上 下
369 / 432

369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』

しおりを挟む
せやさかい

369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』さくら    




 あ


 駅前の横断歩道で、留美ちゃんが一瞬立ち止まる。

 品行方正な留美ちゃんが、横断途中に立ち止まるなんて、初めての事。

 でも、時間にしてコンマ5秒ほど。すぐに渡り終えて改札へ向かうエレベーターに飛び乗る。

 なんせ、朝の通学途中やさかいに、足は緩められません。

 せやさかい、事情を聞いたのは電車がホームにやって来るのを待ってる間ぁになる。

「なんやったん?」

「うん、あとでね」

 このご時世、人ごみの中では、むやみには喋られへんのを忘れてた。

 で、もっかい聞いたのは、学校最寄り駅に着いて改札を出たとこ。

「で、なんやったん?」

「え、なに?」

「なにて、横断歩道の真ん中で立ち止まったやんか!」

「あ、ああ……アハハハ」

「ちょ、なにが可笑しいん?」

「いや、さくらの好奇心て、大したものよね」

「え、そう?」

「だって、わたし、忘れてたから」

「え、せやさかいに、なんやったん?」

「あ、うん。いつも信号のとこに立ってる婦警さんいるでしょ」

「あ、ああ……小柄な?」

「うん、あの婦警さんがね、オシャレな私服ですれ違ったの。たぶん非番のお出かけだよ」

「せやったん?」

 うちの感動は、ちょっと薄い。

 せやかて、婦警さんは信号機と同じで、いわば風景の中のオブジェ。制服の中身まで考えたことあれへんので、顔までは憶えてへん。

 留美ちゃんいう子は、相手の興味が薄かったら、それ以上に話題を広げる子やないねんけど、うちには突っ込んでくれる。

「わたしたちより、ちょっとだけ年上の女性が、婦人警官になろうって決心するのはスゴイと思うのよ。それが、通学途中の高校生に顔を憶えられるほど信号のとこに立っていて、非番のお出かけ。ちょっとおしゃれしてね。感動するし、想像しちゃうわよ」

「そ、そうやね! デートやろか!?」

 留美ちゃんの解説で、うちの頭の中で婦警さんは人格を持ち始め、とたんにテンションが上がる。

「違うね」

「ちゃうのん?」

「所轄管内でデートなんかしないよ。それに、デートするには朝すぎる。横断歩道渡ったらロータリー、たぶん友だちの車とかが待ってて、いっしょに出かけるんだと思う。たぶん、ちょっと早めのクリスマスとかだよ。お巡りさんは、年末は歳末特別警戒で忙しいからね。きっと、年内最後の休みなんだ」

「でも、お友だち同士のクリスマスでオシャレする?」

「ちっ、ちっ、ちぃ」

 あたしの鼻先で人差し指を振る留美ちゃん。

「休みの日に衝動買いしたオシャレグッズ、そうそう着ていく時間も場所も無いのよ」

「しょ、衝動買いかあ……」

 うちの衝動買いは、せいぜいコンビニのスナック。

「そうかあ……」

 口では言わへんけど、ここ一年ほどは作家志望的な感じの留美ちゃん。目の付け所がちゃう。

 いっしょに暮して二年以上、同じような生活サイクルやのに、着実に進歩してる感じ(^_^;)。

 うちも、がんばらならあかんなあ。



 あ



 校門入ったとこで、また留美ちゃんが立ち止まった。

「あ」

 さすがに、うちも気ぃついた。

 正門入って左側の木ぃが、クリスマス仕様になってる!

 綿の雪と電飾が付けられて、天辺には大きなお星さまが付いてる。



 せや、うちはミッションスクールやったんや!



「この木って、もみの木だったんだ」

「四月には校内探検したのに気ぃつけへんかった」



 終業式まで、あと三日。

 もうちょっと、楽しんでみたいと思うさくらと留美でありました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか      さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり

Keitetsu003
ライト文芸
 このお話は「風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-」の番外編です。  藤堂正道と伊藤ほのか、その他風紀委員のちょっと役に立つかもしれないトレビア、雑談が展開されます。(ときには恋愛もあり)  *小説内に書かれている内容は作者の個人的意見です。諸説あるもの、勘違いしているものがあっても、ご容赦ください。

一よさく華 -嵐の予兆-

八幡トカゲ
ライト文芸
暮れ六つ過ぎ。 十日ごとに遊郭に現れる青年がいる。 柚月一華(ゆづき いちげ)。 元人斬り。 今は、かつて敵であった宰相、雪原麟太郎(ゆきはら りんたろう)の小姓だ。 人々の好奇の目も気に留めず、柚月は「白玉屋」の花魁、白峯(しらみね)の元を訪れる。 遊ぶためではない。 主の雪原から申し渡された任務のためだ。 隣国「蘆(あし)」の謀反の気配。 それを探る報告書を受け取るのが、柚月の今回の任務だ。 そんな中、柚月にじわりじわりと迫ってくる、人斬りだったことへの罪の意識。 「自分を大事にしないのは、自分のことを大事にしてくれている人を、大事にしていない」 謎の言葉が、柚月の中に引っかかって離れない。 「自分を大事にって、どういうことですか?」 柚月の真直ぐな問いに、雪原は答える。 「考えなさい。その答えは、自分で見つけなさい」 そう言って、父のように優しく柚月の頭を撫でた。 一つよに咲く華となれ。

紡ぐ言の葉

千里
ライト文芸
あるところにひとりぼっちの少女が二人いました。 一人の少女は幼い頃に親を悲惨な事故に遭い、搬送先の病院からの裏切り、引き取られた先での酷い扱い。様々なことがあって、彼女からは心因性のもので表情と感情が消えてしまった。しかし、一人のヒーローのような人に会ってから生きていく上で必要最低限必要な感情と、ほんの少しだけ、表情が戻った。それでも又、失うのが怖くてどこか心を閉ざしていた。 そんな中無理矢理にでも扉をこじ開けて心の中にすとんと入ってきた2人の人がいた。少女はそんな2人のことを好きになった。 一人は幼い頃からの産みの家族からの酷い扱い、そんな事情があって暖かく迎えてくれた、新しい家族の母親の早すぎる死。心が壊れるには十分すぎたのだった。人に固執せず、浅い付き合いでなるべく自分か消えても何も残らないように生きていようとしていた。 そんな中、何度も何度も手を伸ばして救い出してくれたのは一人の少年の存在で、死のうとしているといつも怒る一人の少女の姿があった。 これはそんな2人が紡いでいく一つの波乱万丈な人生のお話────。

回転木馬が止まるとき

関谷俊博
ライト文芸
ぼくは寂しかった。栞も寂しかった。だけど、寂しさを持ち寄ると、ほんの少しだけ心が温かくなるみたいだ。

ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語

花閂
ライト文芸
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鬼と怖れられモンスターだと自覚しながらも、恋して焦がれて愛さずにはいられない。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女・禮と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて最悪の不良校に入学。女子生徒数はわずか1%という特異な環境のなか、入学早々にクラスの不良に目をつけられたり暴走族にさらわれたり、学園生活は前途多難。 周囲に鬼や暴君やと恐れられる強面の彼氏は禮を溺愛して守ろうとするが、心配が絶えない。

三年で人ができること

桃青
ライト文芸
もし三年後に死ぬとしたら。占いで自分にもう三年しか生きられないと告げられた男は、死を感じながら、平凡な日常を行き尽くそうとする。壮大でもなく、特別でもなく、ささやかに生きることを、残された時間で模索する、ささやかな話です。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

処理中です...