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157『こっそりお守りを置いて……』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

157『こっそりお守りを置いて……』   




「ちょっと、テスト期間中に悪いんだけど」

 監督の先生が出ていくと同時に10円男に声をかける。ちょっとでも間を置くと、こいつはスグに居なくなる。

「ええぇ、バイトなんだけど」

「時間は取らせないから、去年もやった『クリスマスの集い』なんだけど、今年もやろうかって、ちょっと話」

「ああ、いいんじゃない。俺はバイトで参加できないけど」

「ええ、なによ、それぇ」

「ごめん、年末はいろいろあって。じゃぁ」

 後姿で手を振ってサッサと帰っちまいやがる。

「去年はケンカまでして手伝ってくれましたのにねぇ(070『いよいよクリスマスイブの集い』)」

「まあ、いいじゃない。集まってから言うつもりだったけど、ノリでやっていこうと思ってたし」

 真知子が慰めてくれて気持ちを切り替えて職員室に向かう。



「失礼しまーす、2年3組の時任でーす。花園先生いらっしゃいますかぁ」

 ドアを20センチほど開けて、誰に言うともなくエクスキューズしておく。

 試験中なんで、生徒の出入りは禁止なので、いちおうの断りを入れる。教頭先生がチラリと見てくれて、これで入室許可をとったことになる。二年の師走ともなると、たいていのことは阿吽の呼吸。

 我が担任は、向こうの共用テーブルで監督していたクラスの答案を確認している。

 一枚一枚名前と番号を確認して、確認し終えたら、でっかいホッチキスで右上を留めて袋に戻して監督者欄にサイン。そして、テーブルの周囲で待機してる教科の先生に渡して任務終了。

 答案をなくしたり間違ったりしないための重要な儀式。この間は生徒ごときが声をかけても相手にはされない。校長が声をかけても「後にしてください」というくらいのものなんだ。

 実は、これを承知で職員室に来ている。

 試験期間中なので、職員室に長居することもできない。

 それで、勝手知ったる花園先生のデスクに、例のお守りをそっと置いておく。

 教頭先生は書類仕事やってるし、答案受け渡し以外の先生はほとんどいないし、先生のデスクに0.5秒でお守り置くところを目撃した者は居ない。

 静かに頭だけ下げて職員室を出ていく。

 誰も気づいてはいない。

 これで先生は――いったい誰が!?――と驚きながらも詮索することは無い。

 ものが無くなっているのなら大騒ぎだろうけど、落したお守り、それも本来買うはずだった『良縁成就』のお守りなら、少々気味悪くても、ひょっとしたら、神さまのアフターサービス? それとも親切な妖精さん? とか……信じなくても、詮索とかはしないだろう。


 一件落着して中庭へ。


 作法室前のベンチにお仲間たちが先着している。

「あ、新曲の練習するんですよおー(⌒∇⌒)」

 ロコが嬉しそうに手を振って、ヒョコヒョコとベンチの端っこに座る。

「ここで、二三十分歌ってたら、去年を知ってる二三年生なら気づくでしょ」

「一年生は……ほら、もう何人かこっち見てるし」

 真知子とたみ子の仕込も余裕の感じ。


 いの~ち掛けてと~ 誓った日から~ すてきな思い出~♪


 あ、お祖母ちゃんのオハコ!

 時どき『あの、すばらしい愛をもう一度ぉ~』のところを何度もリフレイン、というか、ほとんどここしか口ずさまないから、通しては知らない。

 子どものころから聞いてるから、わたしにとっても懐メロなんだ。

「アハハ、この春に出た新曲だから、まだ憶えてないんですけどねえ」

 ロコが、この一言を言ってくれなかったら「ああ、懐かしいぃ……」と不用意に呟いたかもしれない。



☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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