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053『文化祭の取り組みが決まった』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

053『文化祭の取り組みが決まった』   




 ちょっと反省


 そう呟くのはMITAKA(みんなで楽しく語る会)を見事に成功させた真知子。

「え、反省?」

 意外な呟きに思わず聞き返したけど、意味は分かってる。

 月末に迫った文化祭の取り組みが延び延びになって、やっと今日のホームルームで決まった。

 本番まで二週間を切っている。大きな取り組みはできないので『合唱コンクール』への参加でお茶を濁すことになったんだ。

「でも、いい曲に決まったからいいじゃないですか」

 ロコが励まして、真知子が頷く。

 

 今日は珍しく真知子と帰り道がいっしょ。



 週に三日はロコと駅まで歩く帰り道、昇降口出たところで真知子が追いついて来て「いっしょしていい?」ということで、三人並んで歩いている。

「あ、うん、『黒猫のタンゴ』明るい曲だし、『若者たち』は、よそのクラスとかぶりそうだけど、みんな知ってる曲だしね、高いポテンシャルで始められそうね」

 真知子は人格者なので、グチをこぼしながらも楽観的に話す。

 わたしは『カントリーロード』が頭に浮かんだんだけど、机の下でスマホを開いて見ると、この1970年はジブリの『耳をすませば』はおろか、ジョンデンバー元歌も発表されていない。

「カンツォーネって『サンタルチア』とか大人が原曲で歌うイメージで、歌声喫茶とかでもあまり歌われないじゃないですか。それを子どもの曲にして、めちゃくちゃ身近になりましたよ。うん、一年五組はカンツォーネの二十世紀旗手です!」

「ハハ、なんだか太宰治」

 え、なんで太宰治?

 太宰と言えば『走れメロス』と『富岳百景』しか知らないわたしは戸惑うんだけど、笑われそうだからウンウンと頷いておく。

「うん、ロコの言う通りね、決まったことだからがんばろう」

「はい!」

 君の行く道は~ 果てし~なく遠い~ ♪

「「「お」」」

 おあつらえ向きにレコード屋から『若者たち』が流れてきた。

「「「歯を食いしばり~君はいくの~か~」」」

 思わず口ずさむ。

 あ、そうだ、これってお祖母ちゃんのオハコだった。思い出すと笑っちゃう。

「え、なんか可笑しい?」

「ううん、お祖母ちゃんのオハコなんだけどね、最後のね『アテもないのに~』をね『アテはスルメで~』に替えちゃうんだ」

「え、スルメ?」

「あ、正しいですよ。スルメは堅いから、歯を食いしばらないと噛めません!」

「「アハハハ」」

「あ、そうか」

 お祖母ちゃんは正しかったんだ。

「でも、メグリンのお婆さんはお若いですね」

「そうね『若者たち』を歌う明治生まれって、そうそういないわよ」

「あはは、変なお祖母ちゃんだからぁ(^_^;)」

 ちょっと墓穴を掘りかけた。

「でも、文化祭の一週間後に体育祭っていうのはきついよね」

「あ、ああ……」

 そうだった、令和の時代は体育祭は五月というのがほとんどだった。十月第一週の体育祭は、ちょっと変。

「加藤君とは意見の合わないことだらけだけど、この件に関しては正論よねえ」

 思い出した、10円男は「そもそも行事の有り方がぁ!」と異議を唱えたんだ。

 みんな――また加藤の演説が始まった――と思って相手にしなかったけど、真知子はちゃんと話の中身で評価している。

「学校の運営って先生たちで決めちゃうよね、それは仕方ないと思うんだけど、生徒にもフィードバックする仕組みは必要よね」

 ちょっと背伸びしてみる。

「あ、うん。仕組みとしては生徒会を通して要望は出せると思うんだけど、そうね……たみ子に言ってみようか。他にも予算の事とか、文化祭そのものにしてもいろいろあるもんね」

「そうですよ、今年は仕方ないけど、来年は二年生です。実り多い高校生活を目指したいですよ!」

「うん、そうだね。ありがとう、ちょっと元気出てきた。じゃ、わたし、こっちだから」



 商店街の手前で、真知子は本来の通学路に戻って行った。



「真知子さんて、ほんとに意識高いですねえ」

「ううん、ロコだってすごいと思うよ」

「ああ、自分なんか、情報集めて喜んでるだけですから……いて(>.<)」

「ん?」

「なにか顔に……」

 オデコを押えたロコの手にモミジの葉っぱが挟まってる。

「あ、商店街の飾りつけ、秋仕様になったんだ」

「あ、ほんとだ」

 アーケードの柱や釣り物のディスプレーが秋仕様になっている。



 戻り橋を渡って令和の時代に戻る。

 橋を渡ったとたん、モワ~っとした空気がまといつく。

 令和の九月は、連日の猛暑。

 でも、まあ、今日も無事だった。正体不明のスナイパーに狙われることも無かったしね。

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 
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