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14『高安山の目玉オヤジ』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
14『高安山の目玉オヤジ』
家に帰ると、お母さんがやっとヒトガマシイ姿にもどって宅配ピザを食べていた。
「あ、娘をさんざんこき使っといて、そんなのありー!?」
「はるかの分もとってあるわよ」
「ピザは、焼きたてでなきゃおいしくないよ」
「だって、はるか遅いんだもん。わたし、夕べからなにも食べてなかったのよ」
「だってね……」
「いらないんだったら、食べちゃうぞ」
「いるいる!」
にぎやかに母子で遅い昼食の争奪戦になった。
わたしはピザで口のまわりをベトベトにしながら、午前中のあれこれを話した。お母さんに話すと、二倍にも三倍にも楽しくなる。それに笑っているうちに……。
「ハハハ……で、買い物のお釣りは?」
敵は、その手には乗ってこなかった。
仕方なく、左のポケットを探ると、例のチラシがクシャクシャになって、お釣りの封筒といっしょに出てきた。
『青春のエッセー大募集!』のキャッチコピーがチラシの上で踊っていた。というか、その下の、賞金五十万円に母子の目は釘付けになった。
「なーんだ、十八歳までか。ガキンチョ相手のA書房だもんね」
空気の抜けた風船のようにお母さんは興味を失って、ピザのパッケージを片づけはじめた。
わたしは、その下の、銀賞二十万円から目が離せなかった。東京の学校の学園祭でも準ミスだった。二等賞の銀賞なら手が届くかも……。
洗濯物を取り込みながら高安山に目をやる。目玉オヤジが夕陽に照らされ神々しく見えた。
パンパンと、小さく二礼二拍手一礼。
「南無目玉オヤジ大明神さま、われに銀賞を獲らさせたまえ」
そんでもって……振り返ると、お母さん。
「わたしの原稿料を上げさせたまえ……」
と、便乗していた。
その夜は先生に言われたように、その日の出来事を物理的にメモった。そして、明くる日曜日になんとか段ボール箱を片づけ、やっと本格的に新生活が始まった。
学校は順調だった。由香の他にも四五人の友だちができた。
「あんた」の二人称にも親密感を感じられるほどに大阪弁にも慣れた。
イケメンのテンカス生徒会長吉川裕也は、二日に一度くらいの割りでメールをくれる。廊下とかで会ったら、短い立ち話くらはいするようになった。
もちろん、今や親友となった鈴木由香とはしょっちゅう。
演劇部は、最初十四五人いたのが八人にまで減ってしまった。残念ながら、その脱落組に由香も入っていた。
「うち魚屋やさかい夕方忙しいよって家のことはあたしがせなあかんねん。お姉ちゃんおるけど忙しい人やし……ごめんな。はるか」
昼休みの中庭のベンチで、食後のフライドポテト(食堂の特製。百二十円)をホチクリ食べる手を休めて、由香がポツンと言った。
「いいよ、そんなこと。わたしだっていつまで続くか分かんないし(ほんとは、ほとんど首まで漬かりかけていたんだけど)クラブ違ったって親友は親友だよ」
「おお、わが心の友よ!」
由香は、ジャイアンのようなことを言って抱きついてきた。
14『高安山の目玉オヤジ』
家に帰ると、お母さんがやっとヒトガマシイ姿にもどって宅配ピザを食べていた。
「あ、娘をさんざんこき使っといて、そんなのありー!?」
「はるかの分もとってあるわよ」
「ピザは、焼きたてでなきゃおいしくないよ」
「だって、はるか遅いんだもん。わたし、夕べからなにも食べてなかったのよ」
「だってね……」
「いらないんだったら、食べちゃうぞ」
「いるいる!」
にぎやかに母子で遅い昼食の争奪戦になった。
わたしはピザで口のまわりをベトベトにしながら、午前中のあれこれを話した。お母さんに話すと、二倍にも三倍にも楽しくなる。それに笑っているうちに……。
「ハハハ……で、買い物のお釣りは?」
敵は、その手には乗ってこなかった。
仕方なく、左のポケットを探ると、例のチラシがクシャクシャになって、お釣りの封筒といっしょに出てきた。
『青春のエッセー大募集!』のキャッチコピーがチラシの上で踊っていた。というか、その下の、賞金五十万円に母子の目は釘付けになった。
「なーんだ、十八歳までか。ガキンチョ相手のA書房だもんね」
空気の抜けた風船のようにお母さんは興味を失って、ピザのパッケージを片づけはじめた。
わたしは、その下の、銀賞二十万円から目が離せなかった。東京の学校の学園祭でも準ミスだった。二等賞の銀賞なら手が届くかも……。
洗濯物を取り込みながら高安山に目をやる。目玉オヤジが夕陽に照らされ神々しく見えた。
パンパンと、小さく二礼二拍手一礼。
「南無目玉オヤジ大明神さま、われに銀賞を獲らさせたまえ」
そんでもって……振り返ると、お母さん。
「わたしの原稿料を上げさせたまえ……」
と、便乗していた。
その夜は先生に言われたように、その日の出来事を物理的にメモった。そして、明くる日曜日になんとか段ボール箱を片づけ、やっと本格的に新生活が始まった。
学校は順調だった。由香の他にも四五人の友だちができた。
「あんた」の二人称にも親密感を感じられるほどに大阪弁にも慣れた。
イケメンのテンカス生徒会長吉川裕也は、二日に一度くらいの割りでメールをくれる。廊下とかで会ったら、短い立ち話くらはいするようになった。
もちろん、今や親友となった鈴木由香とはしょっちゅう。
演劇部は、最初十四五人いたのが八人にまで減ってしまった。残念ながら、その脱落組に由香も入っていた。
「うち魚屋やさかい夕方忙しいよって家のことはあたしがせなあかんねん。お姉ちゃんおるけど忙しい人やし……ごめんな。はるか」
昼休みの中庭のベンチで、食後のフライドポテト(食堂の特製。百二十円)をホチクリ食べる手を休めて、由香がポツンと言った。
「いいよ、そんなこと。わたしだっていつまで続くか分かんないし(ほんとは、ほとんど首まで漬かりかけていたんだけど)クラブ違ったって親友は親友だよ」
「おお、わが心の友よ!」
由香は、ジャイアンのようなことを言って抱きついてきた。
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