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30『情報はどこから漏れたか?』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
30『情報はどこから漏れたか?』
秘密は人に伝えた瞬間に秘密でなくなる。
以前読んだ本の何冊かに、同じ内容のことが書かれていた。
この格言に気がついたのは、吉川先輩の「おめでとう!」メールから。
ああ、わたしの読書は、なんの得るところもなく、お母さんの言うとおり、読んで排泄するだけなのか!?
情報はどこから漏れたか?
タキさんではない。お母さん、まだ知らないもん。
タキさんは、名前の間に「ヌ」を入れたら分かるように、化かしたり、とぼけたりってとこでは信用していい。
大橋先生は、あのあと「この感激を物理的にメモしとけ」と、いつもの調子。
どうやら由香のようだ……。
吉川先輩のメールが来る前に「オス」って声をかけたら「オ……」とだけ言って目をそらせた。
吉川先輩のメールが来たときに「あ」と思ったけど決めつけは良くない。昼休みに声をかけた。
「あのね……」
「ごめん!」
勢いよく頭を下げた(下げすぎて机に頭をぶつけ、ゴ~ンと公立高校独特の安物の机の金属音がした)
「あの後って、明くる日なんやけども。もっかいねねちゃん自身から話を聞こうと思て、生徒会室に行ってん! ほんなら誰もおらんさかいスマホ出して喜びをかみしめててん。はるかの成功は、あたしの喜び。はるかの嬉しさは、あたしの希望。なんというても文学賞やねんもん、文学賞! あたしは、ほんまにすばらしい友だち持った思て……ほんなら、いつの間にか後ろに吉川先輩が立ってて……アイター……なんであたし頭痛いねんやろ?」
おかげでクラスのみんなに爆笑とともに知られるハメとなった。
それも、最終選考に残ったではなく。受賞したと誤解されて……。
それは誤解です!
と、黒板に書くわけにもいかず。声をかけてくれる子に、こそっと説明をする。
でもわたしをシカトしている東亜美と住野綾の二人は露骨にイヤな顔をしていた。(ちなみに、わたしのホンワカは功を奏し「シカト組」はこの二人に減っている)
担任の竹内先生は、一文字眉を「へ」の字にして、
「おめでとう、アメチャン食べる?」
と、祝福してくださり、誤解を解くと、アメチャンが二つに増えた。
そういうわけで、わたしは駅前のハンバ-ガー屋さんの二階にいる。
もう期末テスト前の部活停止期間なんだけど、タマちゃん先輩が、二人だけの「ノミネート祝賀会」を開いてくれたのだ。
「おめでとう!」
シェイクで乾杯。
「どうもすみません、まだ受賞したわけでもないのに」
「またぁ、ノミネートされただけでも大したことやんか。ここんとこクラブもドンヨリしてるさかい、ひさびさのええニュース。またテスト前のあたしにとっても、また励みやさかい!」
美しいまつげが、これまた「へ」の字になった。
「そう言っていただけると嬉しいです」
「よかったら、また作品読ませてね!」
「え、あ、受賞しましたらね」
まっすぐ見つめるタマちゃん先輩の視線に照れて、おもいきりシェイクをストローで吸い込む。
「クスッ」
「あ、今のわたしって、ヒョットコみたくなってませんでした?」
「ほなら、いまのあたしは、大口開けたトトロやなあ」
そう言って、タマちゃん先輩は、ハンバーガーにかぶりついた。
「フフ、先輩って、どんなふうにしていてもかわいいですね」
「またぁ、あたしこそ、はるかちゃんのホワっとした明るさが、またうらやましい」
なるほど、先輩の口癖は「また」である。思わず先輩の膝のあたりに目がいった。
「ん?」
「いえ、なんでも」
だれかさんが言うほど、膝は開いていなかった。
「あたしね、一人でウジウジ悩んでんねんけど。クラブのことが、また……」
「タマちゃん先輩も……今のクラブ心配なんですか!?」
「え、あんたも!?」
先輩の膝が全開になった。
30『情報はどこから漏れたか?』
秘密は人に伝えた瞬間に秘密でなくなる。
以前読んだ本の何冊かに、同じ内容のことが書かれていた。
この格言に気がついたのは、吉川先輩の「おめでとう!」メールから。
ああ、わたしの読書は、なんの得るところもなく、お母さんの言うとおり、読んで排泄するだけなのか!?
情報はどこから漏れたか?
タキさんではない。お母さん、まだ知らないもん。
タキさんは、名前の間に「ヌ」を入れたら分かるように、化かしたり、とぼけたりってとこでは信用していい。
大橋先生は、あのあと「この感激を物理的にメモしとけ」と、いつもの調子。
どうやら由香のようだ……。
吉川先輩のメールが来る前に「オス」って声をかけたら「オ……」とだけ言って目をそらせた。
吉川先輩のメールが来たときに「あ」と思ったけど決めつけは良くない。昼休みに声をかけた。
「あのね……」
「ごめん!」
勢いよく頭を下げた(下げすぎて机に頭をぶつけ、ゴ~ンと公立高校独特の安物の机の金属音がした)
「あの後って、明くる日なんやけども。もっかいねねちゃん自身から話を聞こうと思て、生徒会室に行ってん! ほんなら誰もおらんさかいスマホ出して喜びをかみしめててん。はるかの成功は、あたしの喜び。はるかの嬉しさは、あたしの希望。なんというても文学賞やねんもん、文学賞! あたしは、ほんまにすばらしい友だち持った思て……ほんなら、いつの間にか後ろに吉川先輩が立ってて……アイター……なんであたし頭痛いねんやろ?」
おかげでクラスのみんなに爆笑とともに知られるハメとなった。
それも、最終選考に残ったではなく。受賞したと誤解されて……。
それは誤解です!
と、黒板に書くわけにもいかず。声をかけてくれる子に、こそっと説明をする。
でもわたしをシカトしている東亜美と住野綾の二人は露骨にイヤな顔をしていた。(ちなみに、わたしのホンワカは功を奏し「シカト組」はこの二人に減っている)
担任の竹内先生は、一文字眉を「へ」の字にして、
「おめでとう、アメチャン食べる?」
と、祝福してくださり、誤解を解くと、アメチャンが二つに増えた。
そういうわけで、わたしは駅前のハンバ-ガー屋さんの二階にいる。
もう期末テスト前の部活停止期間なんだけど、タマちゃん先輩が、二人だけの「ノミネート祝賀会」を開いてくれたのだ。
「おめでとう!」
シェイクで乾杯。
「どうもすみません、まだ受賞したわけでもないのに」
「またぁ、ノミネートされただけでも大したことやんか。ここんとこクラブもドンヨリしてるさかい、ひさびさのええニュース。またテスト前のあたしにとっても、また励みやさかい!」
美しいまつげが、これまた「へ」の字になった。
「そう言っていただけると嬉しいです」
「よかったら、また作品読ませてね!」
「え、あ、受賞しましたらね」
まっすぐ見つめるタマちゃん先輩の視線に照れて、おもいきりシェイクをストローで吸い込む。
「クスッ」
「あ、今のわたしって、ヒョットコみたくなってませんでした?」
「ほなら、いまのあたしは、大口開けたトトロやなあ」
そう言って、タマちゃん先輩は、ハンバーガーにかぶりついた。
「フフ、先輩って、どんなふうにしていてもかわいいですね」
「またぁ、あたしこそ、はるかちゃんのホワっとした明るさが、またうらやましい」
なるほど、先輩の口癖は「また」である。思わず先輩の膝のあたりに目がいった。
「ん?」
「いえ、なんでも」
だれかさんが言うほど、膝は開いていなかった。
「あたしね、一人でウジウジ悩んでんねんけど。クラブのことが、また……」
「タマちゃん先輩も……今のクラブ心配なんですか!?」
「え、あんたも!?」
先輩の膝が全開になった。
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