上 下
52 / 79

052『ブラウニーの右手と左足』

しおりを挟む
やくもあやかし物語 2

052『ブラウニーの右手と左足』 




 いい匂いは食堂への途中、いつもは閉めきりのドアからだよ。

 観音開きの片方が小さく開いていて、鼻歌といっしょに匂いが漏れてくるんだ。

『おや、食いっぱぐれたのかい?』

 人の良さそうなオバサンの声がして、足を止めるとすき間の向こうのオバサンと目が合う。

 目が合うと、こんどはお玉を持ったままの手でオイデオイデする。

「ちょうどできたところだから食べておいきよ」

「えと、ここは?」

「元々の食堂さ。いまの食堂ができてからは使われなくなったんだけどね、くわせもののお蔭で、食堂はあんな状態だろ。それで、急きょこっちを使えるようにしてるわけ」

「あ、そうなんだ」

「あたしは、家事妖精のブラウニー。この学校や宮殿ができたころから住み着いて、いろいろお手伝いしてるのさ」

「あ、わたし一年生のやくもです」

「やくも、いい名前だ。よろしくね」

 握手……すると違和感。

「あ、ごめん。右手は義手なんだよ、左足は義足でね。むかし、侵入してきた魔ものにやられてね、オーディンが森の木を削って作ってくれたのさ。あのころのオーディンは不器用で完全というわけにはいかないんだけど、まあ、なんとか台所仕事をこなすぶんにはね……さ、できたてのスープとシュガートースト。味は濃いめだけど、あれだけ戦ったあとなんだから、これくらいのがいいさ」

「ありがとう、ブラウニー。いただきます」

「スープ熱いから、冷ましながらね……あ、そうだ、レシピを書き留めておかなきゃ。鉛筆貸してくれる?」

「え、あ、どうぞ」

「ありがとう、すぐに返すからね……」

 スープに気を取られ、わたしは違う方を渡してしまった。

 ビシ!

 ウギャアア!!

 なにか電気みたいなのが走ったかと思うと、ブラウニーは尻餅をついて、鉛筆を持っていた右手をプルプルと痙攣させている。

 ブラウニーの足元に落ちているのはおもいやりの方だ!

「ごめん、間違えた!」

「お、お逃げ、これは右手が悪さをして……るんだから……」

 ビシビシ!

 ブラウニーの肘と膝のところがスパークしたかと思うと、右手と左足が体から分離して窓を突き破って出て行ってしまう!

『アップ、お、追うぞ!』

 ミチビキ鉛筆が、やっと水から上がってきた人みたいに息を継ぐと、くわせものの時と同じように、わたしを引っ張っていく!

 窓から飛び出す時にチラッと見たら、ブラウニーは口の形だけで『ごめんね』と言った。

 悪いのは、義手と義足、あるいは、そこに取りついた何者かだ!

『右手の奴、オレを受け取ったら握りつぶすつもりだったんだ。やくも、よくぞ間違えてくれた!』

「あ、あ、そうなんだ(;'∀')」

 くわせものをやっつけてホッとしたばかり。本日三回目の戦闘モードに、すぐには切り替えられないわたしだった。

 

☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...