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023『ゆく年くる年』

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やくもあやかし物語 2

023『ゆく年くる年』 




 ほた~るのひか~りぃ♪ ま~どのゆぅ~き~ぃ♪


 日本語で歌うと、みんなの視線が集まってきた。

 え……あ……(#^_^#)

「日本でもAuld Lang Syne (オールド・ラング・ザイン)歌うのねえ!」

 ハイジと並んでいたコーネリアが上品に手を組んだまま感動している。

「え、あ……英語の歌詞はむつかしくて」

 英語は喋れるんだけど、歌が唄えるほどじゃない。

 それにメロディーは完全に『蛍の光』だったし。

 大晦日の夜はダイニングに集まって年越しをしたんだ。

 それで、メイソン・ヒルが「Auld Lang Syneを歌いながら新年を迎えようじゃないか」と凛々しく提案して、ハイジが「それ、知らねえぞ」って言って、他にも何人か知らない子がいたので、メイソン・ヒルが「練習しよう!」て言って、みんなで歌い出したとこ。

 わたしも感動したよ。

 だってさAuld Lang Syneなんて聞いたことないタイトル言われて、それで前奏が始まったら完ぺきに蛍の光だったから、日本人なら自動的に「ほた~るのひか~りぃ♪ ま~どのゆぅ~き~ぃ♪」って歌ってしまうよ。

「わたしたちも入れてくれるぅ?」

 声がかかったかと思うと、入り口に王女さまが詩(ことは)さんの車いすを押して立っている。

「わたしも、コトハも日本の学校だったから、やっぱり蛍の光になるかなあ」

「じゃあ、三人で一度歌ってもらえませんか!」

 メイソン・ヒルがとびきりの笑顔で提案して三人で歌ったよ。

 そして、一番を歌い終わったら、みんな待ちきれないで、そのままAuld Lang Syneのコーラスになって、途中からは、どこからかバグパイプの演奏も加わって、とってもいい雰囲気で新年を迎えた。


 そして、二時くらいまでは、みんな起きていてお喋りしたりして過ごした。


「ねえ、初日の出見に行こうよ!」

 朝まで起きていたのは10人も居ないんだけど、王女さまが明るく提案すると、半分くらいが目を覚まして付いてきた。

「日の出見ると、なんかいいことあるのかあ~」

 目が覚め切っていないハイジは王女さまがいるのも忘れてプータレる。

「元日の太陽は、一年でいちばん力があるのよぉ」

 王女さまが言うとロージー・エトワーズ(お祖父ちゃんがマフィアの大物だったって噂がある)が、がぜん元気になって、みんなの前に出た。

「知ってる! エジプトだって、そうでさ、元日の太陽で秘密の扉が開くピラミッドがあるんだって!」

 ホホー ヘエー とか笑いの混じった声が上がる。

「ホントだからね」

「こんなのもある」

 声を上げたのは、ちょっと堅物のアイン・シュタインベルグ。

「日露戦争最後の戦いだった奉天の戦いで、総参謀長だったコダマ大将は毎朝日の出に祈って大勝利を得たって」

 ホォ……

 ウクライナじゃロシアとの戦争の真っ最中。静かな反応だけど、ちょっと真剣みがある。

 でも、話を膨らます者はいない。

 雪は降っていないけど、やっぱ寒い。

 なんせ、日の出前なんで、みんな懐中電灯で足元を照らしている。


 わたしたちが向かっているのは湖のほとり。日が昇ると湖面に朝日が照り返して、きっと二倍はきれいだから。


 オオオオオオオオオオオ


 ちょうど山の端を太陽が昇ってくるところで、予想通り、湖面はキラキラと光の妖精たちが踊っているように煌めき始めた。

 それから、みんなは、一様に押し黙って、お日様が完全に姿を現すのを見守った。

 そして、わたしは、そんな私たちを見ている者の気配を感じていた。


 これは、たぶん……デラシネだ。


☆彡主な登場人物 
やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
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