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159『伊勢半配送センターでバイト』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
159『伊勢半配送センターでバイト』
というわけで、大浜線谷口(やとぐち)駅で降りて、伊勢半デパート配送センターを目指して歩いている。
というわけと言うのは、おとついの帰りのホームで十円男と出くわしてバイトの助っ人を頼まれたから。
谷口は大浜市に三つある駅の一つで大浜高校に通う生徒の半分はここで乗り降りするらしい。配送センターは大浜市の東の外れ、令和の谷口に足を踏み込んだことのないわたしは「ああ、大浜市の田舎なんだ」という感想。
大浜市は近在では大きな街だけど、東京や横浜とは比べようもない地方都市。だいいち大浜に伊勢半デパートは無い。地価の高い京浜地方を外して物流センターを持ってきたというのが正直なところなんだろうね。
でも、名にし負う天下の伊勢半、五階建てのビルの上には営業店と同じ『伊勢半』のロゴマークが掲げられ、マークの下の『配送センター』の文字に気づかなければ買い物客が入って来そう。
「ああ、それは無いなあ」
昨日事務所に連れて行ってくれた10円男はあっさり言う。
「デパートというのは、都心とか繁華街にあるだろ。ここは、そうじゃないから、看板に気づいても――ちょっと違う――と思う。建物も色気が無いから、すぐに営業店じゃないことに気づく」
色気が無いというところで、わたしの顔を見たけど、それには触れないでおいてやる。
ブロロ ブロロ ゴゴ ゴゴゴゴ ブィーン ブブブ
角を曲がって建物の搬送口が見えてくると、出撃前の軍事基地かと思うような騒音と車の臭い。
「ガソリン臭~い」と言ったら「トラックはディーゼルだからガソリンじゃない」と奴は訂正する。女子にはどっちもいっしょ、ただただやかましくて臭い。
ガッチャン
タイムレコーダーがカードに刻印する時の音と手ごたえは面白い「おう、たしかに確認したぞ」ってベテラン守衛さんが言ってる感じがする。
ブワアアアアアアアー
車の音が中にまでぇ……と思ったら、ごっつい空調の音。それに、機械や油の臭い、紙や梱包材の臭いが混ざって、いかにも昭和の職場って感じ。
青春の全てをここに掛けろと言われたらごめん被るけど、一週間限定のバイトだと思えば面白い。
パンパン! パンパン!
「さあ、始業時間やでえ、みんな、チャッチャと持ち場に付けよー!」
元気よく手を叩きながら関西弁のオッサンの声が響く。
いちおう会社のロゴの入った作業着は着てるけど、頭にねじり鉢巻き、耳にボールペン、手には指先ちょん切った軍手、腰に手拭いぶら下げた姿は伊勢半のイメージからは程遠い。
「おう、メグリィ、仕事は覚えたかあ!?」
「はい、ボチボチ!」
「さよか、はよ慣れて小包の方に来いよお~」
「はい、そのうちに~!」
適当に返事しておく。
大阪弁のオッサンは、正規の職員じゃないけど、郵便小包のセクションを任されていて、事実上、二階の発送場のボス。さっきの号令でも分かる通り、フロアの仕事の差配をやっている。本物の課長は別に正規の社員のおじさんがいるんだけど、このおじさんは事務所の方に居るらしくて、現場にはあまり顔を出さないんだとか。
わたしの持ち場は、貨物と呼ばれていて、大型の商品や梱包や取り扱いにコツがいる酒類なんかを扱っていて、わたしは、そこでひたすら伝票を書く仕事。
伝票を手書きなんて、令和じゃ考えられないんだけど、ここで扱う商品のほとんどは手書き。それで、一般的に男よりは字の綺麗な女子があてがわれる。
「三枚の複写だから、強いめに書いてね」
日ごろは三人で伝票書きをやっているおばさんが最初に注意してくれる。
なるほど、四枚つづりの伝票の三枚は裏にカーボンインクが付いている。
建物の上の階はよく分からないんだけど、納品された商品を包装してコンベアでうちの二階に下ろしてくる。近隣の湘南や京浜地方はそのまま一階に送られて、それぞれの営業所に送られる。それ以外の地方便をうちで引き受けて、郵便や小包に仕立てて、二階の発着場から地方に送り出すという仕組みになっている。
『アホンダラ! どこに目ぇ付けとんねん、そんなとこ置いたらけ躓くやろが!』
また関西弁が怒鳴ってる。
実は、この関西弁の当たりがきつくて、伝票係りの女子がみんな辞めてしまって困っていたらしい。
高校生らしい男の子がビビっちゃってるけど、それをオッサン込みでなだめに行ってるのは、なんと、あの10円男だった。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人
159『伊勢半配送センターでバイト』
というわけで、大浜線谷口(やとぐち)駅で降りて、伊勢半デパート配送センターを目指して歩いている。
というわけと言うのは、おとついの帰りのホームで十円男と出くわしてバイトの助っ人を頼まれたから。
谷口は大浜市に三つある駅の一つで大浜高校に通う生徒の半分はここで乗り降りするらしい。配送センターは大浜市の東の外れ、令和の谷口に足を踏み込んだことのないわたしは「ああ、大浜市の田舎なんだ」という感想。
大浜市は近在では大きな街だけど、東京や横浜とは比べようもない地方都市。だいいち大浜に伊勢半デパートは無い。地価の高い京浜地方を外して物流センターを持ってきたというのが正直なところなんだろうね。
でも、名にし負う天下の伊勢半、五階建てのビルの上には営業店と同じ『伊勢半』のロゴマークが掲げられ、マークの下の『配送センター』の文字に気づかなければ買い物客が入って来そう。
「ああ、それは無いなあ」
昨日事務所に連れて行ってくれた10円男はあっさり言う。
「デパートというのは、都心とか繁華街にあるだろ。ここは、そうじゃないから、看板に気づいても――ちょっと違う――と思う。建物も色気が無いから、すぐに営業店じゃないことに気づく」
色気が無いというところで、わたしの顔を見たけど、それには触れないでおいてやる。
ブロロ ブロロ ゴゴ ゴゴゴゴ ブィーン ブブブ
角を曲がって建物の搬送口が見えてくると、出撃前の軍事基地かと思うような騒音と車の臭い。
「ガソリン臭~い」と言ったら「トラックはディーゼルだからガソリンじゃない」と奴は訂正する。女子にはどっちもいっしょ、ただただやかましくて臭い。
ガッチャン
タイムレコーダーがカードに刻印する時の音と手ごたえは面白い「おう、たしかに確認したぞ」ってベテラン守衛さんが言ってる感じがする。
ブワアアアアアアアー
車の音が中にまでぇ……と思ったら、ごっつい空調の音。それに、機械や油の臭い、紙や梱包材の臭いが混ざって、いかにも昭和の職場って感じ。
青春の全てをここに掛けろと言われたらごめん被るけど、一週間限定のバイトだと思えば面白い。
パンパン! パンパン!
「さあ、始業時間やでえ、みんな、チャッチャと持ち場に付けよー!」
元気よく手を叩きながら関西弁のオッサンの声が響く。
いちおう会社のロゴの入った作業着は着てるけど、頭にねじり鉢巻き、耳にボールペン、手には指先ちょん切った軍手、腰に手拭いぶら下げた姿は伊勢半のイメージからは程遠い。
「おう、メグリィ、仕事は覚えたかあ!?」
「はい、ボチボチ!」
「さよか、はよ慣れて小包の方に来いよお~」
「はい、そのうちに~!」
適当に返事しておく。
大阪弁のオッサンは、正規の職員じゃないけど、郵便小包のセクションを任されていて、事実上、二階の発送場のボス。さっきの号令でも分かる通り、フロアの仕事の差配をやっている。本物の課長は別に正規の社員のおじさんがいるんだけど、このおじさんは事務所の方に居るらしくて、現場にはあまり顔を出さないんだとか。
わたしの持ち場は、貨物と呼ばれていて、大型の商品や梱包や取り扱いにコツがいる酒類なんかを扱っていて、わたしは、そこでひたすら伝票を書く仕事。
伝票を手書きなんて、令和じゃ考えられないんだけど、ここで扱う商品のほとんどは手書き。それで、一般的に男よりは字の綺麗な女子があてがわれる。
「三枚の複写だから、強いめに書いてね」
日ごろは三人で伝票書きをやっているおばさんが最初に注意してくれる。
なるほど、四枚つづりの伝票の三枚は裏にカーボンインクが付いている。
建物の上の階はよく分からないんだけど、納品された商品を包装してコンベアでうちの二階に下ろしてくる。近隣の湘南や京浜地方はそのまま一階に送られて、それぞれの営業所に送られる。それ以外の地方便をうちで引き受けて、郵便や小包に仕立てて、二階の発着場から地方に送り出すという仕組みになっている。
『アホンダラ! どこに目ぇ付けとんねん、そんなとこ置いたらけ躓くやろが!』
また関西弁が怒鳴ってる。
実は、この関西弁の当たりがきつくて、伝票係りの女子がみんな辞めてしまって困っていたらしい。
高校生らしい男の子がビビっちゃってるけど、それをオッサン込みでなだめに行ってるのは、なんと、あの10円男だった。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
妖・魔物 アキラ
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人
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