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27『基礎練習』
しおりを挟むはるか ワケあり転校生の7カ月
27『基礎練習』
「こんなん、どないや」
シャキっとしたかと思うと、先生の身長が五センチほど伸び、印象としては二十代ぐらいに見えた。
「そんで歩くとやな……」
おお、外人さんだ!
「まっすぐ前を見て、身体は、腰から……これがコツ。腰で歩く。右、左と腰から前に出る。足は伸びたままでカカトから下ろす。手ぇはちょっと内向きに出す。これを誇張してやると……」
おお、モデルさんウオーク……足の長さを除いて。
よく見ると、足も着地するときには伸びきっていること。わずかだけど、後ろに残した足を上げるタイミングが遅い、つまり、その分歩幅が長くなっている。そして一本の線を踏むように歩いていることが分かった。
「これを逆にやると……」
腰が落ちる。
従って、膝と背中が曲がり、足が少し外向きになり……カカトじゃなくて、ペタンペタンという感じで、足の裏全体で下りてくる。そして腰を動かさず足だけが前後に動く。だから歩幅は狭い。顔はやや下を向いて、立派な(?)おじいちゃんのできあがり!
先生は、調子にのって、番長になったり、兵隊さんになったり、ダースベーダーになったり。
乙女先生はマリリンモンロー(イメージだけどね)になったりして遊び始めた。乙女先生も元は大学で演劇部だったそうだ。
「ちょっと遊びすぎたな、みんなでワカメやるぞ」
簡単なようで難しい。その日はだれもできなかった。
三日後には、タマちゃん先輩ができるようになった。わたしはまだダメ。
この日は一回通し稽古(ルリちゃんが休んだんで、先生が代役)のあと、講義になった。
「筋肉には、三種類ある。随意筋と不随意筋と、それに半随意筋や」
初めての言葉に、みんな「???」であった。
「立ち上がってみい」
みんな、立ち上がった。
「バンザイしてみい」
みんなでバンザイ。
「それが随意筋や、自分の意思で動く筋肉」
「筋肉て、みんな意思で動かせるんとちゃうんですか?」
と、タロくん先輩。
「ほんなら、心臓止めてみぃ」
「!?」
と、みんな絶句。
「な、心臓とか、内臓の筋肉は意思では動かされへん。これが不随意筋や」
「じゃ、半随意筋は?」
「耳動かしてみい」
「え、ウサギじゃないからできませんよ」
「見とけよ……」
なんと、先生の耳が動いた!
「大昔は、誰でも動かせた。敵から身を守るためにな。進化の過程で、必要なくなったんで、訓練せんと動かせんようになった。勝新太郎が座頭市やるときに、一生懸命に練習してできるようになった。まあ、やってみい」
ウーン……(~_~;)
だれもできない。
「ほんなら、目ぇつぶってみい」
これは、みんなできた。当たり前。
「ほんなら、今度は、片目だけ」
そんなもの当たり前……にはできなかった。
「アメリカ人なんかは子どもでもできる」
あ、これってウィンクだ。
「そうウィンクや。日本人は生活習慣にないから、でけへんもんが多い」
先生は、それから片方だけ眉をつり上げたり、しかめたり、なにげに肩を上げてみたり。簡単そうで、やってみるとできない。なんだか先生が欧米の役者さん(けしてスターではないけど)に見えてきた。
「次、みんなで笑てみぃ」
「アハハハ」
と、思わず笑ってしまった。
「笑てくれるのは嬉しいけど、それやない。声を出せへん笑顔や、笑顔。さあ、やってみい」
みんなその気でやってみる。
「お、はるかはできるんやなあ」
みんながわたしの顔を見る。
「ホー……」
と、みんな。そりゃあホンワカはわたしの生活信条だもん。
「ほかのもんは、虫歯が痛いのを辛抱してるみたいな顔や」
ププ( ^ิ艸^ิ゚)
互いの虫歯顔を見て、吹き出してしまった。
「まあ、こんなもんは、駆けだしのアイドルでもできよる。ここの(頬を指した)笑筋を鍛えとくこっちゃなあ」
こんなもんかよ……。
「最後に横隔膜。肺と内臓の間にある筋肉や。一応は随意筋や。試しに息止めてみい」
みんな息を止めた。
「な、できるやろ。ほんなら、横隔膜をケイレンさせてみい」
「え……」
「アハハハ……!」
先生が突然の大爆笑。気がふれちゃったか!?
「これが、横隔膜のケイレンや。ほかにもシャックリやら、泣きじゃくりもこの一種や。とりあえず、笑えること。楽器のトレモロといっしょ、稽古したらだれでもできるようになる。とりあえず〈ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ〉で笑えるように」
それから、先生は部活の出席簿をチェック。持参のパソコンに、なにやら打ち込んだ。
タロくん先輩にやらせる以外にも、自分で記録をとっているようだ。
パソコンを閉じると、タロくんの出席簿を指さした。
「そこから、なにかを読み取って対応と、覚悟をしとけ」
「?」と、タロくん先輩。
「ありがとうございました。お疲れ様でした」
いつもの挨拶で部活を終わる。
「これで、和顔施にも磨きがかけられるで」と耳元でつぶやいた。
「それから……」と振り返り、
「目玉オヤジは、大権現や。帰ったら、広辞苑でもひいてみい」
と、憎ったらしくウィンク。
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