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112『選と学校に行く』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

112『選と学校に行く』   




 ちょっとぉ、あり得ないんですけど……。


 思っていても口には出さない、言っても無駄なの分かってるからね。

 
 今日の登校にはお祖母ちゃんが付いて来ている。

 それも、どう見たって二十代前半という若作り。

「母親の設定でも無理があると思うんですけど」

「あら、姉の選(すぐり)という設定なんだけど」

「選?」

「うん、旋(まわり)が妊娠した時にね、生まれる子の名前を選と決めたんだ」

「それって、わたしのことでしょ?」

 お母さんは、後にも先にもわたし一人しか生んでないし。

「そうよ、それで選って名前に決めたんだけどね、旋が嫌がってお蔵入りになった名前」

「ウウ……」

 このテスト休みに、なんで学校に行くのかというと、図書室で借りた本を忘れていて、返却期限が今日だから……これは、わたしの事情。

 お祖母ちゃんはPTA新聞の集まりが学校であるから。

 どういう細工をしたのか、お祖母ちゃんはお母さんの名前で役員を引き受け、実務はお姉ちゃんの選という設定にして、面白がっている。年金暮らしの引退魔法少女というのは始末が悪い。

 フワフワのフォークロアワンピにストローハットを阿弥陀に被って、トンボのサングラス。70年代のファッションらしいけど恥ずかしい。

 むろん、わたしは夏の制服。

 そのコントラストが面白いのか、三軒隣りの早乙女のお婆ちゃんは「あらまあ(^〇^)」と喜んでくれる。また昭和まで付いてこられては困るので「お早うございます(^▭^)」とお愛想の挨拶してお仕舞にしておく。

 
 ミーーンミンミン ミーーンミンミン ミーーンミンミン


「おお、昭和の蝉は元気がいいねえ」

 いつの間にか戻り橋を渡って蝉しぐれに感動するクソババア。

「あのぅ、学校着くまで、あまり喋らないでほしんだけど(-_-;)」

「え、なんで?」

「だって、目立つしぃ」

「え、そう? 思い切り70年代に合わせてきたんだけど」

「70年代の人間は『昭和の蝉』とか言わないし」

「アハハ、そだね(ノ≧ڡ≦)」

「テヘペロなんかかまさないで(-_-;)」

 途中、写真館の直美さんにも出くわして「妹がいつもお世話になってます」って要らん挨拶をする。
 直美さんも好奇心の強い方だから、バイトに来た時に質問とかされたら、メチャ困る。

 写真を撮りたそうに目が輝いたから、さっさと学校に向かう。


 あれ?


 校門を潜ると、ちょうど10円男がお父さんらしきガッチリしたおじさんと校舎に入っていくのが見えた。

「お、未来の旦那」

「あ、ちょ!」

「なんか、刑事に連行される過激派みたいだねぇ」

 なんで、この試験休みに父親同伴で……?

「じゃ、お姉ちゃんは会議に行ってるから。帰り間に合ったらお昼ぐらい食べさせてあげるから。図書室にいるんでしょ?」

「あ、うん」

「じゃね」

 
 図書室に向かうと鍵がかかっている。ドアの上の窓は薄暗いまま……まだ司書の先生は来ていない感じ。

 遅れて横に並んだ一年生が――なんだぁ――とあきらめ顔。

「あ、わたし鍵借りてくるから」

「え、いいんですか?」

「うん、司書の先生育休明けだからね、保育所とかで遅れる時があるから」

 二年にもなると、この辺の事情やら要領のかまし方にソツは無い。

 図書室の鍵は事務室。公の鍵で生徒は使えないので親しい先生に頼んで開けてもらう。

 親しい先生と言えば担任の花園先生。

 
 失礼しま~す。


 しおらしくドアを開けて職員室。

 え、先生たち、いっぱい来てる。

 テスト休みの職員室は閑散としている。出勤してる先生たちも他の準備室とかに居て、こんなに来ていることはないんだけどね。

 花園先生……あ、10円男とガッチリおじさんを前にお話し中。

 仕方が無いので、ザっと見渡して――お、めずらしい!――現国の杉野先生が目について島二つ向こうの杉野先生に頼むことにする。

「すみません、図書室開けて欲しいんですけど、お願いできませんか?」

「え、ああ……」

 あ、断る理由を探してる……と思ったけど意外に「ちょっと待ってね」と教務黒板のところへ。
 そうか司書の先生が欠勤でないかどうかを確かめてるんだ。欠勤だったら施錠までやらなきゃならないもんね。ものぐさの杉野先生は施錠まで付き合ってくれるはずはない。

「よし、いっしょにおいで」

 隣りの事務室で鍵をもらって図書室へ。

「今日は、先生方みんな来られてるんですね」

 図書室まで距離があるんで世間話的に聞く。

「ああ、今日は給料日だからねえ」

「え、ああ……」

 そうか、この時代は振込とかないんだ。

 写真館のバイト料も現金だし、ちょっと親近感。

 図書室の前に着くと、他にも四人の生徒が待っていて、最初の一年生はペコリと頭を下げてくれるし、少し気持ちいい。


「すごい美人といっしょだったじゃない!」


 用件を済ませて校舎を出ると、ウォータークーラーで水を飲んでいた佳奈子が顎を拭いながら寄って来る。女バレで毎日来てる佳奈子とはよく会う。

「え、あ、ああ……お姉ちゃん(^_^;)」

「あ、去年文化祭に来てた!?」

「あ、ああ、まあね」

「ひょっとして懇談?」

「ううん、PTA新聞の係りやってるから、その会議だって」

「そうか、そうだよね。グッチは成績そこそことってるもんね」

「え、懇談て、成績不振者の?」

「うん、欠点四つも五つも取ってると呼び出されるみたい」

「ええ……10円、加藤君来てたよ(一緒に居たのは、たぶんお父さんだ!)」

「うん、二回目の留年はシャレにならないからねぇ……」

 10円男もいちおう仲間だから心配にはなる。

 センパーイ!

 後輩から声がかかってグラウンドに戻っていく佳奈子。

 さて、選さんの会議はもう少しかかるだろうなあ……思っているとスマホが震える。

 カバンで隠しながらスマホを見る。

――ごめん、会議長引くみたい。どうする?――

――今日はもう帰る――

――そうか、じゃあ、またこんどね(^▽^)/――

 スマホを仕舞おうとしたら、ちょっと不思議そうな顔をして二年の生徒が通り過ぎて行った。

 ヤバイヤバイ、昭和でスマホは禁止! 選さんにも言っておかなくっちゃ!

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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