はるか ワケあり転校生の7カ月 (まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 姉妹作)

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
31 / 95

31『香盤表(こうばんひょう)』

しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月

31『香盤表(こうばんひょう)』



 一度だけの印象で人のことを決めつけないように気をつけている。

 女の子の「好き嫌い」なんて、たいていこの第一印象で決まる。

 そういう「第一印象決め」の浅はかさを、わたしは、東京にいたころから知っている。
 お父さんの会社関係の人とか、学校の友だちとか。
 荒川に越してきたころ、工場で働いているオジサンたちはおっかなかった。それまでのお父さんの会社の人たちと全然印象が違った。
 前の会社は、お父さんが社長ということもあり、わたしにはみんな優しかった。
 荒川の工場はまるで違った。
「ばか! ガキが工場の中うろつくんじゃねえ!」
 森さんという、オジサンに叱られたときは、びっくりして泣いちゃった。
 しばらくは、森さんや、田代さんという、オジサンを避けていた。
 少し大きくなると、分かった。工場は輪転機や裁断機とか、子どもにとっては危険なものが一杯ある。
 だから、森さんは最初に、ガキンチョのはるかにカマしておいたんだ。

 わけが分かるようになってからの森さんは優しかった。
 近所の人たちや、下町のシキタリを面白く教えてくれた。お昼の休み時間なんか、近所の仲鉄工のオジサンたちとボール遊びなんかしてくれた。隅田川の花火大会にも連れていってくれた。
「了見しなっくっちゃいけねえ」
 これが口癖で、一番若いシゲちゃん(茂田さん)なんかをよく意見していた。
 だから、自然に人に対しては、余裕のある目で見られるようになったつもり。

 だが、逆に了見しきってしまうと、容易には変わらない。

 お母さんが残している特別なゲラを見なおしてみた。

 赤、青、緑の三色のボールペンで、「これでもか、これでもか」って感じで思案の跡が見て取れた。生々しい激戦場の跡を見る思いだった。
 これだけの苦悩の果てのスランプなんだ……。

 わたしは、おかあさんを了見し直した。

 明くる日、昼休みの中庭。タロくん先輩から、大橋先生の手紙をもらった。

 ちょうどいい機会なので、昨日タマちゃん先輩と話した、クラブのことを相談しようと思った。
 でも先輩は他の部員にも「手紙を届けんとあかんから」と、ソソクサと行ってしまった。

 先生の手紙には、励ましの言葉とともに好子という役の特徴について、要領よくまとめてあった。
 そして手書きの好子のイラストが添えられていた。
 顔はわたしに似ていたけど、ちょっと感情過多。ひとひらの雲に夢を乗せて頬笑んだり、枯れ葉一枚落ちただけで涙するような……。
 それだけ、好子が人間ではなく、アンドロイドと分かったときのショック。そして好子への哀惜が強く伝わる仕掛けになっているんだなあと感じた。

 サインは「目玉オヤジ大権現御使」とあった。

 なるほどね、と思って封筒に戻そうとしたら、B5のプリントがもう一枚入っていた。

「香盤表(こうばんひょう)……?」

 縦軸にシーン割り、横軸に役名……。
 なるほど、これを見たら、だれがどのシーンに出ているか、だれとシーンがかぶっているか一目瞭然。
 さらによく見ると、全員の出番が、ほぼ同じ長さになるように工夫がされていることも分かった。
 こんな手紙を六人みんなに書いている……。

 ということは、昨日タマちゃん先輩と心配していたのと同じこと。それに気がついて、それとなく先生はボールを投げてきたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

女難の男、アメリカを行く

灰色 猫
ライト文芸
本人の気持ちとは裏腹に「女にモテる男」Amato Kashiragiの青春を描く。 幼なじみの佐倉舞美を日本に残して、アメリカに留学した海人は周りの女性に振り回されながら成長していきます。 過激な性表現を含みますので、不快に思われる方は退出下さい。 背景のほとんどをアメリカの大学で描いていますが、留学生から聞いた話がベースとなっています。 取材に基づいておりますが、ご都合主義はご容赦ください。 実際の大学資料を参考にした部分はありますが、描かれている大学は作者の想像物になっております。 大学名に特別な意図は、ございません。 扉絵はAI画像サイトで作成したものです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...