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412『今年も梅雨入り』
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せやさかい
412『今年も梅雨入り』さくら
この月曜日から制服自由期間になった。
自由というのは、なんでもありではなくって、制服であれば自由という意味。
うちはジャンパースカート、留美ちゃんはジャンパースカートの上から指定のカーディガン。
「「おはようございまーす!」」
ハンゼイのドアを開けてごあいさつ。
「おはよう、うん!」
早川のおばあちゃんが、うちらのヘルメットをふんだくると体を捻ってカウンターの下に仕舞う。
ハンゼイは朝からモーニングのお客さんでいっぱい。それをテキパキとこなしていくマスターの昴(あきら)さんとパートの早川のおばあちゃん。
早川のおばあちゃんは、うちの婦人部では田中のおばあちゃんに次ぐ年寄りやねんけど、若いころミナミの喫茶店で働いてたんで、歳を感じさせへん身のこなしでフロアーやらレジをこなしてる。「ってきまーす」「ってらっしゃい」はちょうど入ってきた常連さんの「いつものモーニング」とすれ違って表に出る。
「早川のおばあちゃん、コス変わってたね!」
「あれ、現役やった時の制服やて」
テイ兄ちゃんがスマホ見せながら教えてくれた。黒のワンピに白いエプロン、七分の袖口と襟が白で、いかにも昭和の喫茶店。五月の連休明けまでは瑞穂さんと同じコス着てたけど、やっぱり思うところがあるねんやろね。
――通勤通学のみなさん、おはようございます、市長候補の○○でございます、来たる市長選挙……――
路地から出たとたんに、市長候補の元気な声が聞こえる。
「ふふ、元気があっていいわね」
自分は大人しいくせに、人が元気ににぎやかしてるのは好きな留美ちゃん。
交差点では、いつもの婦警さんが信号の横で目を光らせてる。信号待ちの宅配のミニバンの運ちゃんも女の人。
ちょっと速足でエスカレーターを上がって行くのは阿倍野のS女学園。進学に熱心で一時間目の前に0時間目があるらしい。今日も堺の女は元気です。
「あ、降ってきたよ」
「まあ、どこかのミサイルとちゃうさかい」
「だね」
ホームに出ると鈍色の空からミストのような雨で、点字ブロックのところまで濡れ始めてる。
朝のうちは雨が残るけど、昼までにはあがるという予報なんで傘は持ってきてへん。
念のためにスマホでチェックする留美ちゃん。
「よし、雨もミサイルも大丈夫みたいだよ」
「よしよし」
「あ、外人さん」
隣の列に半袖半パンの欧米系が三人。
外人なんて、大阪では珍しいこともなんともないねんけど、堺東の駅は観光のルートからは外れてるし、朝のラッシュ時にホームに立ってるのは珍しい。
行先案内のディスプレーに『次の列車は三国ヶ丘を出ました』のお知らせが灯る。
ワオ
感動の面持ちでスマホの画面と見比べてる。
「体験通勤電車だね」
YouTubeなんか見てると、日本の鉄道に感動したいう外人さんの動画がいっぱい出てる。
けど、通勤時間帯の動画というのは、あんまり見たことが無い。
「昨日はごりょうさんとか見て、一発通勤電車の動画をアップするんやろなあ」
評判通り、時間ピッタリに来る電車に感動したという感じ。
雨の日は、けっこう電車遅れるねんけどね、まあ、よかったよかった。
ブルブル ブルブル
マナーモードにしてたスマホが震える。
チラッと見たら、真鈴先輩のメール。
この人のメールは、ちょっと怖い。
ちょうど電車も来たみたいやし、読むのはまた後で。
細かい雨粒の付いたディスプレーをスカートでグヌっと拭ってポケットにしまう。
堺の街に今年も無事に梅雨がやってきました。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
412『今年も梅雨入り』さくら
この月曜日から制服自由期間になった。
自由というのは、なんでもありではなくって、制服であれば自由という意味。
うちはジャンパースカート、留美ちゃんはジャンパースカートの上から指定のカーディガン。
「「おはようございまーす!」」
ハンゼイのドアを開けてごあいさつ。
「おはよう、うん!」
早川のおばあちゃんが、うちらのヘルメットをふんだくると体を捻ってカウンターの下に仕舞う。
ハンゼイは朝からモーニングのお客さんでいっぱい。それをテキパキとこなしていくマスターの昴(あきら)さんとパートの早川のおばあちゃん。
早川のおばあちゃんは、うちの婦人部では田中のおばあちゃんに次ぐ年寄りやねんけど、若いころミナミの喫茶店で働いてたんで、歳を感じさせへん身のこなしでフロアーやらレジをこなしてる。「ってきまーす」「ってらっしゃい」はちょうど入ってきた常連さんの「いつものモーニング」とすれ違って表に出る。
「早川のおばあちゃん、コス変わってたね!」
「あれ、現役やった時の制服やて」
テイ兄ちゃんがスマホ見せながら教えてくれた。黒のワンピに白いエプロン、七分の袖口と襟が白で、いかにも昭和の喫茶店。五月の連休明けまでは瑞穂さんと同じコス着てたけど、やっぱり思うところがあるねんやろね。
――通勤通学のみなさん、おはようございます、市長候補の○○でございます、来たる市長選挙……――
路地から出たとたんに、市長候補の元気な声が聞こえる。
「ふふ、元気があっていいわね」
自分は大人しいくせに、人が元気ににぎやかしてるのは好きな留美ちゃん。
交差点では、いつもの婦警さんが信号の横で目を光らせてる。信号待ちの宅配のミニバンの運ちゃんも女の人。
ちょっと速足でエスカレーターを上がって行くのは阿倍野のS女学園。進学に熱心で一時間目の前に0時間目があるらしい。今日も堺の女は元気です。
「あ、降ってきたよ」
「まあ、どこかのミサイルとちゃうさかい」
「だね」
ホームに出ると鈍色の空からミストのような雨で、点字ブロックのところまで濡れ始めてる。
朝のうちは雨が残るけど、昼までにはあがるという予報なんで傘は持ってきてへん。
念のためにスマホでチェックする留美ちゃん。
「よし、雨もミサイルも大丈夫みたいだよ」
「よしよし」
「あ、外人さん」
隣の列に半袖半パンの欧米系が三人。
外人なんて、大阪では珍しいこともなんともないねんけど、堺東の駅は観光のルートからは外れてるし、朝のラッシュ時にホームに立ってるのは珍しい。
行先案内のディスプレーに『次の列車は三国ヶ丘を出ました』のお知らせが灯る。
ワオ
感動の面持ちでスマホの画面と見比べてる。
「体験通勤電車だね」
YouTubeなんか見てると、日本の鉄道に感動したいう外人さんの動画がいっぱい出てる。
けど、通勤時間帯の動画というのは、あんまり見たことが無い。
「昨日はごりょうさんとか見て、一発通勤電車の動画をアップするんやろなあ」
評判通り、時間ピッタリに来る電車に感動したという感じ。
雨の日は、けっこう電車遅れるねんけどね、まあ、よかったよかった。
ブルブル ブルブル
マナーモードにしてたスマホが震える。
チラッと見たら、真鈴先輩のメール。
この人のメールは、ちょっと怖い。
ちょうど電車も来たみたいやし、読むのはまた後で。
細かい雨粒の付いたディスプレーをスカートでグヌっと拭ってポケットにしまう。
堺の街に今年も無事に梅雨がやってきました。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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