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428『お盆にパニクル』

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せやさかい

428『お盆にパニクル』さくら   





 8月15日は申し合わせたわけでもなく、あたしも留美ちゃんも家に居てる。


 15日は、本山でも戦没者追悼法要が行われてて、末寺の如来寺でも法要と講和をやりました。

 お花まつりみたいな華やかさやら、落語会みたいなウキウキ感もないけど、お寺には大事な行事。

 言われんでも家の手伝いするのが当たり前になってます。

 お寺というのは、世間では保守の筆頭みたいに思われてるけど、そうでもありません。

 うちはやってないけど、他のお寺では『安倍政治を許さない!』て習字の見本みたいなビラ貼ってるとこもあったし、教団の連合では『靖国神社公式参拝中止の要請』っちゅうのを出したりしてる。

 ちょっとズレてるなあ……いう気はすんねんけど、おばちゃんも詩ちゃんの世話でヤマセンブルグに行ってしもてる。

 女手は、うちと留美ちゃんだけやし、例年通りにお世話させてもろて、やっと一息の本堂。



 ナマンダブナマンダブ…………



 二人、阿弥陀さんにトドメのお念仏で手ぇ合わせて、ちょっとボンヤリ。



 いつの間にかセミの声もせんようになって、その分、どこからか甲子園の実況放送が微かに聞こえる夏休みの後半戦。



「留美ちゃん、ドラマに出るねんてぇ?」

「え……あ……えと……(-_-;)」

 なんや、俯いてモジモジ。

「ミケメが言うてた」

「ミケメ?」

「あ、高瀬川さん、ミケメの声優やねんけど、休憩中に留美ちゃんといっしょにドラマに出ることになった言うてたし」

「あ…………えと…………」

「アハハ、なんや、昔の留美ちゃんに戻ってるしぃ」

「あ……たこ焼きテレビのディレクターから話があって……ね……『台詞なんか喋れません(-_-;)』って言ったんだけどね、『だいじょうぶ、喋れない女の子の役だから(^▽^)』って、『あ、でも、演技なんてできませんから(;'∀')』って言ったら、『だいじょうぶだいじょうぶ、車いすの設定だから(^▽^)』って……決まってしまって……どうしよう、さくらぁ(##゚Д゚##)!!」

 もう、完全にパニクっております。

「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ! うちでも立派に声優やってんねんし(立派いうのはハッタリやけど)、単発のドラマやねんし、青春の記念イベントや思て楽しんだらええ!」

「ダメダメダメ!」

「そうやて!」

「でもでも、進路のことだってあるんだよ、スグに三年生になっちゃうし。間に合わなくなっちゃうし(>人<)!」

「あ、大丈夫やて」

「ああ、ずっと考えないようにしてきたのにぃ……(;゚Д゚) ああ、もう夏休みも半分過ぎちゃったよぉ。らしくないよね、なにごとも先回りして解決しなきゃいけないのに、先手必勝の榊原留美なのにぃ!」

「ちょ、留美ちゃん(^_^;)」

「ウグググ……」

 ああ歯ぎしりして……思たよりこじらせてるっぽい。

 さすがのうちも、次の言葉が出てこーへん。



 ブブブ ブブブ……



 二人のスマホが、同時に鳴った。

 そろっと見てみると、学校から緊急メール。

 
「え、あ、そうだ、修学旅行なんだ!!」

 留美ちゃんの目に火が灯った!

 メールは、修学旅行日程の最終決定のお知らせ。

 中学は流行り病のために修学旅行は無しになって、小学校以来の修学旅行。

『宇宙戦艦三笠』の収録も調整してもろて、前後合わせて一週間は天音(うちの役)は出んでええようにしてもろてる。

 大筋はフランス、イギリスの四泊五日……やねんけど、フランスでは暴動があったりして、ちょっとコースの見直しがやられてたんや。

「夏休み中には最終案出るって、先生言ってたよ」

「パソコンで見よ!」

 さっそく部屋に戻ってパソコンを点ける。こいうのは大きな画面で見た方がええ。

 学校のウェブサイトを開いてアクセスキーを打ち込む。

 ブタネコダミアが『遊んでくれぇ~』と寄って来るけど、邪険にベッドの上に放り上げて操作続行。

『在校生のみなさんへ』をクリックして、修学旅行のページへ。



 ええ!?



 二人とも、頭のてっぺんから声が出た!



 なんと、フランスは宿泊無しの一日だけで、パリを見物したあとはイギリスとヤマセンブルグに二日ずつになってた!



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  

 

 
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