せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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386『頼子さんロスとこけし』

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せやさかい

386『頼子さんロスとこけし』さくら   




 ゴトン


 ちょっと大き目のものがコケる音がした。

 小さなもんやったら、コトリ。

 中くらいやったら、ゴト。あるいは、コトン。

 それが、ゴトン。5トンはないやろけど、ゴトン。



 寝返り打って確かめたらええねんやろけど、気力が湧かへん。



 目ぇ開けると壁。

 うっすらとシミの痕……なんのシミやろ?

 思い出した。中二で留美ちゃんといっしょに暮らすようになって、留美ちゃん、めっちゃ気ぃ遣てた。

 どっちかというと神経質な部類に入ると子ぉやと思う。

 出席番号一番違いで席が前と後ろやったさかい、クラスでは、いちばん早う友だちになった。

 そういう縁で……まあ、いろいろあって一人暮らしになったとき、ほとんど拉致するようにしてうちに引き取って、お父さんも、毎月仕送りしてくれはることになって、うちに来てもろた。

 友だちやし、うちはお寺で広いさかい、すぐに馴染むと思たけど、最初はストレスやったみたい。

 もともと大人しい子ぉで、それが、ますます無口になって、ちょっと心配した。

 えと……あれ、なんて云うねんやったっけ……ジュースが双子になったやつ。

 冷凍庫でキンキンに冷やしたやつを、ポキンと二つにワケワケして、飲もうと思たら口のとこが凍ってて、留美ちゃんは手でくるんで融かしてた。まあ、そないやってたら間ぁ持つしね。

 こらえ性の無いうちは、前歯で口のとこを嚙みちぎる。

 プシュっと音がして中身が飛び散って、慌てて口で受けたけど、飛び散ってしもて、その名残り。

 あの時は、留美ちゃん「プッ( ´艸`)」っていっしゅん笑って、うちも爆笑になって、解れるきっかけになった。

 その時のシミや。



 あれ……こういう時は思い出し笑いになるんやけど、笑われへん。



 詩(ことは)ちゃんがヤマセンブルグに行って寂しいねんけど、事前に言うてくれたから、なんとか収まってる。

 せやけど、頼子さんまで消えてしまうとは思えへんかった。

 分かってんねん。事前に言われたら、送別会とか、せめて見送りとか大騒ぎして、たぶん、縋りついて大泣きしたやろと思う。

 そんなん分かってるさかい、せやさかい、詩ちゃんも頼子さんも、なんにも言わんと行ってしもたんや。

 ソフィーもいっしょに行ってしもた。

 頼子さんは王女さまやさかい、しゃあないねん。

 なんとか一週間は学校行けたけど、来週は行けるやろか。



 せや、さっきのゴトンは何がこけたんやろ。



 死にかけの芋虫みたいに寝返り打ってゴトンの正体を見極める。

 ああ……こけしか。

 お祖父ちゃんが高校の修学旅行で買うてきた、白樺の木のこけし。ゴミでほられるとこをうちが引き取った。40センチもあって、高いとこに置いといたら危ないのんで、コースターを下に敷いて床に立たせたった。それがこけて……こけるからこけし?

 いつもやったら、自分で笑てるとこやねんけどね。

 襖開けたらすぐのとこやし、だれか入ってきたらけ躓く。

 なおしとかなら……けど、体が動かへん。ちょっと眠たいし……。



 そのまま寝てしまう……。



 次に目が覚めて、トイレに行こと思った。



 ズデン!



 こけしが転がってるのん忘れてこけてしまう。

 そうか、こけしは、人をこかすからこけして言うんか。

 プッ( ´艸`)。

 ちょっとだけ笑えた。




 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  
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