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040『サラダパスタとパストフィックス』
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
040『サラダパスタとパストフィックス』
葦船の話で盛り上がった帰り道。
戻り橋を渡っていると、無性に志忠屋のサラダパスタが食べたくなる。
サラダパスタと銘打ってるけど、まあ、冷やし中華のパスタ版、志忠屋の夏の限定メニュー。
なんか秘密の薬味が入ってるとかで、ちょっとクセになる味。
ちょっぴり汗は出るけど、食べた後、半日ぐらいは元気でいられる。
戻り橋に差し掛かったところで、スマホが着信のシグナルを奏で、渡りながら見ると、音信不通と言っていいお母さんのボーナスが振り込まれ、わたしへのおすそ分けが振り込まれたというラッキーなお知らせ。それで、瞬間でサラダパスタが思い浮かんだわけ。
戻り橋を渡って、一つ上の寿橋を渡って戻る。
寿橋を渡れば令和の宮之森。
MS銀行でお金を下ろして角を曲がると、銀行の通用口から猫又のアイさんが出てくる。
志忠屋に入るまでは耳も尻尾も出さずに普通のOLさん。
でも、なにかあったんだ。
猫又さんたちにも慣れたので、その後ろ姿でただの昼食休憩じゃないことが分かる。なんとなくだけど。
「「サラダパスタ!」」
オーダーの声が揃って、アイさんはわたしに気づく。
ポニョン
気づくと同時に耳と尻尾が出る。
「メグリには隠す必要ないもんね(^_^;)」
「ネコミミの方がかわいいのにね」
「リアルじゃ出せないからね、志忠屋はくつろぐわあ……」
「ハローウィンは一晩中出しっぱなしやけどな」
「年に一回っすよ」
「おまえらのオカンの時代はハローウィンでも出されへんかった」
「ええぇ、それってGHQとかが居た時代でしょ」
「ここまで来るには先人の努力があったちゅうこっちゃ。ほら、感謝して食え」
ドン
「え、もうできたんですか!?」
サラダパスタは時間がかかる。ちょっと早すぎ。
「ちょっとだけ魔法をつことる」
「ええぇ、調理に魔法を使うって、志忠屋のコンセプトから外れてません?」
「サラダパスタだけや。その分値上げはしてへんし」
「「あ!?」」
二人でメニューに目を停めてビックリ、サラダパスタ以外は100円の値上げになってる。
まあ、よそのお店はとっくに上げてるしね。
「あっちゃの方は終わったんかい?」
「マイとミ―は、まだ向こう」
「なにか幽世(かくりよ)の仕事だったんですか?」
アイ・マイ・ミーの三人、表面はここらへんのOLだけど、本業は妖仕事の請負人。
「これですよ……」
アイが指を振るとパスタの上に大海原が現れて、見覚えのある船がノロノロと進んでいる。
「あ、葦船ラー号!」
「またPFの仕事かい」
「PFって?」
「パストフィックス、過去の修理っちゅう意味や」
「過去って修理できるもんなんですか!?」
「ちゅうか、ほっとくと変わってしまうもんがあってな。放置してると違う歴史が分岐してしまうんや」
「まあ、小さいのはほっとくけどね。滝さんが魔法でパスタ作っちゃうとかね」
「文句あんのんか」
「ああ、無いっす無いっす!」
「ほんで、なんかお節介してきたんか?」
「お節介はないでしょ。みんな世のため人のためなんすから」
「滝さん、ほんとはパスタフィックとか嫌いなんじゃないですか?」
「パストフィックスにゃ!」
「あ、それそれ(^_^;)」
「あ、まあな」
「でも、今度はなんにもしてないっすよ。前回は失敗したんで、まあ、念のために付き添ったんすけど、人間は自分たちの力だけで大西洋横断したニャ」
「うん……せやったら、なんでマイとミーは残っとんねん?」
「え、ああ、帰りですよ。帰り道で沈没しちゃいけませんからね」
「帰りは船ごと貨物で運ぶんやろ」
「う~~ん『家に帰るまでが遠足』的な?」
「その念の入れ方は特務がらみの仕事やなあ」
「え、あ……」
ほとんど食べ終わったパスタの上に制服姿のお祖母ちゃんが浮かび上がる。
「え、お祖母ちゃんが絡んでたんですか!?」
「あ、あはははは……」
そのあと、ドッとお客さんが入ってきたので、お勘定を済ませて店を出る。アイさんは、滝さんに言われて洗い物とセッティングの手伝いをやらされてる。
ちょっとオッサン一人で回すには大変、パートかバイトを雇えばいいのに。
そう思って寿橋を目指すと、向こうの方に蜃気楼みたいなのが湧いて、みるみる人の形をとって、こっちに向かって来る。
え……妖!?
「あ、メグリちゃん、お店行ってたの?」
その女の人は親し気に話しかけてきた。
え、誰だろ?
「ランチタイムには間に合うようにって、近道したら、道に迷っちゃって(^_^;)」
「あ、はい……」
「お客さんいっぱい?」
「あ、ちょうど入れ違いに……」
そこまで言って、その人の笑顔で思い出した。
「ペコさん!?」
「あ、そうよね、立ち話してる場合じゃないわ。じゃあね(⌒∇⌒)」
後姿を見送りながら、今の今までペコさんのことを忘れていたのを思い出した。
多分、いや、間違いなく滝さんもアイさんも忘れていた。
いや、世界が分岐し始めていたんだ。ペコさんが存在しない世界に。
葦船ラー号は、世界と時空をぐるっと回ってこんなところにも影響を及ぼしていたのかもしれない。
家に帰ると、お祖母ちゃんが鼾をかきながら絶賛昼寝中だった。
彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
040『サラダパスタとパストフィックス』
葦船の話で盛り上がった帰り道。
戻り橋を渡っていると、無性に志忠屋のサラダパスタが食べたくなる。
サラダパスタと銘打ってるけど、まあ、冷やし中華のパスタ版、志忠屋の夏の限定メニュー。
なんか秘密の薬味が入ってるとかで、ちょっとクセになる味。
ちょっぴり汗は出るけど、食べた後、半日ぐらいは元気でいられる。
戻り橋に差し掛かったところで、スマホが着信のシグナルを奏で、渡りながら見ると、音信不通と言っていいお母さんのボーナスが振り込まれ、わたしへのおすそ分けが振り込まれたというラッキーなお知らせ。それで、瞬間でサラダパスタが思い浮かんだわけ。
戻り橋を渡って、一つ上の寿橋を渡って戻る。
寿橋を渡れば令和の宮之森。
MS銀行でお金を下ろして角を曲がると、銀行の通用口から猫又のアイさんが出てくる。
志忠屋に入るまでは耳も尻尾も出さずに普通のOLさん。
でも、なにかあったんだ。
猫又さんたちにも慣れたので、その後ろ姿でただの昼食休憩じゃないことが分かる。なんとなくだけど。
「「サラダパスタ!」」
オーダーの声が揃って、アイさんはわたしに気づく。
ポニョン
気づくと同時に耳と尻尾が出る。
「メグリには隠す必要ないもんね(^_^;)」
「ネコミミの方がかわいいのにね」
「リアルじゃ出せないからね、志忠屋はくつろぐわあ……」
「ハローウィンは一晩中出しっぱなしやけどな」
「年に一回っすよ」
「おまえらのオカンの時代はハローウィンでも出されへんかった」
「ええぇ、それってGHQとかが居た時代でしょ」
「ここまで来るには先人の努力があったちゅうこっちゃ。ほら、感謝して食え」
ドン
「え、もうできたんですか!?」
サラダパスタは時間がかかる。ちょっと早すぎ。
「ちょっとだけ魔法をつことる」
「ええぇ、調理に魔法を使うって、志忠屋のコンセプトから外れてません?」
「サラダパスタだけや。その分値上げはしてへんし」
「「あ!?」」
二人でメニューに目を停めてビックリ、サラダパスタ以外は100円の値上げになってる。
まあ、よそのお店はとっくに上げてるしね。
「あっちゃの方は終わったんかい?」
「マイとミ―は、まだ向こう」
「なにか幽世(かくりよ)の仕事だったんですか?」
アイ・マイ・ミーの三人、表面はここらへんのOLだけど、本業は妖仕事の請負人。
「これですよ……」
アイが指を振るとパスタの上に大海原が現れて、見覚えのある船がノロノロと進んでいる。
「あ、葦船ラー号!」
「またPFの仕事かい」
「PFって?」
「パストフィックス、過去の修理っちゅう意味や」
「過去って修理できるもんなんですか!?」
「ちゅうか、ほっとくと変わってしまうもんがあってな。放置してると違う歴史が分岐してしまうんや」
「まあ、小さいのはほっとくけどね。滝さんが魔法でパスタ作っちゃうとかね」
「文句あんのんか」
「ああ、無いっす無いっす!」
「ほんで、なんかお節介してきたんか?」
「お節介はないでしょ。みんな世のため人のためなんすから」
「滝さん、ほんとはパスタフィックとか嫌いなんじゃないですか?」
「パストフィックスにゃ!」
「あ、それそれ(^_^;)」
「あ、まあな」
「でも、今度はなんにもしてないっすよ。前回は失敗したんで、まあ、念のために付き添ったんすけど、人間は自分たちの力だけで大西洋横断したニャ」
「うん……せやったら、なんでマイとミーは残っとんねん?」
「え、ああ、帰りですよ。帰り道で沈没しちゃいけませんからね」
「帰りは船ごと貨物で運ぶんやろ」
「う~~ん『家に帰るまでが遠足』的な?」
「その念の入れ方は特務がらみの仕事やなあ」
「え、あ……」
ほとんど食べ終わったパスタの上に制服姿のお祖母ちゃんが浮かび上がる。
「え、お祖母ちゃんが絡んでたんですか!?」
「あ、あはははは……」
そのあと、ドッとお客さんが入ってきたので、お勘定を済ませて店を出る。アイさんは、滝さんに言われて洗い物とセッティングの手伝いをやらされてる。
ちょっとオッサン一人で回すには大変、パートかバイトを雇えばいいのに。
そう思って寿橋を目指すと、向こうの方に蜃気楼みたいなのが湧いて、みるみる人の形をとって、こっちに向かって来る。
え……妖!?
「あ、メグリちゃん、お店行ってたの?」
その女の人は親し気に話しかけてきた。
え、誰だろ?
「ランチタイムには間に合うようにって、近道したら、道に迷っちゃって(^_^;)」
「あ、はい……」
「お客さんいっぱい?」
「あ、ちょうど入れ違いに……」
そこまで言って、その人の笑顔で思い出した。
「ペコさん!?」
「あ、そうよね、立ち話してる場合じゃないわ。じゃあね(⌒∇⌒)」
後姿を見送りながら、今の今までペコさんのことを忘れていたのを思い出した。
多分、いや、間違いなく滝さんもアイさんも忘れていた。
いや、世界が分岐し始めていたんだ。ペコさんが存在しない世界に。
葦船ラー号は、世界と時空をぐるっと回ってこんなところにも影響を及ぼしていたのかもしれない。
家に帰ると、お祖母ちゃんが鼾をかきながら絶賛昼寝中だった。
彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川 志忠屋のマスター
ペコさん 志忠屋のバイト
猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
辻本 たみ子 1年5組 副委員長
高峰 秀夫 1年5組 委員長
吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
藤田 勲 1年5組の担任
先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
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