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369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』
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せやさかい
369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』さくら
あ
駅前の横断歩道で、留美ちゃんが一瞬立ち止まる。
品行方正な留美ちゃんが、横断途中に立ち止まるなんて、初めての事。
でも、時間にしてコンマ5秒ほど。すぐに渡り終えて改札へ向かうエレベーターに飛び乗る。
なんせ、朝の通学途中やさかいに、足は緩められません。
せやさかい、事情を聞いたのは電車がホームにやって来るのを待ってる間ぁになる。
「なんやったん?」
「うん、あとでね」
このご時世、人ごみの中では、むやみには喋られへんのを忘れてた。
で、もっかい聞いたのは、学校最寄り駅に着いて改札を出たとこ。
「で、なんやったん?」
「え、なに?」
「なにて、横断歩道の真ん中で立ち止まったやんか!」
「あ、ああ……アハハハ」
「ちょ、なにが可笑しいん?」
「いや、さくらの好奇心て、大したものよね」
「え、そう?」
「だって、わたし、忘れてたから」
「え、せやさかいに、なんやったん?」
「あ、うん。いつも信号のとこに立ってる婦警さんいるでしょ」
「あ、ああ……小柄な?」
「うん、あの婦警さんがね、オシャレな私服ですれ違ったの。たぶん非番のお出かけだよ」
「せやったん?」
うちの感動は、ちょっと薄い。
せやかて、婦警さんは信号機と同じで、いわば風景の中のオブジェ。制服の中身まで考えたことあれへんので、顔までは憶えてへん。
留美ちゃんいう子は、相手の興味が薄かったら、それ以上に話題を広げる子やないねんけど、うちには突っ込んでくれる。
「わたしたちより、ちょっとだけ年上の女性が、婦人警官になろうって決心するのはスゴイと思うのよ。それが、通学途中の高校生に顔を憶えられるほど信号のとこに立っていて、非番のお出かけ。ちょっとおしゃれしてね。感動するし、想像しちゃうわよ」
「そ、そうやね! デートやろか!?」
留美ちゃんの解説で、うちの頭の中で婦警さんは人格を持ち始め、とたんにテンションが上がる。
「違うね」
「ちゃうのん?」
「所轄管内でデートなんかしないよ。それに、デートするには朝すぎる。横断歩道渡ったらロータリー、たぶん友だちの車とかが待ってて、いっしょに出かけるんだと思う。たぶん、ちょっと早めのクリスマスとかだよ。お巡りさんは、年末は歳末特別警戒で忙しいからね。きっと、年内最後の休みなんだ」
「でも、お友だち同士のクリスマスでオシャレする?」
「ちっ、ちっ、ちぃ」
あたしの鼻先で人差し指を振る留美ちゃん。
「休みの日に衝動買いしたオシャレグッズ、そうそう着ていく時間も場所も無いのよ」
「しょ、衝動買いかあ……」
うちの衝動買いは、せいぜいコンビニのスナック。
「そうかあ……」
口では言わへんけど、ここ一年ほどは作家志望的な感じの留美ちゃん。目の付け所がちゃう。
いっしょに暮して二年以上、同じような生活サイクルやのに、着実に進歩してる感じ(^_^;)。
うちも、がんばらならあかんなあ。
あ
校門入ったとこで、また留美ちゃんが立ち止まった。
「あ」
さすがに、うちも気ぃついた。
正門入って左側の木ぃが、クリスマス仕様になってる!
綿の雪と電飾が付けられて、天辺には大きなお星さまが付いてる。
せや、うちはミッションスクールやったんや!
「この木って、もみの木だったんだ」
「四月には校内探検したのに気ぃつけへんかった」
終業式まで、あと三日。
もうちょっと、楽しんでみたいと思うさくらと留美でありました。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』さくら
あ
駅前の横断歩道で、留美ちゃんが一瞬立ち止まる。
品行方正な留美ちゃんが、横断途中に立ち止まるなんて、初めての事。
でも、時間にしてコンマ5秒ほど。すぐに渡り終えて改札へ向かうエレベーターに飛び乗る。
なんせ、朝の通学途中やさかいに、足は緩められません。
せやさかい、事情を聞いたのは電車がホームにやって来るのを待ってる間ぁになる。
「なんやったん?」
「うん、あとでね」
このご時世、人ごみの中では、むやみには喋られへんのを忘れてた。
で、もっかい聞いたのは、学校最寄り駅に着いて改札を出たとこ。
「で、なんやったん?」
「え、なに?」
「なにて、横断歩道の真ん中で立ち止まったやんか!」
「あ、ああ……アハハハ」
「ちょ、なにが可笑しいん?」
「いや、さくらの好奇心て、大したものよね」
「え、そう?」
「だって、わたし、忘れてたから」
「え、せやさかいに、なんやったん?」
「あ、うん。いつも信号のとこに立ってる婦警さんいるでしょ」
「あ、ああ……小柄な?」
「うん、あの婦警さんがね、オシャレな私服ですれ違ったの。たぶん非番のお出かけだよ」
「せやったん?」
うちの感動は、ちょっと薄い。
せやかて、婦警さんは信号機と同じで、いわば風景の中のオブジェ。制服の中身まで考えたことあれへんので、顔までは憶えてへん。
留美ちゃんいう子は、相手の興味が薄かったら、それ以上に話題を広げる子やないねんけど、うちには突っ込んでくれる。
「わたしたちより、ちょっとだけ年上の女性が、婦人警官になろうって決心するのはスゴイと思うのよ。それが、通学途中の高校生に顔を憶えられるほど信号のとこに立っていて、非番のお出かけ。ちょっとおしゃれしてね。感動するし、想像しちゃうわよ」
「そ、そうやね! デートやろか!?」
留美ちゃんの解説で、うちの頭の中で婦警さんは人格を持ち始め、とたんにテンションが上がる。
「違うね」
「ちゃうのん?」
「所轄管内でデートなんかしないよ。それに、デートするには朝すぎる。横断歩道渡ったらロータリー、たぶん友だちの車とかが待ってて、いっしょに出かけるんだと思う。たぶん、ちょっと早めのクリスマスとかだよ。お巡りさんは、年末は歳末特別警戒で忙しいからね。きっと、年内最後の休みなんだ」
「でも、お友だち同士のクリスマスでオシャレする?」
「ちっ、ちっ、ちぃ」
あたしの鼻先で人差し指を振る留美ちゃん。
「休みの日に衝動買いしたオシャレグッズ、そうそう着ていく時間も場所も無いのよ」
「しょ、衝動買いかあ……」
うちの衝動買いは、せいぜいコンビニのスナック。
「そうかあ……」
口では言わへんけど、ここ一年ほどは作家志望的な感じの留美ちゃん。目の付け所がちゃう。
いっしょに暮して二年以上、同じような生活サイクルやのに、着実に進歩してる感じ(^_^;)。
うちも、がんばらならあかんなあ。
あ
校門入ったとこで、また留美ちゃんが立ち止まった。
「あ」
さすがに、うちも気ぃついた。
正門入って左側の木ぃが、クリスマス仕様になってる!
綿の雪と電飾が付けられて、天辺には大きなお星さまが付いてる。
せや、うちはミッションスクールやったんや!
「この木って、もみの木だったんだ」
「四月には校内探検したのに気ぃつけへんかった」
終業式まで、あと三日。
もうちょっと、楽しんでみたいと思うさくらと留美でありました。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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