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405『母の事と頼子さんのお見舞い』
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せやさかい
405『母の事と頼子さんのお見舞い』詩(ことは)
お母さんは並の主婦ではない。
坊守(ぼうもり)なんだ。
坊守とはお寺の住職の妻のことで、単に住職の妻というだけではなくて、境内や本堂の掃除や檀家さんやご近所の付き合い、法事やご葬儀、報恩講などの行事の差配。そういうお寺の裏方の仕事一切を一人でやっている。
まさに坊(お寺)の守り役。
小さいころからお母さんは「コトハはお寺のお嫁さんにはならなくていいからね」と言っていた。
わたしに対してだけじゃなく、お父さんやお祖父ちゃん、総代さんが居る時にポロリと言ってくれていた。
周囲にも言っておかないと、どこでどんな風に話が持ち込まれるか分からないから。
だから、小さいころから掃除の手伝い程度しかやったことがない。
さくらがやってきて留美ちゃんもいっしょに暮らすようになって、掃除のほとんどはわたしたちに任せて、お母さんは、ご近所のボランティア的な仕事にも手を伸ばした。趣味のパン作りの技術を生かして、近所の作業所のパン作りの指導とかもやっている。檀家のお婆ちゃんたちのゲートボールのこととかもね。
そのお母さんが、一切合切を放り出してヤマセンブルグまでわたしの世話をしにきてくれている。
「大丈夫よ、さくらも留美ちゃんも優秀だし。田中のお婆ちゃんも張り切ってお手伝いしてくださって助かってるの」
「そうなんだ」
簡単に言ってるけど、準備とか大変だったと思う。思うけど、口にはしない。
親子なんだから、ここは甘えておく。
じっさい、下半身がマヒしてるから、お母さんが傍にいてくれるのはとてもありがたい。
お風呂に入れないので、体を拭いてもらったり着替えをしたり、それこそ下の世話とか……お母さんでなければ、とてもやってもらえるもんじゃない。その、お母さんが長期滞在を覚悟して日本大使館に手続きに行った日のこと。
トントン
「はいどうぞ……」
返事して入ってきたのは、フォーマルな出で立ちの頼子さんと、お付きのソフィー。
「ごめんなさい、ついつい顔を出すのが遅くなって。お加減はいかが?」
「うん、脚以外は元気よ。陛下もお見舞いに来てくださったんだけど、手にギブスもしてらっしゃって、かえって申し訳ないくらい」
「ギブスだなんて、お祖母ちゃんも大げさなんだから。ほんと、軽い捻挫で済んだのは詩(ことは)さんのお蔭なのにね」
「でも、とても暖かいお言葉をかけていただいて、わたしも母も勇気百倍……その服装は、いよいよ?」
「うん、午後の飛行機でロンドンに行きます。戴冠式なんて初めてだから、もうガチガチで」
「フフ、いつかは自分の戴冠式をやらなくちゃならないんだから、練習だと思えば」
「ああ、それ言わないでぇ! 王女になるって決意するのだって何年もかかって大変だったのに、女王になるなんてムリムリムリ!」
「そんなことないわよ、王女って逆立ちするだけで女王でしょ」
「え……ああ、アハハ、そうよね! あ、でも、わたし一人で逆立ちできないの。体育のテストでも倒立は介添えしてもらって、ギリギリ合格のBだったし」
「介添え役なら、いっぱいいるじゃない。うちのさくらや留美ちゃん、それにソフィーも」
「自分はウエストミンスター寺院の外までです」
「え、そうなの、ソフィーって頼子さん専属でしょ?」
「中に入れるのは、女王のお付きに限られます。殿下は女王の名代ですから」
「そうなのよ、あのサッチャーなのよ!」
「殿下、ミス・イザベラとおっしゃってください」
「公の場では言ってるわよ」
「日ごろから言っておかないと、いざという時にボロがでます」
すると、頼子さんはソフィーに向かってキッパリと言った。
「イザベラ」
「わたしに言ってどうするんですか」
「だって、このごろ似てきたもん」
「グ……それはご容赦ください(-_-;)」
「プ( ´艸`)」
「アハハ((´∀`))」
明るく三人で笑えた。
お母さんだけじゃない。
頼子さんといい、ソフィーといい、わたしは人には恵まれた。
ちょっと不自由だけども、頑張ろうと……頑張っていけると思った『子どもの日』の朝だった。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
405『母の事と頼子さんのお見舞い』詩(ことは)
お母さんは並の主婦ではない。
坊守(ぼうもり)なんだ。
坊守とはお寺の住職の妻のことで、単に住職の妻というだけではなくて、境内や本堂の掃除や檀家さんやご近所の付き合い、法事やご葬儀、報恩講などの行事の差配。そういうお寺の裏方の仕事一切を一人でやっている。
まさに坊(お寺)の守り役。
小さいころからお母さんは「コトハはお寺のお嫁さんにはならなくていいからね」と言っていた。
わたしに対してだけじゃなく、お父さんやお祖父ちゃん、総代さんが居る時にポロリと言ってくれていた。
周囲にも言っておかないと、どこでどんな風に話が持ち込まれるか分からないから。
だから、小さいころから掃除の手伝い程度しかやったことがない。
さくらがやってきて留美ちゃんもいっしょに暮らすようになって、掃除のほとんどはわたしたちに任せて、お母さんは、ご近所のボランティア的な仕事にも手を伸ばした。趣味のパン作りの技術を生かして、近所の作業所のパン作りの指導とかもやっている。檀家のお婆ちゃんたちのゲートボールのこととかもね。
そのお母さんが、一切合切を放り出してヤマセンブルグまでわたしの世話をしにきてくれている。
「大丈夫よ、さくらも留美ちゃんも優秀だし。田中のお婆ちゃんも張り切ってお手伝いしてくださって助かってるの」
「そうなんだ」
簡単に言ってるけど、準備とか大変だったと思う。思うけど、口にはしない。
親子なんだから、ここは甘えておく。
じっさい、下半身がマヒしてるから、お母さんが傍にいてくれるのはとてもありがたい。
お風呂に入れないので、体を拭いてもらったり着替えをしたり、それこそ下の世話とか……お母さんでなければ、とてもやってもらえるもんじゃない。その、お母さんが長期滞在を覚悟して日本大使館に手続きに行った日のこと。
トントン
「はいどうぞ……」
返事して入ってきたのは、フォーマルな出で立ちの頼子さんと、お付きのソフィー。
「ごめんなさい、ついつい顔を出すのが遅くなって。お加減はいかが?」
「うん、脚以外は元気よ。陛下もお見舞いに来てくださったんだけど、手にギブスもしてらっしゃって、かえって申し訳ないくらい」
「ギブスだなんて、お祖母ちゃんも大げさなんだから。ほんと、軽い捻挫で済んだのは詩(ことは)さんのお蔭なのにね」
「でも、とても暖かいお言葉をかけていただいて、わたしも母も勇気百倍……その服装は、いよいよ?」
「うん、午後の飛行機でロンドンに行きます。戴冠式なんて初めてだから、もうガチガチで」
「フフ、いつかは自分の戴冠式をやらなくちゃならないんだから、練習だと思えば」
「ああ、それ言わないでぇ! 王女になるって決意するのだって何年もかかって大変だったのに、女王になるなんてムリムリムリ!」
「そんなことないわよ、王女って逆立ちするだけで女王でしょ」
「え……ああ、アハハ、そうよね! あ、でも、わたし一人で逆立ちできないの。体育のテストでも倒立は介添えしてもらって、ギリギリ合格のBだったし」
「介添え役なら、いっぱいいるじゃない。うちのさくらや留美ちゃん、それにソフィーも」
「自分はウエストミンスター寺院の外までです」
「え、そうなの、ソフィーって頼子さん専属でしょ?」
「中に入れるのは、女王のお付きに限られます。殿下は女王の名代ですから」
「そうなのよ、あのサッチャーなのよ!」
「殿下、ミス・イザベラとおっしゃってください」
「公の場では言ってるわよ」
「日ごろから言っておかないと、いざという時にボロがでます」
すると、頼子さんはソフィーに向かってキッパリと言った。
「イザベラ」
「わたしに言ってどうするんですか」
「だって、このごろ似てきたもん」
「グ……それはご容赦ください(-_-;)」
「プ( ´艸`)」
「アハハ((´∀`))」
明るく三人で笑えた。
お母さんだけじゃない。
頼子さんといい、ソフィーといい、わたしは人には恵まれた。
ちょっと不自由だけども、頑張ろうと……頑張っていけると思った『子どもの日』の朝だった。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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