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380『犬が西向きゃ尾は東・2』

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せやさかい

380『犬が西向きゃ尾は東・2』さくら    




 昨日のつづき、えと……声優の花園あやめさんが来はったとこからです。


「あやめさん、ちょっと休憩します。お茶でも飲んでてちょうだいませ! さくらちゃん、いっしょに来て!」

「あ、ちょ……」

 みなさんに0・1秒で頭を下げて、せわしない監督の後に続く。



「さくらちゃん、筋向いに文房具屋があるでしょ」

「あ、はい」

 監督の指さした筋向いに『勉強堂』の古看板の文房具屋さんが見えた。

「あの文房具屋で押しピンを買って来て欲しいの」

「押しピンですか?」

「うん、はい、この千円で」

「あ、はい」

「だいじょうぶ、ぼくも見守ってるからね!」

「はい」

 宗武監督は、今まで会ったことの無い人種で、言葉はソフトやねんけど言われたら抗しがたい力がある。ソフトパワーいう言葉が浮かんでくるよ。連想でソフトクリームが浮かぶ。監督の寝ぐせの付いた髪が頭頂部で捻ったようになってて、ソフトクリームの先っちょみたいになってるせいかもしれへん。

 ガラガラ……

 勉強堂の引き戸は見かけの割にはスルスルと開いた。

『らっしゃーい』

 カウンターの向こうから声が掛かる。大阪のコンビニでも標準語っぽい『いらっしゃいませ~』を言うてくれるけど、ここのおっちゃんの『らっしゃーい』は、天晴れ本場の東京弁。

「すみません、押しピンください」

「え、〇しピン? あったかなあ……ちょっと待っててね……」

 押しピンが直ぐに出てけえへん文房具屋て、どないやねん(^_^;)

「あたしが子どもの頃は、よく出たんだけどね、近ごろ〇しピンはねえ……」

 ガサゴソガサゴソ

「あ、あったあった、自慢じゃないけど、文具の事なら勉強堂ってもんだ。はい、〇しピン」

「え?」

 おっちゃんがカウンターに置いたのは、小袋に入った金色の小さな釘。

「うちのはね、真鍮製だから昆虫標本とかに使っても錆が出ない」

「あの、押しピンが欲しいんですけど」

「え、だから〇しピン」

「これ、真鍮の釘ですよね。うちが欲しいのは押しピン。ほら、掲示板とかにポスターとか貼る時に使うやつ」

「え、ああ、そりゃ画鋲かな?」

「がびょー?」

「うん、近ごろは、こんなプラスチック。こっちが昔ながらの画鋲、きっちり貼れるけど、外す時は専用のハズシが無いと取れない」

「ガビョーーン(゚ロ゚)」

「おもしろい人だね、お嬢ちゃん、関西の人?」

「はい、大阪の堺です。うちらは、これを押しピンて言うてます」

「へえ、なんで〇しピンなんて言うんだろうねえ」

「そら、グイっと押し込んで使うからやないんですか?」

「『押す』? 『虫』じゃないのかい?」

「いや、せやから押して使うでしょ?」

 グイッとカウンターを親指で押して見せる。

「あ、ああ、お嬢ちゃんは『押しピン』て言ってたのか!」

「いやあ、すみません、ついさっき東京に来たばっかりで」

「ひょっとして、江戸川アニメの?」

「はい、ちょっと休憩時間に頼まれましてぇ(^_^;)」

「監督、上京したばっかの子に用事頼んじゃダメだろ」

「え、監督!?」

 振り向くと、ショーケースの向こうで監督が頭を掻いてる。

「あはは、おいちゃん、その防犯カメラの映像コピーさせてぇ」



 それから、コピーした勉強堂の映像を会議室で映した。

 

「いやあ、香里菜の冒頭シーンのまんまだ!」

 制作進行の宮田さんがアングリと口を開けた。

「そうか……これが香里菜の呼吸なんですね!」

 声優のあやめさんは、台本になにやらメモしてる。

「うん、口の表情……目の動きが違う……抜け方もおもしろい。尊いです、沼から金の斧が出てきた感じです」

「これでリテイクいきましょう!」

「キミとは、どこかで会ったことが……」

 他のスタッフさんは、触発さたのか、散って行ったり二三人で相談し始めたり、アニメ制作会社とは、なんとアグレッシブなんやと感動してると、一番年配のオッサンが近寄ってきた。

「あ、脚本の武者走先生だよ。そもそも最初にNG出した張本人さん!」

 監督が引きつった笑顔で紹介してくれはる。

「あはは、初めてお目にかかりますですぅ(;'∀')」

「なんかデジャブだなあ、監督、まんま、こんな感じだよ。真鈴くんもでかした! このまんま、シリーズ終わるまで東京にいたまえ!」

「え、あ、いやあ、それは堪忍してください~」



 と、そんなこんなの一泊二日で堺に帰ってきて、三連休最後の今日はダミアといっしょに二度寝してます。

 ZZZZ……ZZZZ……

  

☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  

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