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119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』
「ええと……だあれ?」
質問に質問で返してしまう。ネックファンで余裕ができたのか、結界を張るだけとはいえ警備をやっている自負心からなのかは分からない。
白の少女は、それにこだわることもなく応えてくれる。
「ええと……アキラ」
「かっこいい名前ね」
見かけは小柄な女の子なんだけど、白のワンピースにペタンコのサンダル、それに少しワイルドなシルバーのロン毛は「アキラ」っていう、ちょっとボーイッシュな名前が似合ってるので正直な感想になってしまう。
「あなたは?」
「あ、メグリ、時司巡……こんな字」
空中に大きく『巡』の字を書く。
「ああ、巡洋艦の巡だね」
「ジュンヨウカン?」
なんだか羊羹の二級品みたいなのを想像してしまう。
「軍艦の巡洋艦、戦艦の次に大きいの。で、メグリは魔女なの?」
「ちがうちがう……魔法少女」
相手が人間だったらうかつに魔法少女なんて明かさないんだけど、このアキラは工事関係者とかの人間じゃないし、近づいても平気そうだから、悪意のある妖や魔物でもなさそう。
「魔法少女かあ……久しぶりに見たぁ」
「あ、見たことはあるんだ」
「うん、海没処分になるとき見送りに来てくれた」
「カイボツ?」
「うん、海軍の艦だったからね」
「え、アキラは軍艦だったの?」
「軍艦じゃないよ、潜水艦」
「潜水艦も軍艦でしょ?」
「フフ、軍艦と呼べるのは戦艦、巡洋艦、航空母艦とかだよ。それ以外の小さいのは艦艇っていうんだ」
その時、風が吹いてアキラのロン毛が戦いで首筋の赤いあざが目に留まってギクッとした。
「ああ、ほかにもあるよ、こことかね」
ワンピをめくった太ももにも大きなあざ。
「裸になると、他にもある。沈められた時に撃たれた痕だよ」
「撃たれて沈んだの?」
「うん、魚雷とかで撃ってくれたら一発で済んだんだけどね、5インチ砲……こんくらい(手で丸を作ってお茶碗の直径ぐらいの示した)ので撃たれたから、合計8発もぶち込まれたよ」
「8発も」
「うん、魚雷は高いし、5インチの弾なんて腐るほどあったしね……あ、終戦の時は、あっちの神戸港に居て、そこで捕まって。このすぐ前の海を通って和歌山の沖で沈められたんだ。ここに居ると両方が見えるんだ、それで、ちょっとお邪魔してる。メグリは?」
小柄だから膝を抱えて見上げるようにわたしを見るアキラはめちゃくちゃ可愛い。
「あ、安倍晴天ていう陰陽師の手伝いで結界を張ってるの。この大屋根の中にはいっぱい妖とか魔物がいるんだよ」
「ああ、あんたたちだったのか。ここの悪者たちやっつけてたのは」
「あはは、やっつけてるのは晴天ていうボスだけどね。アキラ……」
「なに?」
ちょっと失礼かもと思ったけど、思い切って聞いてみた。
「アキラって、日本の潜水艦なのに、そのぉ外人さんぽいね」
「あ、ああ。生まれはイタリアだからね」
「え、イタリア人!?」
「アハハ、人じゃないけどね。最初の名前は『コマンダンテ・カッペリーニ』って言うんだ」
「え、男みたい」
「イタリアの提督の名前だよ。イタリアが負けたらドイツに接収されて『UIT24』になって、ドイツが負けて日本に接収されて『イ号503』になった」
「え、じゃあ、アキラっていうのは?」
「途中、臨時にアキラ3号って呼ばれてた時期があってね、それがいちばん気に入ってる」
「そうだね、いちばん似合ってる」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
なんだか、昔からの友だちみたいになってきた(^_^;)。
「ねえ、その首にかけているのはなに?」
「あ、ネックファン。暑さは妖気を張って防いでるんだけど、これを掛けるといっそう涼しくなるんで、ボスの晴天がくれたんだ」
「へえ」
「かけてみる?」
「うん」
「どうぞ……」
「うわあ、なにこれ! 気持ちのいい林の中にいるみたい!」
「でしょでしょ、尾瀬っていうところのイメージなんだよ」
「うんうん、いいところだねえ」
夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪
「なに、その歌? この雰囲気にピッタリなんだけどぉ!」
「『夏の思い出』っていうんだよ」
「いいタイトルだねぇ……あ、やってきた!」
ネックファンを付けたまま叫ぶアキラ!
顔は、最初のように南の空を見つめ、すぐに両手をその方向に伸ばした。
「アキラ?」
「静かに!……距離5000、方位角20……両舷魚雷戦ヨーイ! 距離4000……3000……2000……テーー!」
アキラの両の手から8本の泡の槍が伸びて、数秒後に関空の上空辺りで大爆発!
え、大丈夫!?
ビックリしたけど、ちょうど着陸態勢に入っていた旅客機は何事も無かったように車輪を出して着陸していった。
「ねえ、いまの……」
振り返った時には、もうアキラの姿は無かった。
あ、ネックファン貸したままだった!
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人
119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』
「ええと……だあれ?」
質問に質問で返してしまう。ネックファンで余裕ができたのか、結界を張るだけとはいえ警備をやっている自負心からなのかは分からない。
白の少女は、それにこだわることもなく応えてくれる。
「ええと……アキラ」
「かっこいい名前ね」
見かけは小柄な女の子なんだけど、白のワンピースにペタンコのサンダル、それに少しワイルドなシルバーのロン毛は「アキラ」っていう、ちょっとボーイッシュな名前が似合ってるので正直な感想になってしまう。
「あなたは?」
「あ、メグリ、時司巡……こんな字」
空中に大きく『巡』の字を書く。
「ああ、巡洋艦の巡だね」
「ジュンヨウカン?」
なんだか羊羹の二級品みたいなのを想像してしまう。
「軍艦の巡洋艦、戦艦の次に大きいの。で、メグリは魔女なの?」
「ちがうちがう……魔法少女」
相手が人間だったらうかつに魔法少女なんて明かさないんだけど、このアキラは工事関係者とかの人間じゃないし、近づいても平気そうだから、悪意のある妖や魔物でもなさそう。
「魔法少女かあ……久しぶりに見たぁ」
「あ、見たことはあるんだ」
「うん、海没処分になるとき見送りに来てくれた」
「カイボツ?」
「うん、海軍の艦だったからね」
「え、アキラは軍艦だったの?」
「軍艦じゃないよ、潜水艦」
「潜水艦も軍艦でしょ?」
「フフ、軍艦と呼べるのは戦艦、巡洋艦、航空母艦とかだよ。それ以外の小さいのは艦艇っていうんだ」
その時、風が吹いてアキラのロン毛が戦いで首筋の赤いあざが目に留まってギクッとした。
「ああ、ほかにもあるよ、こことかね」
ワンピをめくった太ももにも大きなあざ。
「裸になると、他にもある。沈められた時に撃たれた痕だよ」
「撃たれて沈んだの?」
「うん、魚雷とかで撃ってくれたら一発で済んだんだけどね、5インチ砲……こんくらい(手で丸を作ってお茶碗の直径ぐらいの示した)ので撃たれたから、合計8発もぶち込まれたよ」
「8発も」
「うん、魚雷は高いし、5インチの弾なんて腐るほどあったしね……あ、終戦の時は、あっちの神戸港に居て、そこで捕まって。このすぐ前の海を通って和歌山の沖で沈められたんだ。ここに居ると両方が見えるんだ、それで、ちょっとお邪魔してる。メグリは?」
小柄だから膝を抱えて見上げるようにわたしを見るアキラはめちゃくちゃ可愛い。
「あ、安倍晴天ていう陰陽師の手伝いで結界を張ってるの。この大屋根の中にはいっぱい妖とか魔物がいるんだよ」
「ああ、あんたたちだったのか。ここの悪者たちやっつけてたのは」
「あはは、やっつけてるのは晴天ていうボスだけどね。アキラ……」
「なに?」
ちょっと失礼かもと思ったけど、思い切って聞いてみた。
「アキラって、日本の潜水艦なのに、そのぉ外人さんぽいね」
「あ、ああ。生まれはイタリアだからね」
「え、イタリア人!?」
「アハハ、人じゃないけどね。最初の名前は『コマンダンテ・カッペリーニ』って言うんだ」
「え、男みたい」
「イタリアの提督の名前だよ。イタリアが負けたらドイツに接収されて『UIT24』になって、ドイツが負けて日本に接収されて『イ号503』になった」
「え、じゃあ、アキラっていうのは?」
「途中、臨時にアキラ3号って呼ばれてた時期があってね、それがいちばん気に入ってる」
「そうだね、いちばん似合ってる」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
なんだか、昔からの友だちみたいになってきた(^_^;)。
「ねえ、その首にかけているのはなに?」
「あ、ネックファン。暑さは妖気を張って防いでるんだけど、これを掛けるといっそう涼しくなるんで、ボスの晴天がくれたんだ」
「へえ」
「かけてみる?」
「うん」
「どうぞ……」
「うわあ、なにこれ! 気持ちのいい林の中にいるみたい!」
「でしょでしょ、尾瀬っていうところのイメージなんだよ」
「うんうん、いいところだねえ」
夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪
「なに、その歌? この雰囲気にピッタリなんだけどぉ!」
「『夏の思い出』っていうんだよ」
「いいタイトルだねぇ……あ、やってきた!」
ネックファンを付けたまま叫ぶアキラ!
顔は、最初のように南の空を見つめ、すぐに両手をその方向に伸ばした。
「アキラ?」
「静かに!……距離5000、方位角20……両舷魚雷戦ヨーイ! 距離4000……3000……2000……テーー!」
アキラの両の手から8本の泡の槍が伸びて、数秒後に関空の上空辺りで大爆発!
え、大丈夫!?
ビックリしたけど、ちょうど着陸態勢に入っていた旅客機は何事も無かったように車輪を出して着陸していった。
「ねえ、いまの……」
振り返った時には、もうアキラの姿は無かった。
あ、ネックファン貸したままだった!
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
辻本 たみ子 2年3組 副委員長
高峰 秀夫 2年3組 委員長
吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲 2年学年主任
先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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