巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

武者走走九郎or大橋むつお

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083『第五回MITAKAは作法室で』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

083『第五回MITAKAは作法室で』   





 今日は久々のMITAKA(みんなでたのしく語る会)だ。


 学校は、いわゆるテスト休みという奴で、実質春休みと変わらない。

 だからね、数えて五回目になる今日は学校の作法室を借りて朝の10時からやっている。

 作法室というのは、小中学校には無かった教室。

 一年の教室がある北館の一階に、調理実習室、洗濯実習室、作法室と並んでいる。
 普通教室二つ分の作法室は二つに分かれている。

 一つは洋間。板敷で暖炉が設えてあって、テーブル席とソファーの席がある。隅っこに小テーブルに載った給水機みたいなの、寸胴に猫脚、下の方にガスコンロが入ってるけど、ガスのホースは外してある。

「ああ、サモワールだ」

 真知子が、田舎で骨とう品を見つけたように珍しがる。

「おお、サモワール!」と喜ぶ者と「え、サモワール?」と、わたし同然の者もいる。

「ロシアの湯沸かし器だ、ブルジョアは、これで湯を沸かしてお茶ばかリ飲んでた」

 これは10円男の感想。

「チェーホフの作品によく出てくるわ。この一角だけ切り取ったら、そのまま『ワーニャ伯父さん』とか『三人姉妹』とかできそうね」

 これは、代議会で堂々、生徒規約と部活動の現状の矛盾を突いて部室の確保を確約させた演劇部の牧内千秋。

「集まりは、隣の和室だからね。ここで落ち着いちゃダメよ」

 たみ子の一言で、みんな和室に移動。

 和室は、旅館みたく玄関があって、上がると、八畳が二間。一つには茶の湯の風呂もあって、横には、ちゃんと水屋もある。普段は、茶道部、華道部、筝曲部で使っているらしい。

「おお、電気カーペットですよぉ!」

 ペチ

 ロコが足元の絨毯が電気カーペットであることに気付いてスイッチを入れる。

「これだけじゃ足りないから、洋間の方にストーブあったでしょ」

 真知子が言うと、男子三人が立ち上がってストーブを取りに行き、女子は、すでに沸いている電気ポットでお茶の用意。残ったみんなで座卓テーブルの脚を出して四つくっつける。

 いやはや、五回目となると、みんな段取りがよくなった(^_^;)。

 今日は特に予定していた話題は無い。真知子は「いやあ、ただのズボラよ」と謙遜するけど、狙いはいいと思うよ。人の集まりだから、世話役はいるし、自然にリーダー的になってしまうけど、けして、議論とかの方向付けはしない。グループとして色とか傾向性は持たないでおこうというのは大賛成。

「畳敷きだから暖かいかと思ったけど、落ち着くと、やっぱり寒いねえ」

 バレー部の佳奈子も、じっとしていると寒いようだ。電気カーペットとストーブでかなりマシにはなってるんだけど、エアコンの無い鉄筋校舎は寒いよ。

「寒いって言えばさぁ、昼からストーブ切るのは勘弁してほしい」

 四組の自称冷え性さんがこぼす。

「ああ、15度だったか18度だったか超えたら切らなきゃならないって決まりなんだろ」

 高峰君が三杯目のお茶を飲みながら付け加える。

「花ちゃん(花園先生)が言ってたけど、事務所で温度計ってるらしいよ」

「え、事務所って、いつ行ってもストーブ、ガンガンに炊いてるわよ」

「ああ、職員室とか教官室とかもぉ」

「教室はちがうのにねえ」

「でも、ストーブの前の席って、暑くてボーっとしてしまう」

「うん、逆に窓際は隙間風とかひどくて、水滴さえつかない」

「水滴って?」

「外との温度差でさ、窓が汗かくじゃん」

「ああ、うちらの席は汗かいてるよ」

「ええ、あたしだけなのぉ!?」

「いや、俺の席も、そうだし」

「男子はいいわよ、パッチとか履けるしぃ。女子はスカートなんだよぉ」

「なんで、女はスカートって決めつけるのかなあ」

「そりゃあ」

「あ、加藤君、目がやらしい」

「ああ、言いがかりだ!」

「だって、もう今年で19でしょ」

「19だって未成年だ!」

 アハハ、令和じゃ、18から選挙権あるし(^_^;)。

「歳の話はフェアじゃないから」

 真知子が一言。

 まあ、令和の感覚じゃナンチャラハラになるんだろうけど、昭和の時代は、けっこう無頓着。

「思うんだけどな」

 挽回するように10円男は続ける。

「教室に扇風機を付けるべきだと思う」

「ええ、暖房の話してるんだけど」

「いや、だからな。教室の部分、上とかしたとか、真ん中とか窓際とかで、ずいぶん温度がちがうはずなんだ。だから、扇風機を付けて空気を攪拌すれば、相当な改善になると思う」

「それ、いいかもな。いきなり全教室というのは無理かもしれないけど、実験的にやってみればいいんじゃないかなあ」

「さすが高峰君」

「いや、アイデアは加藤君だ」

「さすが年の功!」

「年の功言うなあ!」

 アハハハハハ

 それから、いろんな話題が出た。

 ビックリしたのは、ロコの新聞ネタ。

「いやあ、朝刊の訃報記事に慶応生まれのお爺さんが無くなったって出てましたよ」

「ああ、明治元年は1869年だから……まだ居るだろうねえ江戸時代生まれ」

「ああ、文久ぐらいはいるかもねぇ」

 なんか、昭和って、江戸時代と地続きみたいだ(^_^;)。

「東京で、ソ連人男性不審死とかもあります。S新聞によると、去年3人で、今年はもう2人目らしいですよ」

「ロシア人はウォッカ飲むからねえ」

 ちょっとビビった。

 令和じゃ三日前に、そういうのあったばかりだしぃ。


 無駄話をしようということだったけど、扇風機とか、実りのあるMITAKだった。

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  

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