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006『ネルを起こして』
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やくもあやかし物語・2
006『ネルを起こして』
目覚ましが鳴る前に起きる。そして、すぐにアラームを解除する。
とっくに起きてるのに『こら、ねぼすけ! はやく起きろ!』って感じで目覚ましに急き立てられるのやだからね。
ここに来て、まだ目覚ましのお世話になったことはないよ。鳴る前に起きる。
でも、まんいちってことがあるから、必ずアラームはかけておく。
解除してから――あ、早まったかな――とも思う。
ルームメイトのネルはねぼすけ。彼女が来てから、毎朝わたしが起こしてる。
もう日課と云うかルーチンというか、当たり前になりかけてるんだけどね、目覚ましで起きるというのもいいんじゃないかと思うよ。
もう、いちいち起こしてなんかいられない。起こすの飽きたよ。だから目覚ましにしたよ。
そういう方が友だち感が出るんじゃないかなあと思った。
でも、切った目覚ましをもういっかいかけ直すというのも変だ。逆に意識しすぎてる。
ああ( ̄Д ̄)
目覚ましひとつで、これだけ優柔不断になるのは、わたしの方がまだ慣れてないんだよ。学校にもネルというルームメイトにも。
シャーー
窓のカーテンを開ける。
続いて窓も開けようかと思ったら……見えてしまった!
湖の岸ちかくの湖面でニンフたちが踊っているのを!
「見えた( ゚Д゚)!!」
思わず叫んでしまった。
ドテ!
「あ、ごめん(^_^;)」
わたしの声にビックリして、それが、ちょうど寝返りをうったところだったので、そのままネルが床に落ちてしまった。
「……なによぉ、こんな朝っぱらからぁ」
「ごめん、でも、見えたんだよ。ニンフが踊ってるのが」
「ええ……?」
「こっちこっち、ほら、岸に近い水の上で踊ってる!」
「どれどれ……」
「ね!」
「ああ……あれは、朝日が波に反射してるだけだよ」
「え?」
「ほら」
ネルは勢いよく窓を開けて――しっかり見てみろ――という感じで親指で指さした。
アハハハ……
そして、今朝の一時間目はヒギン……ソフィー先生の魔法概論。
起立礼の挨拶が終わると、いきなり切り出してきた。
「じつはな、魔法は誰でもつかってる」
ビックリすることを言う。
クラスの中には初歩的、でも本格的な魔法を使える人もいて、そういう人たちは、それなりに苦労して魔法を憶えたので「誰でも」という言葉に、ちょっと反発の空気。
「例えば『立て』って言うと人は立つ。『こっちを見ろ』と言うと人はこっちを向く」
なにを当たり前なことをという感じ。
「『立て』も『こっちを見ろ』も、言ってみれば呪文だ」
「でも、言葉と魔法はちがうのではないでしょうか? 言葉は誰でも発しますし」
メイソン・ヒルという貴族めいた男の子が異を唱える。
「どうしてだ、意志を持って言葉を発し、人にその言葉通りの行動をおこさせる。同じだろう」
「まあ、そう括ってしまえば」
「しかし、先生」
今度はオリビア・トンプソンという良家のお嬢さん風が手を上げる。
「なんだ、オリビア」
「魔法は誰にでもかけられますが、言葉は同じ言葉を使う人間の間でしか通じません」
「もっともだなオリビア。試してみよう……ボビー」
先生が指を立てると、気配がして、教壇脇のロッカーの後ろから子犬が現れた。
「この犬に『立て』と命じてみてくれ」
「わたしがですか?」
「ああ」
「立て……立て、立ちなさい! スタンダップ!」
アウ~~ン
子犬はあくびするだけだ。
「アハハ、ダメですね」
「わたしがやろう……立て!」
ワン
子犬は後ろ足で立った。
「気を付け!」
ワン
子犬は人間みたいに前足を背中に回して顎を引いて気を付けの姿勢になった。
「休め!」
おお!
見事に休めの姿勢になった。
パチパチパチ
可愛いし、ビシッときまっているのでみんなが拍手した。
「お言葉ですが、先生、これは先生がしつけて訓練されたのでは?」
「多少はな……」
先生、こんどは教室の窓を開けて、指でオイデオイデをする。
ピピピ チチチ
雀が二匹窓辺に停まった。
「気を付け!」
ピピ
なんと、雀が気を付けした!
「この雀とは面識がない。でも、この程度のことはできる。わたしの先祖は、この雀の目を借りて空から敵の様子を探るようなこともやった。もういいぞ」
ピピ
雀は、何事も無かったように飛んで行ってしまった。
「もう一度言う、言葉も魔法も人の意志が籠められている。そして条件が整わなければ、たとえ意思があっても動かせるものではない。そうだろ、言葉が通じるだけの同国人が公園のベンチに座っていて、いきなり片方が『立て』と言って立つものではない。ここが学校で、君たちが一定の敬意をもっているからこそ、授業の最初、起立礼という魔法が成り立ったというわけだ」
ああ……なんとなく、70%ほど分かったような気がしてきた。
「ちょっと先に進み過ぎてしまった、ここからは民俗学的見地に戻って話をするぞ……」
残りの30%には踏み込まずに、先生は普通っぽい授業に移っていった。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン
006『ネルを起こして』
目覚ましが鳴る前に起きる。そして、すぐにアラームを解除する。
とっくに起きてるのに『こら、ねぼすけ! はやく起きろ!』って感じで目覚ましに急き立てられるのやだからね。
ここに来て、まだ目覚ましのお世話になったことはないよ。鳴る前に起きる。
でも、まんいちってことがあるから、必ずアラームはかけておく。
解除してから――あ、早まったかな――とも思う。
ルームメイトのネルはねぼすけ。彼女が来てから、毎朝わたしが起こしてる。
もう日課と云うかルーチンというか、当たり前になりかけてるんだけどね、目覚ましで起きるというのもいいんじゃないかと思うよ。
もう、いちいち起こしてなんかいられない。起こすの飽きたよ。だから目覚ましにしたよ。
そういう方が友だち感が出るんじゃないかなあと思った。
でも、切った目覚ましをもういっかいかけ直すというのも変だ。逆に意識しすぎてる。
ああ( ̄Д ̄)
目覚ましひとつで、これだけ優柔不断になるのは、わたしの方がまだ慣れてないんだよ。学校にもネルというルームメイトにも。
シャーー
窓のカーテンを開ける。
続いて窓も開けようかと思ったら……見えてしまった!
湖の岸ちかくの湖面でニンフたちが踊っているのを!
「見えた( ゚Д゚)!!」
思わず叫んでしまった。
ドテ!
「あ、ごめん(^_^;)」
わたしの声にビックリして、それが、ちょうど寝返りをうったところだったので、そのままネルが床に落ちてしまった。
「……なによぉ、こんな朝っぱらからぁ」
「ごめん、でも、見えたんだよ。ニンフが踊ってるのが」
「ええ……?」
「こっちこっち、ほら、岸に近い水の上で踊ってる!」
「どれどれ……」
「ね!」
「ああ……あれは、朝日が波に反射してるだけだよ」
「え?」
「ほら」
ネルは勢いよく窓を開けて――しっかり見てみろ――という感じで親指で指さした。
アハハハ……
そして、今朝の一時間目はヒギン……ソフィー先生の魔法概論。
起立礼の挨拶が終わると、いきなり切り出してきた。
「じつはな、魔法は誰でもつかってる」
ビックリすることを言う。
クラスの中には初歩的、でも本格的な魔法を使える人もいて、そういう人たちは、それなりに苦労して魔法を憶えたので「誰でも」という言葉に、ちょっと反発の空気。
「例えば『立て』って言うと人は立つ。『こっちを見ろ』と言うと人はこっちを向く」
なにを当たり前なことをという感じ。
「『立て』も『こっちを見ろ』も、言ってみれば呪文だ」
「でも、言葉と魔法はちがうのではないでしょうか? 言葉は誰でも発しますし」
メイソン・ヒルという貴族めいた男の子が異を唱える。
「どうしてだ、意志を持って言葉を発し、人にその言葉通りの行動をおこさせる。同じだろう」
「まあ、そう括ってしまえば」
「しかし、先生」
今度はオリビア・トンプソンという良家のお嬢さん風が手を上げる。
「なんだ、オリビア」
「魔法は誰にでもかけられますが、言葉は同じ言葉を使う人間の間でしか通じません」
「もっともだなオリビア。試してみよう……ボビー」
先生が指を立てると、気配がして、教壇脇のロッカーの後ろから子犬が現れた。
「この犬に『立て』と命じてみてくれ」
「わたしがですか?」
「ああ」
「立て……立て、立ちなさい! スタンダップ!」
アウ~~ン
子犬はあくびするだけだ。
「アハハ、ダメですね」
「わたしがやろう……立て!」
ワン
子犬は後ろ足で立った。
「気を付け!」
ワン
子犬は人間みたいに前足を背中に回して顎を引いて気を付けの姿勢になった。
「休め!」
おお!
見事に休めの姿勢になった。
パチパチパチ
可愛いし、ビシッときまっているのでみんなが拍手した。
「お言葉ですが、先生、これは先生がしつけて訓練されたのでは?」
「多少はな……」
先生、こんどは教室の窓を開けて、指でオイデオイデをする。
ピピピ チチチ
雀が二匹窓辺に停まった。
「気を付け!」
ピピ
なんと、雀が気を付けした!
「この雀とは面識がない。でも、この程度のことはできる。わたしの先祖は、この雀の目を借りて空から敵の様子を探るようなこともやった。もういいぞ」
ピピ
雀は、何事も無かったように飛んで行ってしまった。
「もう一度言う、言葉も魔法も人の意志が籠められている。そして条件が整わなければ、たとえ意思があっても動かせるものではない。そうだろ、言葉が通じるだけの同国人が公園のベンチに座っていて、いきなり片方が『立て』と言って立つものではない。ここが学校で、君たちが一定の敬意をもっているからこそ、授業の最初、起立礼という魔法が成り立ったというわけだ」
ああ……なんとなく、70%ほど分かったような気がしてきた。
「ちょっと先に進み過ぎてしまった、ここからは民俗学的見地に戻って話をするぞ……」
残りの30%には踏み込まずに、先生は普通っぽい授業に移っていった。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
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