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022『ビートルズと資本論』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

022『ビートルズと資本論』   




 お昼をお弁当で済ませ、教室でビートルズを聴いている。


 この連休、みんなで出かける約束をした。

 行先は未定なんだけど、レコード屋さんに寄ることだけは確定。

 あれから、石垣に上の五人でビートルズのことが話題になった。

 みんなズブズブのファンというわけじゃないんだけど、分裂したこともあって話題になってる。

 で、話題の端々にビートルズと、その曲で盛り上がるもんだからね。

 

 じつは、昨日も中庭の端っこで聴こうと思ったんだけど、昼休の中庭って誘惑が多い。

 春の花が満開だし日差しはいいし、友だちは話しかけてくるし。けっきょくはビートルズの事なんか飛んでしまって、日向ぼっこしてお仕舞になる。

 それで、今日はお弁当が済むと、すぐにスマホのスイッチを入れた。耳には髪で隠したコードレスの骨伝導イヤホン。

 ビートルズっていうとイマジンをやっと思いついただけなんだけど、70年は、まだイマジンはリリースされてない。



 イエロー・サブマリンのあとにヘルプのイントロに入ったところで声がかかった。



 最初は他人のことだと思った。

 だって「親方ぁ、席あけてくれませんかぁ?」だったから。

「自分の席なんですけど、親方ぁ」

「え、わたし?」

 言ってから気づいた。窓際は人が多いんで、廊下側の適当な席に座って聴いていたんだ。

 それが、十円男の加藤高明の席だったわけで、目の前に立ってるのが、その加藤高明。

「あ、ごめん」

 おとなしく席を立つけど、ひとこと言う。

「でも、どうして親方?」

 留年生に親方と言われて、ちょっとひっかかった。

「え、時津風親方っているだろ?」

「う……ん?」

「相撲部屋だよ時津風部屋」

「トキツカサ」

「ん?」

「わたし、時司」

「あ、そうだっけ、失敬失敬」

 失敬失敬って、令和はむろん70年のこっち来ても聞いたことない。

 要はオチョクラレてる。

 絡むのも絡まれるのもいやだ……といって、自分の席は横田さんが友だちと楽しそうにガールズトークの真っ最中だから遠慮しておく。



「加藤君て、このクラスだよね?」



 二年の学年章付けたのが話しかけてくる。第一ボタンまで外して赤シャツの襟が覗いてる。髪は肩まで伸びてるし、一見して嫌なやつなんだけど、二年生だから、きちんと「はい、加藤高明くんならうちです。いますよ……」

 入り口出てすぐのところだから、呼んであげようとしたら、赤シャツが止める。

「あ、だったら、ごめん、この本返しといてくれるかな。じゃね、ありがとう」

「あ、ちょ!」

 聞こえてるはずなのに、赤シャツは逃げるように行ってしまった。

 もう…………押し付けられた本は二冊。

『資本論』と『共産党宣言』だよ(^▲^;)。

「フン、気の小さい奴だ」

「もう、分かってるんだったら自分で受け取ってよ!」

 すぐ後ろに来ていた加藤高明にビックリしたけど、おくびにも出さずにピシッと言う。

「失敬、あいつ、俺の顔見たとたんに親方に押し付けるんだもんな。失敬極まる」

 失敬はお前だ!

 
 キンコンカンコーン……キンコンカンコーン……


 思ったとたんに昼休終了のチャイム、全てをご破算にするような響きに気持ちも萎えて、出たばかりの教室に戻った。

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
宮田 博子             1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明             留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 妹尾先生:グラマー
須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 
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