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429『新しい学校机』

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せやさかい

429『新しい学校机』詩(ことは)   




 ブルーベルの鉢植えの横に二組の学校机。


「さくらが持っていけって言ったんだけど、ほんとにシックリ収まるわね」

 持ってきた本人が気に入ってしまった。

 フィギュア用で1/12サイズ。

 収録の仕事が終わって、声優の仲間とアキバに行って、ドールのお店でビビっときて買ったらしい。

「自分用じゃなくてね、最初から『詩ちゃんの部屋に似合う』って思ったんだって」

「ふふ、さくらって、そういうところあるよね」

「そうね以心伝心かな。さてと、ちょっとお庭見てくるわね」

「ごゆっくり」



 境内の花の世話をするような調子で部屋を出て行った。宮殿の庭だから手入れする必要なんてないんだけどね、楽しんでくれてるようで、娘としては気が楽だ。

 もう来なくっていいと言ったんだけど、お盆前にお母さんはやってきた。

 前回よりも調子のいい娘を見て「あんまりすることないなあ」と言いながら、まだいる。

 お寺のこともあるので――大丈夫かなあ――とカレンダーを見てしまう。

 お寺のルーチンは頭の中に入っているので、カレンダーを見ただけであれこれ思い浮かんで、やっぱり心配になる。



 クーークーー クーークーー



 寝息が聞こえて窓辺に目を移すと、バンとナンシーが机に突っ伏して寝息を立てている。

 これは、二時間目くらいに体育があった次の授業みたい。

 窓辺の席になると、こんな感じで寝てしまった。一時間寝てしまうことはなくて、たいてい5分か10分で起きる。先生も分かっているから起こされることは無かった。

 だから、わたしも頬杖ついて見ている。

 カクン

 腕がピクンとした拍子にナンシーが起きて、相棒の頭を張り倒す。

『イテ、なにすんのよ!』

『授業中に寝ちゃダメでしょーが』

『なによ、自分も寝てたくせにぃ』

「おはよう」

『『ヒャ』』

「気持ちよさそうに寝てたわね(^_^;)」

『え、あ、ちょっとの間よ、ちょっとの間』

『そうよ、ちゃんと起きたし』

『わたしが起こしてあげたんでしょーがぁ』

「二人とも、その机でだいじょうぶ?」

 それまでの二人は、聖真理愛学院の学校机を使っていた。妖精の魔法で出したものだから、完ぺきに本物のミニチュア。お母さんが持ってきてくれたのは、プラスチック製で似てるけど違う。

『うん、とっても具合いいわよ』

『うんうん』

『あら、もう、あんなに日が高くなって、ちゃんと勉強しなくっちゃ』

『ああ、もう三時間目よ!』

 フフフ

 そのうちに飽きるだろうと思ったら、まだ学校ごっこを続けてるのよ、この妖精コンビは。



 あら?



 二人の窓の向こう、庭を民俗学学校の子たちが歩いている。

 ソフィーが先頭を歩いて……そうか、施設見学なんだ。

 こないだ入学式があったけど、あの子たち校舎の中しか知らないものね。

 学校は境目も無しに王宮の敷地に隣接している。というか、王宮の敷地の中に学校がある。

 王宮の敷地面積は堺市よりも広くて、ヤマセン湖なんて湖もある。

 王宮だから立ち入り禁止のところもあるし、レクチャーされなきゃ分からない。

『コトハは行かなくていいの?』

 ナンシーがズル休みを咎めるように言う。

『わたしは聴講生だし……』

 あの子たちは、まだ15・6歳。

『人間は、自分が歳だって思った瞬間から老けるのよ』

「余計なお世話」

『ねえ、あの子すごくない?』

『もう、ナンシーは惚れっぽいんだからぁ』

『あたしはコトハひと筋よ。そういうことじゃなくって……』

「ああ、あの子ね……」



 わたしも、ちょっと気になっていた。

 
 小泉やくも



 まだ喋ったことも無いんだけども――秘めた好奇心――みたいなものを感じた。

 タイプは真逆なんだけど、さくらと同族。

 それに……もちょっと観察しようかと思ったら、お母さんがガーデニングのエプロンに道具を持って現れて、顔見知りのソフィーがいるもんだから、町内会の感覚でご挨拶し始めた。

 ちょっと恥ずかしい。

 

☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  
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