やくもあやかし物語・2

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
33 / 84

033『階段で怪我をした』

しおりを挟む
やくもあやかし物語 2

033『階段で怪我をした』 





 もう一段あると思って脚を下ろしたら一階の床だった。

 グニュ

 みごとに足をグネってしまって立ち上がれなくなってしまった(;'∀')

 
 で、今日は授業も休んで、部屋で大人しくしている(^_^;)。


 月が改まると、出番を思い出した役者が勢いつけて舞台に現れたみたいに、急に春めいてきた。

 森の木々たちも、心なしフワフワして見えるし、植えて間もないヒメシャラも幼木ながらツヤツヤしくて、うっかり蝶々が留まったら、ツルンと滑ってしまいそう。

 昼休には、お仲間の生徒たちも外に出てノビをしたり大あくびをしたり。

 ああ、外に出たいなあ……

 出窓に腰掛けて独り言を言ってみたりする。


 プルルルル


 黒電話が優しく鳴って、松葉杖を軸に振り返って受話器を取る。

「もしもし」

『あ、交換手です。退屈しているようなので、ちょっと話しかけてみました』

「あ、どうもありがとう(^_^;)」

『もう少し暖かくなったら、故郷の真岡とかご紹介しますよ』

「え、真岡って、樺太の?」

『はい、真岡の春は遅いですけど、流氷がバリバリ流れ始めて、ちょっと男性的で素敵ですよ』

「わあ、そうなんだ。流氷なんて見たことないしぃ……でも、どうやって行くの? 日本も樺太も地球の裏側だよ」

『大丈夫ですよ、やくもの胸にはタマノオが巡り始めてますから、ソウルだけでなら行けるようになりますよ』

「そうなんだ!」

『それに……あ、御来客です』

 トントン

「あ、はいどうぞ」

「「失礼しますねぇ……」」

 え、二人?

 なんと、王女さまが詩(ことは)さんの車いすを押して入ってきた!

詩:「階段から落ちたって聞いて」

王女:「だいじょうぶ?」

やくも:「だいじょうぶです! わ、わざわざお越しいただいて!」

詩:「わたしも階段から落ちたから、ちょっと心配で」

 そうだった、詩さんは階段でよろめいた女王陛下を助けようとして転げ落ちたんだ(せやさかい402『王宮某重大事件・1・詩の災難』)。

やくも:「グネっただけですから、腫れがひいたら大丈夫ってお医者さんも言ってましたし」

詩:「そう、それは良かったぁ」

王女:「わたしも、学校の総裁だからね、ちょっと気になって」

やくも:「ああ、ボーっとしてたからです。急に春めいてきましたしぃ」

王女:「うん、それならいいんだけど、施設面で不具合があったら遠慮なく言ってちょうだい。ここのところ、行事やら福の湯のことに気を取られていて、校舎や寄宿舎の事に気が回らなかったかもしれないから」

やくも:「だいじょうぶですだいじょうぶです。それに、ほら、出窓からみんなの様子見てるの楽しいです。さっきから、ずっと見てるんですよ」

王女:「わ、ほんとう……よかったぁ、少し心配だったけど、みんな仲良くやっているわねえ」

 ちょっとだけ王女さまの視線が気になった。

 みんなから少し離れたところでデラシネがポツンと立っている。どうやったらみんなの中に入れるか困っている転校生みたい。

 自信が無いせいか、そういう魔法をかけているのかかかっているのか、他の子には見えていない。王女さまにも見えてはいないみたい。

王女:「あ、ハイジが木登りしてる」

やくも:「あはは、おサルさんみたい(^_^;)」

王女:「男の子たちも」

やくも:「男はヘタみたいです」

王女:「元気そうでなにより……コットンも見てみる?」

詩:「いえ、わたしは」

王女:「わたしが支える。大丈夫よ」

やくも:「出窓のところに体重をあずければ……」

詩:「あ、すみません」

 詩さんを出窓に座らせようとした時に異変が起こった。

 後から上ってきた男子をからかって、ハイジがより高いところに上った。

 そして、サルみたいに隣の木にジャンプ!

 ジャンプした先の木の枝がポッキリ折れた!

 キャ!

 ハイジは掴まった枝もろとも地面に落ちて、わたしの怪我どころじゃないと目をつぶって……そして、目を開くと、ハイジは地上五十センチのところで宙に浮いている……ように見えているはず。

 デラシネが、お姫様ダッコでハイジを受け止めていた!


 そして、もうひとつ。


 詩さんが自分の脚で立っていた( ゚Д゚)!

 

☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

杖と鉄拳とラプソディ─落ちこぼれたちの英雄譚─

穂高(ほだか)
ファンタジー
『 ずっとそばにいるよ。たとえ君が、何者であっても。 』 … ✴︎ … ✴︎ … ✴︎ … ✴︎ … ✴︎ … 生まれつき魔法が使えない落ちこぼれの主人公・ミチルはある日、魔法学校に現れた人食いの怪物──マモノを生身でコテンパンにしてしまう。 その拳に宿る力は、かつてこの国の歴史に名を残した一人の英雄を彷彿とさせるものであった。 成り行きで親友の護衛を任されることとなったミチル。 守るべき友の正体はなんと……“超訳アリ”のお姫様!? 親友を狙う刺客たちを、拳ひとつでぶっ倒せ! 個性豊かなクラスメイト達と紡ぐ、脳筋青春学園ファンタジー。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...