やくもあやかし物語・2

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
42 / 84

042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』

しおりを挟む
やくもあやかし物語 2

042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』 





 四時間目の魔法史の時間が終わると全員講堂に集められた。


「グ……校長が来てんぞぉ」

 ハイジが地声で呟いた。

 本人は呟いたつもりでも、ハイジの声はよく通る。とたんに集会指揮のメグ・キャリバーン教頭先生が睨む。

 あ、気持ちは分かる。

 校長はめったに顔を見せないし、いかつくってとっつきにくい。

 なんでも、学校を立ち上げるについて、各方面に気を使ったり抑えが聞くようにしたそうで、それは総裁にヨリコ王女を頂いていることでも分かる。

 でも、議会や貴族たちの抑えとしてはヨリコ王女は若すぎるし、日系でもあることから軽んじられることも無きにしも非ず。それで、直接のファイアーウォールとして長老的貴族であるカーナボン卿を校長に戴いているんだとか。

 ハイジが睨まれたので、その後は静かになって、教頭先生が演壇の下に居たままマイクを握る。

「授業終了後の全校集会で申し訳ない。でも、とても大事な話だから、しっかり聞くように。校長先生、どうぞ」

「うむ」

 鷹揚に頷くと、猛禽類が鬚を付けたような校長のカーナボン卿がゆっくりと演壇に上がった。

「諸君らも承知している通り、ヤマセンブルグを含む全ヨーロッパは東からの脅威にさらされている」

 みんなの顔が上がる。

 日本で東といえば単なる方角だけど、ヨーロッパで東というと、あの巨大すぎる国の事を指す。じっさい戦争やってる真っ最中だしね。

「かの国の脅威は実弾飛び交う戦場ばかりではない。様々な妖や精霊による侵攻は少しずつ、ヨーロッパ全域に広がりつつある。その脅威に備えるために、本校を含む王宮全域に結界を張ることになった」

「校長先生、すでに王宮には結界が張られているのではないんですか?」

 英国貴族でもある優等生のメイソン・ヒルが口を挟む。

「いかにも。ヤマセンブルグ最高の結界が張られてはいる。だが、それでは心もとないという状況になりつつある。そこで、結界と防御魔法の第一人者を本校に招へいし、結界の補強と防御、それに防御魔法の指導の為に北の国より特別講師をお呼びした。ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿であーる!」

 こういう場合、礼儀として拍手が起こるものだけど、奥のドアからものすごい圧がして、みんな声も無かった。

 だって、ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿は立派な耳を持ったエルフ!

 そのうえ、なんとなくうちのネルに似たおっさんだ。

 え?

「うん、うちのクソジジイだ(-_-;)」

 ええ、ネルのお祖父さんが来るって、こういうことだったの!?

 チラ見すると、ネルは赤い顔して俯いて、でも耳だけはピンと立ってる。

 これは、ネルがブチギレてる時の特徴だよ……たぶん。




☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

杖と鉄拳とラプソディ─落ちこぼれたちの英雄譚─

穂高(ほだか)
ファンタジー
『 ずっとそばにいるよ。たとえ君が、何者であっても。 』 … ✴︎ … ✴︎ … ✴︎ … ✴︎ … ✴︎ … 生まれつき魔法が使えない落ちこぼれの主人公・ミチルはある日、魔法学校に現れた人食いの怪物──マモノを生身でコテンパンにしてしまう。 その拳に宿る力は、かつてこの国の歴史に名を残した一人の英雄を彷彿とさせるものであった。 成り行きで親友の護衛を任されることとなったミチル。 守るべき友の正体はなんと……“超訳アリ”のお姫様!? 親友を狙う刺客たちを、拳ひとつでぶっ倒せ! 個性豊かなクラスメイト達と紡ぐ、脳筋青春学園ファンタジー。

処理中です...