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152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』   




 お城と言えば地元の宮之森城しか知らないわたしらに大阪城は巨大に映る。

 
「すごい堀ですねえ……」

 大手門から入る時にロコが呟く。

 確かに、渡っている外堀はグランドキャニオンかっちゅうくらいに深くて幅が広い。

「信長も、ここを攻めるのは苦労したみたいです。ほら、大手門の脇にあるのが千貫櫓なんですけどね、攻めあぐねた信長は『あれを落した奴には千貫文の銭をやるぞ!』ってはっぱをかけたって言います」

「え、信長が大阪城攻めたの?」

 小学6年で歴史知識の停まったわたしが質問。

「元々は、石山本願寺ってお城みたいなお寺があって、信長に楯突いてたんです。そのころからの櫓なんです。けっきょくは交渉で立ちのかせるんですけど、本能寺の変になって。その後秀吉が大坂城を作って、江戸幕府に受け継がれるんですけど、有名な櫓だったんで、同じ場所に建てた櫓には同じ『千貫櫓』と名付けたんです」

 最終日に来て、ロコの頭はますます冴えてきてるようだ。

 蛸石とか振袖石とかの巨石に目を丸くして大手門を潜ると「バレーコートが四面はとれる!」と佳奈子が驚くぐらいに石垣やら多門櫓とかで囲まれた空間。

「この空間を枡形って言うんですけど、日本一なんですよ」

 ほうほう……多門櫓門を潜ると、うちの高校を敷地ぐるみ入れてもお釣りが出そうな、もうここだけで十分お城ができそうなくらいのところに出る。

「秀吉の頃は……と言っても秀吉の死後なんですけど、五大老の一人だった家康は、この西の丸に天守閣を築いたんです」

「ええ、一つの城に二つの天守閣? ちょっと反則っぽい」

「佳奈ちゃんの言う通りです。諸大名たちは、本丸の秀頼に挨拶する前に、こっちに足が向いてしまうんですよね」

「なるほどぉ、それで、ちょっとずつ『儂こそが天下人』って印象付けていくのねえ」

「さすが家康」

 感心する真知子とたみ子。

 しかし、これだけの情報を持ってるロコは、えらい奴だ!

 西の丸を横目に進むと、またもグランドキャニオンかっちゅうくらいの内堀が見えて、桜門を潜って、いよいよ本丸。

 ここでも、桜門を潜るや否やロコのバスガイドさん顔負けの解説。

 ロコには悪いんだけど、我々は本丸広場の真ん中に向かった。

「ああ、これこれ、次に案内しようと思っていたタイムカプセルですよ!」

 ああ、予定に入っていたんだ(^_^;)

 まだ設置されたばかりのタイムカプセル……と言っても、実物は地中深くに埋められて、地上に出てるのはステンレス製の丸ボタンというか、大きな中華ねべをひっくり返して底が見えてるって感じのモニュメント。

「5000年後に開けるんだねぇ」

 たみ子が跪いて、スリスリ撫でる。わたしたちも倣って、スリスリペチャペチャ。

「懐かしいですね、去年の万博」

「そうねぇ、万博そのものも面白かったけど、船場の古いお店で泊めてもらったこととか」

「みんなで炊事したり」

「銭湯にも行ったよね」

「なんか、シンミリしちゃうねえ」

「あ、知ってます? カプセルは二個あって、一個は2000年に開封して点検するんですよ!」

「2000年かぁ……」

「あと、29年かあ……」

 たみ子が呟いて、みんな遠い目になる。

「46歳になってるんですねえ……」

「立派なオバハンだねえ……」

 2000年かぁ……わたしが生まれるのは、さらにその7年後なんだけどね(^_^;)。

「中にアカマツの種が入れられてましてね、2000年にはその種を、この横に植えて発芽するかどうか実験するんだそうですよ」

「ああ、それ、楽しみだなあ!」

「ねえ、あたしたちも卒業の時にタイムカプセル作って埋めてみない!?」

 え?

 佳奈子の突然の提案、数秒遅れて、みんなの心に灯が点いた!

「やっぱり、開封は5000年後ですかねえ(^_^;)」

 ロコのツッコミに、みんな大笑いして、学校に帰ったらMITAKAや生徒会で相談してみようということになった。


 その後、天守閣の前でクラス写真。そして直美さんの提案で学年全部の自由な集合写真。

「さすがに収まらないなあ(^_^;)」

 そう言うと、直美さんは天守台の階段っを上って、石垣の上からカメラを構えた。

「手伝いましょうかぁ!?」

 手をメガホンにして聞いて見たら「今日はバイトじゃないでしょ!」と返事、みんなにも笑われる。

 天守台は校舎の四階ぐらいの高さがあって、余裕で全員が収まったみたい。

 ハイ、チーズ!!

 カシャ!



 わたしたちの修学旅行はめでたくお開きになった。



 こぼれ話を一つ



 集合写真のあと、午前の宝塚と同様に各自で自由行動にした。

 わたしは天守閣に上って、最上階の展望階に行ってみた。

 ロコの姿も見えたので声をかけようかと思ったら、外回廊の手すりに腕を置いて景色を見ている牧内さんが目に留まった。

「なんか、シミジミしてるね」

「ああ、グッチ」

 時司ではなくてグッチと呼んでくれるのが嬉しい。

「あそこ、なんだか分かる?」

「ええとぉ……」

 六階建てのビルで、屋上に塔があって、いくつもアンテナが立っている。

 ちょっと佇まいが警視庁に似ている。

「あ、大阪府警!?」

「ううん、NHK」

「あ、ああ」

「コールサインはJOBK。なんでか分かる?」

「ええと……」

「ジャパン、オオサカ、バンバチョウ、の、カド」

「え、ああ……」

「いやだ、冗談よ(^_^;)、NHKはJOで始まって設立の順番にABCなの。東京はJOAK」

「ああ、そうなんだ!」

「来年ね、あそこの放送劇団受けようかと思ってるの」

「え、そうなの!?」

「地理的には東京の方が近いんだけど、大阪に親類がいるし……」

「え、そうだったんだ」

「東京は劇団も多いし、放送劇団も規模が大きいんだけどね」

「あ、うん、そうでしょうねえ……」

「東京じゃ埋もれてしまう……というか、自信がね……なんか、ちょっと弱気かなあ」

「え、あ……どうだろ」

 牧内さんは同い年とは思えないくらいしっかりしている。去年からフォークの集いやら文化祭やらで世話になってるし、学校とも交渉して、シブチンの学校から階段下とは言え、部室も作らせたし。

「県の演劇研究会もね、なんとか連盟にできそうだし……」

 そうだ、この人は、演劇部の組織を教師中心の高校演劇連盟にするのにも尽力してたんだ。

「…………………」

 決めたように言ってるけど、やっぱり悩んでいるんだ。

 たった一回の青春だもんね。

「演劇のことはよく分からないけど、牧内さんは……突破力のある人だと思う」

「うん……そうだよね、うん、ありがとう、やっぱり受けてみる!」

 明るく笑ってリュックから取り出して見せてくれた。

 放送劇団研究生募集要項

「え、いつの間に?」

「自由時間にね、ちょっとひとっ走り(^_^;)」

「ひとっ走り」

「そう、ひとっ走り」

 そう言うと、牧内さんは何かにアッパーカットを食らわせるように握りこぶしを突き出した。

 天守の屋根に停まっていたハトたちがビックリして飛んで行った。



 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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