上 下
389 / 432

389『三方さんの引き継ぎ』

しおりを挟む
せやさかい

389『三方さんの引き継ぎ』さくら   




 夜中に目が覚めた。


 なんやら、ヒソヒソと話声がする。

 ひょっとすると夢?

 以前も、夜中に話し声がして、それが夢やったことがある。

 十七年も生きてると、五千回ぐらいは夢見てる。

 せやさかい、夢やという予想はついた。横を向くと、留美ちゃんが幸せそうに寝息を立ててる。

 親友の幸せは、うちの幸せ。

 このまま寝てもええねんけど、夢の中のヒソヒソ話というのは、めっちゃ気になる。



 ニャゴニャゴ……



 耳を澄ますと、話声のひとつはダミアの声。

 もっかい薄目を開けると、ちょっとだけ部屋の襖が開いてて、その隙間に向かってブタネコとは思えん甘えた声でニャゴニャゴいうとおる。

 誰と喋ってんねん?

 お布団は目の下まで被って、心眼を凝らす……見えてきた。

 襖を素通しにして見えてきたのは、なんとマリーアントワネット!



「……それじゃあね」



 最後の一言だけが聞こえて、マリーアントワネットは口の前に人差し指を立てると、こっちに向かってニッコリ微笑んで消えていってしもた。

 ダミアは、うちの顔見て「ニャ」と一言だけいうと、そのまま留美ちゃんのベッドに潜り込んで寝てしまいよった。

 ヒソヒソヒソ……

 まだヒソヒソ声がする……これは廊下の、まだ向こう……本堂から聞こえてくるんや。

 じんべさんを羽織って本堂に向かう……話し声は外陣の真ん中へんから聞こえてくる。

 うちは、須弥壇の陰から――すんません、阿弥陀さま――とことわって、外陣の様子を見る。

 え……?



 なんと、二人の三方さんが向き合ってお話の真っ最中やおまへんか。



「……ということで、まだまだ気ぃの回れへんお方であらっしゃいますが、よろしゅうお頼申します」

「はい、縁あって三方のお役目を引き継ぎましたからには、専心誠意、お役目を務めさせていただきます」

「それでは、これを収めてもろて、引継ぎのしるしといたしましょう」

 なんや、旧三方さんが、三方に載せた和綴じのブットイ帳面を新三方さんの前に進めた。

「少し拝見してもよろしいでしょうか?」

「よろしいもなにも、これからは、こなたさんが当家の三方。しっかり目を通しておくりゃれ」

「それでは……」

 新三方さんは、捧げ持ってお辞儀をして、ハラリハラリとページをめくる。

「……なるほど、これからもご主人さまは波乱万丈の人生を歩んでいかれるのですねえ」

「うむ、それを、苦労ととらまえては、とても続くものやありまへん。気は持ちようという言葉もおますよって、どうぞ、こなたさんも気を大きゅうお持ちなさりませ。こなたさんに譲ったとは申せ、わたしは、目と鼻の先のごりょうさんにお仕えしとります。宮仕えゆえ、言われて直ぐというわけにはまいりまへんやろが、ごりょうさんも『さくらのことは気にかけてやれ』との仰せにおじゃります。そうそう、番号の交換をいたしておきまひょ」

「おお、先輩もスマホをお持ちなのですか?」

「二台持っておるぞえ。パブリックとプライベートじゃ。構えて公私混同はならぬからのう」

「そうですねえ、そういう分別は大事ですからねえ」

「ついでに、裏情報も送っておくぞ」

「それでは……」「それでは……」



 ピ!



 無事に番号の交換は終わったみたい。

「あ、これは……」

「いかがいたしゃった?」

「ご主人様は、おねしょの癖がおありなのですか?」

「ああ、それは、くれぐれも内聞にな。さくら殿も十七、人への聞こえもあるというもの、こなたが十分に気をつけておれば事なきを得るでありましょう。くれぐれも頼みましたぞえ」

「ははあ!」

「ほれ、申したしりから……」



 二人の三方さんがこっちを向いた!



 とたんに催してきて、リアルに目ぇ覚ましてトイレに行きました(^_^;)。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

満天の星空に願いを。

黒蝶
ライト文芸
色々な都合で昼間高校ではなく、別の形で高校卒業を目指していく人たちがいる。 たとえば... とある事情で学校を辞めた弥生。 幼い頃から病弱で進学を諦めていた葉月。 これは、そんな2人を主にした通信制高校に通学する人々の日常の物語。 ※物語に対する誹謗中傷はやめてください。 ※前日譚・本篇を更新しつつ、最後の方にちょこっと設定資料を作っておこうと思います。 ※作者の体験も入れつつ書いていこうと思います。

紡ぐ言の葉

千里
ライト文芸
あるところにひとりぼっちの少女が二人いました。 一人の少女は幼い頃に親を悲惨な事故に遭い、搬送先の病院からの裏切り、引き取られた先での酷い扱い。様々なことがあって、彼女からは心因性のもので表情と感情が消えてしまった。しかし、一人のヒーローのような人に会ってから生きていく上で必要最低限必要な感情と、ほんの少しだけ、表情が戻った。それでも又、失うのが怖くてどこか心を閉ざしていた。 そんな中無理矢理にでも扉をこじ開けて心の中にすとんと入ってきた2人の人がいた。少女はそんな2人のことを好きになった。 一人は幼い頃からの産みの家族からの酷い扱い、そんな事情があって暖かく迎えてくれた、新しい家族の母親の早すぎる死。心が壊れるには十分すぎたのだった。人に固執せず、浅い付き合いでなるべく自分か消えても何も残らないように生きていようとしていた。 そんな中、何度も何度も手を伸ばして救い出してくれたのは一人の少年の存在で、死のうとしているといつも怒る一人の少女の姿があった。 これはそんな2人が紡いでいく一つの波乱万丈な人生のお話────。

オッサン清掃員の裏稼業

あ・まん@田中子樹
ライト文芸
ダンジョン法が施行されて10年。 日本では、スマホと同じくらいの価格でプライベートダンジョンが持てるようになっていた。 個人による犯罪や組織的な犯罪などこれまでとはまったく違った事件の解決を目的に組織された警察庁ダンジョン特捜部。しかし、ダンジョン特捜部とは別に秘密裡に組織されたもうひとつの謎の組織がある。 何の特徴もない男、田中一郎。 彼は清掃会社に勤務する普通のオッサンだが、実は彼には裏の顔がある。 国の秘密組織「神籬」。 彼はその神籬のトップエージェントして活躍しているが、妻と娘には本当の正体は知られていない。 反抗期に突入した娘といつか家族水入らずで旅行に行けることを夢見て、田中一郎は今日も凶悪なダンジョン犯罪を撲滅するべく奔走する。 ある日、娘がだまされ、ダンジョン配信中にオープンチャンネルで裸にひん剝かれそうになったのを全力で魔物を消し炭にして、娘が一躍有名人に……。田中一郎は娘を守りながら巨大な悪に立ち向かう。 ※ダンジョンも出てきますが、スパイアクションがメインです。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

僕とピアノ姫のソナタ

麻倉とわ
ライト文芸
 音大でヴァイオリンを専攻しながらも、日々音楽よりも女遊びにいそしむ椎名哲朗。  彼はある合コンで目を奪われるような美人と出会うが、彼女は場の空気をまったく読めず、周囲から浮きまくっていた。実は同じ大学で『ピアノ姫』と呼ばれている音楽バカの天才ピアニスト、真山調だったのだ。  ひょんなことから哲朗は調とホテルに行くことになり、流されて一夜を共にしてしまうが――。

ホンモノの自分へ

真冬
ライト文芸
小学生の頃から酷いいじめを受け続けてきた天野樹。 そして、小学生の頃に唯一の味方で親友の死、その後悪化するいじめ。心の扉を固く閉ざした樹は人との関わりを拒絶し続けて生きていくと決めたが、高校2年になり出会った人たちは樹をそうさせててはくれなかった。 彼らと出会って少しずつ樹の心境も変わっていく。 そんな、樹たちの日常と成長を描いた青春ストーリー

主人公の幼馴染みの俺だが、俺自身は振られまくる

希望
ライト文芸
俺は一条理普通のオタク高校生だ。俺はいたってモブだが、俺の幼馴染みは違う。いわゆる主人公だ。あいつはイケメンでもなく普通の顔なのにやたらと美少女にモテる。それにトラブルに巻き込まれやすい。それを俺は一緒になって解決してるのに、あいつばっかしモテるのだ。 なぜだ!俺だってあいつとそんなに変わらないだろ。神様は不条理だ。なんであいつばっかしモテテ俺がモテないんだ。まぁいいやつではあるんだけど。 「ごめんなさい私近江くんが好きなの。もしかしたら勘違いさせちゃったかもしれないけどそいうことだからこれからは勘違いしない方がいいよ」   そう言って桃井先輩は体育館裏を去っていった。なんであいつばかり好かれるんだ。俺が好きになる相手は皆義孝が好きなのだ。ちなみに俺が振られのは10回連続だ。そして彼女はできたことはない。つまり振られたことしかないってことだ。そして大体が義孝の好感度を上げるためについでに俺にも話しかけてる感じだ。そのたんびに勘違いして振られている。 オタクだったら、美少女に優しくされたら好かれてるかもしれないと願望を抱くものだろ? そうやって振られてきたから、これからと振られるんだろうな。 これ差俺が振られ続けて、事件などを主人公である義孝と解決していって、ある女子に好かれて彼女が出きるまでのラブコメである

処理中です...