やくもあやかし物語・2

武者走走九郎or大橋むつお

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020『デラシネの全力攻撃』

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やくもあやかし物語 2

020『デラシネの全力攻撃』 



 散れ!


 ネルが両手を広げて叫んだ!

 わたしは左! ネルは右!

 ハイジは、いっしゅん迷って後ろに逃げた! 真ん中に居たので、どっちへ行っていいか分からず逃げるしかなかったんだろう。仕方がない(-_-;)。

「フフフ……目くらましのつもりか」

 ドラゴンの背に跨ったデラシネは不敵に笑うと、ドラゴンと共に空に飛んだ。

「森は、わたしの庭のようなもの、チョロチョロ走り回っても居所は知れている……そこだ!」

 ビシ!!

 すぐ後ろ、木々の枝や葉っぱを貫いて電撃みたいなのが地面に突き刺さる。

 一年前のわたしだったら、悲鳴も上げられずにうずくまるか気絶してしまうかだったと思う。

 でも、いろんな妖たちと戦ったり、時には共通の敵から身を守ったりしてきたから、取りあえずは逃げられる。

 ビシ!

 離れたところに衝撃、ネルの方を攻撃したんだ……でも、走る気配はしているから、命中はしていない。

 来る……ビシ!!

 直前にゾワってくるんで、しゅんかんで横っ跳び。左の頬に痛みが走る。

 破片が当たったんだ、拭った拳に血が付いた。

 ビシ!

 今度はネル。でも、気配は同じテンポで走ってる。まずは大丈夫。

「ちょこまかと三月うさぎのように……まあいい、いつまでももつはずもない、ゆっくり退治してやるからね……そこだ!」

 ビビッシ!!

 さっきの倍ほどのが落ちてきた! 直前に速度を上げて無事だったけど、髪の焦げる臭いがする。

 ちょっとヤバイ、続けられたらもたないかもしれない。

 ビシビシ!

 二連発……それもネルじゃなくてわたしに!?

 そうか、わたしの方がチョロいと踏んだんだ! くそ、集中攻撃されたらもたないかもしれない(;'∀')!

 ビ ビシビシ!

 次のは遅れたし、微妙にためらいが……?

『ネルよ、ネルが直前に後ろを走ってドラゴンを惑わせたのよ』

 御息所が首だけ出して後ろを指さしている。

 そうか、フェイントをカマシてくれたんだ。

 ビビ ビシビシ!

 次もズレた。今度はいっしゅんだけネルの後すがたが見えた。

 今度はわたしが助けなきゃ!

 走りながらネルの居所を探る。

 ん?

 ネル以外にもチラホラと気配がする。木の上……岩の陰……窪地のヘリ……倒木の洞……そうか、森の妖精や精霊たちが、あちこちで様子を伺ってるんだ。

 面白がってるのや迷惑がってるのや怯えているのや、なかには感情の読めないのも居る。

 ビビ ビシビシ!!

 ネルの気配が近づいたので、こちらからネルの後ろに走る。案の定、狙いは大きく外れて、離れたところで火のついた葉っぱや枝が舞い上がった。

――あたしはいい、体力的にはヤクモの方が弱い、庇っていてはもたないぞ!――

 あ、それもそうだ。

 鬼の手のお蔭で瞬発力は鬼強いけど、これを何時間もやられたら、ちょっと自信ないかも。

「そうか、ヤクモうさぎの方がねらい目か……」

 グゥゥゥーーーン

 くそ、高度を落として真後ろに貼り付かれた(;゚Д゚)!

 ビシビシビシ!!!

 っく!

 かろうじて避けたけど、右足と左手に痛みが走る。

 トリャーーー!!

 ネルが飛び蹴りを食らわせて、当たらぬまでもドラゴンの進路を狂わせる。

 でも、次はダメかもしれない(;'∀')。

 ビシビシビシ!!! ビシビシビシ!!!

 あ、もうダメだ……

『ヤクモ、あの岩壁をめざして』

 御息所が小さな声で言う。

「右、左、どっち?」

 それまでも、二度ほど岩壁の前まで走って曲がっている。

 岩壁は単なる障害物、飛び越えるには高すぎる。曲がるしかないんだ。

『直前でストップ、ぶつかる覚悟で』

「え、あ、うん」

 理解したわけじゃないけど、このままじゃもたないからね。

 ズザザザザ……ドシン!

 なんとか急ブレーキ! やっぱり岩にぶつかって、死にはしなかったけど、そのまま仰向けに倒れてしまう。

 倒れながら見えた。

 ドラゴンは岩にぶつかって粉みじん……じゃなくて、岩に吸い込まれるようにして消えてしまい、デラシネ一人、岩に顔をこすり付けながら急上昇し、悔しそうにブンブン手を振って飛んで行ってしまった。

 プギャァァァァ……ドシン!

 そして、なぜかハイジが遅れて岩にぶつかって落ちてきた。

 
☆彡主な登場人物 
やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
 
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