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403『王宮某重大事件・2・救急搬送』
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せやさかい
403『王宮某重大事件・2・救急搬送』ヨリコ
王宮の廊下をこんなに長く感じたのは初めて。
ソフィーからの連絡を受けて、ケージと呼ばれる皇太子用の別棟から渡り廊下を通って母屋の宮殿に向かっている。
王族の者は空襲や襲撃にでも合わない限り宮殿の中では走ってはいけない。
だから到着まで五分もかかった(あとで確認したら一分ちょっとだったけど、その時は、それくらいに感じた)。
「お祖母ちゃん!」
プライベートで二人っきりの時以外、王宮では「陛下」と呼ばなくちゃいけないんだけど、この時は「お祖母ちゃん」になってしまった。
そして、イザベラさんやソフィー、それに王宮警備の衛士さんたちが介抱している女性に気付いて悲鳴が出るところだった。
ソフィーのメッセージは――陛下が階段から転落なさいました、第二図書室下の階段です――というものだった。
この時間は、お祖母ちゃんがお気に入りの詩(ことは)さんを連れまわしている時間。きっと話に夢中になって階段を踏み外した……と思っていた。
想像は、半分当って半分外れていた。
日本人的礼儀と謙譲の美徳を兼ね備えた詩さんは、お祖母ちゃんの二段下の階段を上がっていて、足を踏み外して転げ落ちてくるお祖母ちゃんを全身で庇ってくれていた。
「ヨリコ、大変なことをしてしまったわ( ´༎ຶㅂ༎ຶ`)」
こんなに動揺してるお祖母ちゃんは初めて。
「陛下、殿下も来られました。あとはわたしどもにお任せになって、医務室へ!」
イザベラさんが急き立てるけど、お祖母ちゃんは首を横に振る。
「トマス、お連れして!」
きっぱり言うと、ベテラン衛士のトマス曹長が部下と共に担ぐようにしてお祖母ちゃんを連れて行った。
「詩さんも……」
医務室へ運んでと言おうとしたら、ソフィーが耳もとで囁いた。
「脊髄損傷のおそれがあります、動かせません」
「ええ(⊙▃⊙)!!?」
その直後、王宮医師のフレデリック博士が駆けつけ、ソフィーの見立てが正しいことを証明した。
詩さんは、フレデリック博士の指示によってドクターヘリに載せられて、三十分後には王立病院で緊急手術の運びとなった。
「車を出して! わたしも病院に行くから!」
いっしょにヘリに乗ると言ったら「前例がない」と止められ、次善の策で車で急ぐことにした。
ソフィーが用意してくれたのは職員の自家用車。王室の車では法定速度を守らなくてはならないから。
途中信号に引っかかってイライラするんじゃないかと思ったけど、不思議と信号に引っかかることが無い。
信号を気にしていると、時おり妖精の標識が目に入る。
子どもの頃から見慣れて気にも留めない交通標識だけど――お願い、力を貸して――と思う。
五つ目の信号も、寸前で青に変わって――妖精が、神さまが味方してくださってる――と感謝の十字をきっているとイザベラさんからの電話。
『陛下は右手首を捻挫されただけで済みました。念のために、これから精密検査を受けていただきますが、フレデリック博士の御忠言もあって、陛下は一つの決断をなさいました』
「え、まさか王位を譲るって言うんじゃないでしょうね?」
憲法で国王は死ぬまで国王。でも、お祖母ちゃんなら言い出しかねない。
「来月の戴冠式は、陛下の名代として殿下に出ていただきます」
ちょっと混乱してから気づいた。
来月の6日はイギリス国王の戴冠式だ。これは引き受けざるを得ない。
「分かったわ、謹んでお引き受けすると、お祖母ちゃ……陛下に申し上げて」
「畏まりました」
電話を切ると、ちょっと胃のあたりが痛い。
戴冠式……親類のお祝い事に、ちょこっと顔を出す……ようなもんじゃない。
しきたりやマナーがいっぱいある。外国の王族や皇族とも挨拶やお話もね、そのためのレクチャーやら情報収集やらもね。
それと、詩さんのこと……さくらや如来寺のみなさんにどう伝えたらいいんだろう……。
心配と重圧……そして、詩さんにヤマセンブルグに来ていただくように、あれこれ企んだのはわたしだ。
みんなに良かれと思って……でも、結局は世間知らず王女の我がままだったのか……。
「そんなことありませんよ」
ルームミラーのソフィーがお姉ちゃんのような微笑みを返してくれる。
そして、数えて七つ目の信号も寸前に青に変わって、ヘリに遅れること二十分で病院に着いた。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
403『王宮某重大事件・2・救急搬送』ヨリコ
王宮の廊下をこんなに長く感じたのは初めて。
ソフィーからの連絡を受けて、ケージと呼ばれる皇太子用の別棟から渡り廊下を通って母屋の宮殿に向かっている。
王族の者は空襲や襲撃にでも合わない限り宮殿の中では走ってはいけない。
だから到着まで五分もかかった(あとで確認したら一分ちょっとだったけど、その時は、それくらいに感じた)。
「お祖母ちゃん!」
プライベートで二人っきりの時以外、王宮では「陛下」と呼ばなくちゃいけないんだけど、この時は「お祖母ちゃん」になってしまった。
そして、イザベラさんやソフィー、それに王宮警備の衛士さんたちが介抱している女性に気付いて悲鳴が出るところだった。
ソフィーのメッセージは――陛下が階段から転落なさいました、第二図書室下の階段です――というものだった。
この時間は、お祖母ちゃんがお気に入りの詩(ことは)さんを連れまわしている時間。きっと話に夢中になって階段を踏み外した……と思っていた。
想像は、半分当って半分外れていた。
日本人的礼儀と謙譲の美徳を兼ね備えた詩さんは、お祖母ちゃんの二段下の階段を上がっていて、足を踏み外して転げ落ちてくるお祖母ちゃんを全身で庇ってくれていた。
「ヨリコ、大変なことをしてしまったわ( ´༎ຶㅂ༎ຶ`)」
こんなに動揺してるお祖母ちゃんは初めて。
「陛下、殿下も来られました。あとはわたしどもにお任せになって、医務室へ!」
イザベラさんが急き立てるけど、お祖母ちゃんは首を横に振る。
「トマス、お連れして!」
きっぱり言うと、ベテラン衛士のトマス曹長が部下と共に担ぐようにしてお祖母ちゃんを連れて行った。
「詩さんも……」
医務室へ運んでと言おうとしたら、ソフィーが耳もとで囁いた。
「脊髄損傷のおそれがあります、動かせません」
「ええ(⊙▃⊙)!!?」
その直後、王宮医師のフレデリック博士が駆けつけ、ソフィーの見立てが正しいことを証明した。
詩さんは、フレデリック博士の指示によってドクターヘリに載せられて、三十分後には王立病院で緊急手術の運びとなった。
「車を出して! わたしも病院に行くから!」
いっしょにヘリに乗ると言ったら「前例がない」と止められ、次善の策で車で急ぐことにした。
ソフィーが用意してくれたのは職員の自家用車。王室の車では法定速度を守らなくてはならないから。
途中信号に引っかかってイライラするんじゃないかと思ったけど、不思議と信号に引っかかることが無い。
信号を気にしていると、時おり妖精の標識が目に入る。
子どもの頃から見慣れて気にも留めない交通標識だけど――お願い、力を貸して――と思う。
五つ目の信号も、寸前で青に変わって――妖精が、神さまが味方してくださってる――と感謝の十字をきっているとイザベラさんからの電話。
『陛下は右手首を捻挫されただけで済みました。念のために、これから精密検査を受けていただきますが、フレデリック博士の御忠言もあって、陛下は一つの決断をなさいました』
「え、まさか王位を譲るって言うんじゃないでしょうね?」
憲法で国王は死ぬまで国王。でも、お祖母ちゃんなら言い出しかねない。
「来月の戴冠式は、陛下の名代として殿下に出ていただきます」
ちょっと混乱してから気づいた。
来月の6日はイギリス国王の戴冠式だ。これは引き受けざるを得ない。
「分かったわ、謹んでお引き受けすると、お祖母ちゃ……陛下に申し上げて」
「畏まりました」
電話を切ると、ちょっと胃のあたりが痛い。
戴冠式……親類のお祝い事に、ちょこっと顔を出す……ようなもんじゃない。
しきたりやマナーがいっぱいある。外国の王族や皇族とも挨拶やお話もね、そのためのレクチャーやら情報収集やらもね。
それと、詩さんのこと……さくらや如来寺のみなさんにどう伝えたらいいんだろう……。
心配と重圧……そして、詩さんにヤマセンブルグに来ていただくように、あれこれ企んだのはわたしだ。
みんなに良かれと思って……でも、結局は世間知らず王女の我がままだったのか……。
「そんなことありませんよ」
ルームミラーのソフィーがお姉ちゃんのような微笑みを返してくれる。
そして、数えて七つ目の信号も寸前に青に変わって、ヘリに遅れること二十分で病院に着いた。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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