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376『四回目の大晦日』

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せやさかい

376『四回目の大晦日』さくら    



「みなさん、大晦日の夜をいかがお過ごしでしょうか? わたしは、日本最大の湖である琵琶湖の近くのお寺に学校の友だちと来ています。日本では、大晦日の夜から新年にかけて、お寺の鐘を108回鳴らす習慣があります。ヤマセンブルグでも年明けと同時に新年を祝って教会の鐘が鳴りますが、日本の108回の鐘は意味が違うんですよ。人間には煩悩という108の良くない心があると言われています。キリスト教でも『七つの大罪』というのがありますが、それに近いものでしょう、それを打ち払うために鳴らすのが元々の意味だと言われています。でも、じっさいに鐘を撞く人たちは――ゆく年を惜しみ、来たるべき新年良かれ――と願うんだそうです。わたしは、18年間、わたしを育ててくれた人たちと日本に感謝して愛しみながら鐘を突きたいと思います。そして、来年はセントヤマセン大聖堂の新年の鐘をみなさんと聞くことをお約束します。それでは、ヤマセンブルグに幸あれ、日本に幸あれ、そして、世界に平和と幸あれかしと祈ります……」

 そう締めくくると、頼子さんは胸の前で指を組んで、静かに瞑目するのでありました……。

「う~~ん…………まあいいでしょう」

「だあああ、やっと解放されたあ!」

 それまで真っ直ぐ背筋を伸ばして座ってた頼子さんは、足を投げ出し、電車の中でやったら絶対ヒンシュクやいう姿勢になって、一気にダレた(^_^;)

 年末の夜回りは、他の町内で夜回りの人が車にはねられるという事件のために、未成年は中止。

 それで、テイ兄ちゃんが話を付けてくれて、大晦日の今日は四年前にお世話になった東近江市のお寺に来てます。

『除夜の鐘お助け隊!』

 頼子さんは、領事館で新年の挨拶をヤマセンブルグの国民にライブで流す予定やった。

 それを行った先のお寺からやるということで、やっと許可が下りて、五回目のリハーサルでOKが出たというわけです。ちなみに、実際は次のように英語でやらはりました。

「How are you all doing on New Year's Eve? I am visiting a temple near Lake Biwa, Japan's largest lake, with my school friends. In Japan, there is a custom of ringing temple bells 108 times from New Year's Eve through the New Year. Even in Yamasenburg, church bells ring to celebrate the New Year at the same time as the beginning of the year, but the meaning of the 108 bells in Japan is different. It is said that human beings have 108 bad thoughts called earthly desires. Even in Christianity, there is "The Seven Deadly Sins", but it is similar to that, and it is said that the original meaning was to ring to drive away them. However, it is said that the people who ring the bell actually wish for the coming year and wish them a happy new year. I would like to ring the bell while appreciating and loving Japan and the people who raised me for 18 years. And I promise that next year we will all hear the New Year's bells of St. Yamasen's Cathedral. Well then, I pray for Yamasenburg, Japan, and peace and happiness in the world...」

「こら、さくら! そんなの見せなくていいからあ!」

 怒られてしまいました(^_^;) ちなみに、うちらはオーディエンス。

「みんな、お餅つくぞぉ! リッチも、へたってないで! 餅つきしなさい!」

 ソフィーが腕組みして、本堂のうちらを睨んでる。

 あ、リッチいうのは頼子っち⇒ヨリッチ⇒リッチです。

「ソフィー怖いよぉ」

「友だちモードでやれって言ったのは殿下の方じゃなかったですかぁ」

 カメラを片付けながらジョン・スミス。

 
 えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ!



 境内の臼を囲んで、湯気と歓声が木霊します。

 ちなみに「えい!」はめぐりん、「ほ!」は留美ちゃん、残りのもんは臼の周りで待機。

 つきあがったら、総勢でお餅を丸めたり伸ばしたり。つき手と合いの手は交代。

「あ、ごえんさん、うちが持ちますよって!」

「ありがとう如来寺さん」

 蒸し終わったもち米を抱えてくるごえんさん、年が明けたら七十の大台やそうです。

 うちの倍の規模のお寺を一人で切り盛りしてはります。四年近いお寺生活で、うちも手伝いの呼吸がちょっとは分かってきた。

「ごえんさんてなに?」

 お姉ちゃんに負けず劣らず日本語ペラペラのソニーやけど、さすがに『ごえんさん』は分からへん。

「お寺の住職」

「ジューショク?」

「えと、神父さんとか牧師さん的な?」

「ああ、なるほど」



「ウァッチლ(‘꒪д꒪’)ლ!!」



 ジョン・スミスが丸めようとしたお餅を落としてしまう。 

「これ、めちゃくちゃ熱いよ!」

「 部長、修業が足りません」

 ソフィーが冷やかす。ソフィーはポーカーフェイスちゅうかジト目やから、ちょっと怖い。



 キャーキャー ワハハと笑って、はしゃいで早くも夕方。



『おお! いいなあ! わたしも行きたかったあ!』

 頼子先輩に真鈴先輩から電話。

「どうだ、羨ましいだろ!」

 イチビリの頼子さんは、スマホをカメラに切り替えて、うちらを写す。

 真鈴先輩は、年明けに始まる新作アニメのアフレコで東京のスタジオ。

 なんでも、監督の絵コンテがなかなか上がってこなくて、予定よりも十日も遅れてるらしい。

『え、あ、ちょ……ちょっと監督!』

 なんかゴチャゴチャ、なんか揉めてる?

 と、急にオッサンの声になった!

『頼子さん、いる?』

「あ、はい、頼子ですが」

『マネキンではお世話になりました!』

「あ、わたしの方こそ」

『そっち、さくらさん居ます?』

「あ、はい、いま写します」

 え、なんでうち!?

『ども、文化祭の動画見ました。いちどご挨拶と思って、真鈴がいろいろ引っ張りまわして、ごめんなさいね』

「いえいえ、うち、いえ、わたしも楽しかったですから。あ、えと、監督さんのお声聞けて嬉しかったです」

『アハハ、それは何より……え、もう時間? それじゃ、頼子さん、みなさん、よいお年を!』

 後ろの方で――かんとく!――と――あ、ちょ!――の声が重なって切れてしもた。



 日が西に傾いて、年越しそばの下準備にかかり始めると、境内に見慣れた車。

「え?」

「あの車動くんや!」

 留美ちゃんと二人びっくり。

 その車は、この四年で二回ほどしか動いてるとこを見たことが無いミニクーパ。

「まさか!?」

 車から出てきたんは、お祖父ちゃんと詩(ことは)ちゃん。

「お祖父ちゃんが運転してきたん!?」

 たしか詩ちゃんは免許持ってへん。

「あはは、午後から空いちゃったら、お祖父ちゃんが『連れてってやる!』って」

 よかった! いや、よくない!

 詩ちゃんが来たんはええけど、うちが如来寺に来て、一回も運転してるとこ見たことないお祖父ちゃんが堺から車運転してきたのはめちゃくちゃよくない!

 折り返し帰るいうお祖父ちゃんを引き留めて、こっちで年越しさせるのは一苦労でした(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか      さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  
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