
「食欲なくなってきたん?」
「違う。話ができないから」
二人で、ホロホロ、ホロホロ……やっぱし、由香の方が食べるのが早く。見つめる視線がおかしく、少し痛かった。
「わたしの彼なんかじゃないからね、吉川先輩は」
「え?」
「つき合ってはいるけど、ワンノブゼムよ。たくさん居る友だち(実は、そんなに居ないんだけど)の一人。由香より浅いつき合いよ」
「そんな、あたしに気ぃつかわんでもええねんよ。はるかが『あかん』言うたら、今やったらあきらめられるし!」
由香に分かってもらえたのは、架線事故で十五分遅れで電車がホームに入ってきたところだった。
わたしは事故に感謝した(他の乗客の人には申し訳なかったけど)
電車の中で話せるようなことじゃないもんね。
でも、わたしが吉川先輩に持っている微かな、感性というか感覚の違いは言わなかった。
説明がむつかしいし、変な予断を与えることにもなるもんね。
しかし、遅着ですし詰めの電車はまるでサウナ。ゲンナリだった。
でも。胸のつかえがとれた由香は気にもならない様子。
まあ「めでたし、めでたし」ということにしておこう……。
35『たこ焼きホロホロ』
「ハ……ハ……ハ……ハーックチュン!」
案の定、風邪をひいてしまった。
熱いシャワーを浴び、身ぐるみ着替え葛根湯を飲んだ。
「あ、制服乾かさなきゃ」
濡れた制服をバスタオルで挟んで、半分くらいの水分をとり、体育座りしてドライヤーで乾かす。
モワーっと、やな臭いが湯気とともに立ちこめる。
制服って、見かけよりずっと汚れている。まだ二ヶ月足らずなのに……。
臭いとともに、慶沢園でのことが思い出される。
吉川先輩の言うことは、表現はともかく、断片としては正しいことが多かった。
でも、全体として受けるメッセージは、ちょっとね(^_^;)。
お母さんは「案外、はるかと同類かもよ」って言う。
吉川先輩は、大阪弁と標準語ってか横浜弁を使い分けている。まあ、向こうは中学入学と同時に大阪に来たんだから、当たり前……この当たり前には、それ相当の苦い経験もあったんだろうけど。わたしは「大阪くんだり」とは言えない。
だって、由香を筆頭にかけがえのない大阪の人たちがいる……。
気がつくと、マサカドクンが同じ姿勢でドライヤーをかける仕草。よく見ると、手にはドライヤーを持っていないのに、当てているところからは、小さな湯気が立っている。
そう言えば、菓子箱の湯船で「ポッカーン」をやっていたときも、お湯もないのに泡がたっていたっけ……でも、どうしてわたしの真似をするようになったんだろう。
テストは、三日目の数学でコケた。
「はずれたね、ヤマ」
帰り支度をして、すぐ横の由香に話しかけた(テストのときは、出席簿順なので、由香が真横にくる。部活以外は単調になってきた学校生活のささやかな喜び)
「ごめんな、あたしの読みが甘かった」
「そんなことないよ、二人で張ったヤマだもん」
「せやけど、はるかは転校してきて最初のテスト。あたしは、ここで七回目のテストやのに」
「わたしも、東京から数えたら七回目だよ」
「せやけど、ほんまにごめん」
由香の「ごめん」は、校門を出るときには六回目になっていた。
「このごろの由香『ごめん』て言い過ぎだよ」
「そうかな、ごめん」
「まただ、テストと同じ数になった」
駅前のタコ焼き屋さんに行くまで、由香は無口だった。
わたしが三つ目のタコ焼きを、口の中でホロホロさせて(やっと、大阪の子並にできるようになった)いるときに、由香は重い口を開いた。もっともタコ焼きは食べ終わっていたけど。
「あたし、吉川先輩にニアミスし始めてんねん……」
「え……?」
「ねねちゃんのことで、いろいろ話してるうちに……気ぃついたら……」
「好きになっちゃった?」
「せやけど、吉川先輩は、はるかの彼氏やんか。あたし、心にいっぱい鍵かけてんねん。せやけど、せやねんけど、毎日鍵がポロって、はずれていくねん……」
「なんだ、そんなことか……」
「え?」
うかつに、わたしは四つ目のタコ焼きを頬ばってしまった。
由香のすがりつくような眼差し。
早く食べなくっちゃと、ホロホロ口の中で、タコ焼きを転がす。
熱くて、なかなか噛めない……涙がでてきた。
「ごめん、ごめんな。はるか」
「いいよ、いいんらよ、そんなふぉろ」
ゴックン
やっと飲み込んだ。
「そやかて、そんなに涙浮かべて……タコ焼きかて、まだ二つ残ってる」
「これ、一個づつ食べよう」
「食欲なくなってきたん?」
「違う。話ができないから」
二人で、ホロホロ、ホロホロ……やっぱし、由香の方が食べるのが早く。見つめる視線がおかしく、少し痛かった。
「わたしの彼なんかじゃないからね、吉川先輩は」
「え?」
「つき合ってはいるけど、ワンノブゼムよ。たくさん居る友だち(実は、そんなに居ないんだけど)の一人。由香より浅いつき合いよ」
「そんな、あたしに気ぃつかわんでもええねんよ。はるかが『あかん』言うたら、今やったらあきらめられるし!」
由香に分かってもらえたのは、架線事故で十五分遅れで電車がホームに入ってきたところだった。
わたしは事故に感謝した(他の乗客の人には申し訳なかったけど)
電車の中で話せるようなことじゃないもんね。
でも、わたしが吉川先輩に持っている微かな、感性というか感覚の違いは言わなかった。
説明がむつかしいし、変な予断を与えることにもなるもんね。
しかし、遅着ですし詰めの電車はまるでサウナ。ゲンナリだった。
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