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364『ドイツに勝ったぁ!!』

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せやさかい

364『ドイツに勝ったぁ!!』さくら    




 ドイツに勝ったぁ!!

 ウワアアア!!


 オッサンの叫び声と窓ガラスが震えるほどの歓声で目が覚めた。

「「ふぇ?」」

 横のベッドで寝てた留美ちゃんも半ボケで目を覚ました。

 ウワアアアアアアアア!!

 今度は閉めた窓の外からも歓声。

「ええ、戦争……?」

「か、勝ったんだよ! ドイツに勝ったんだよ!」

 外の歓声で完全に覚醒した留美ちゃんは半纏を羽織って、リビングに下りて行った。

 ちょっと待ってえよ、ウクライナが戦ってるんはロシアで、ドイツやなかったはずやで。

 いや、日本でこれだけ喜んでるんやから、うちの知らん間に知らんとこで戦争やってた?

 ここんとこ文化祭の事で頭いっぱいで、全然気ぃつけへんかった!?

 今日は、家帰って、ご飯もそこそこ、お風呂入って寝てしもたさかい……うちも半纏を羽織ってリビングへ。

 ニャア

 ダミアがリビングの興奮ぶりに恐れをなして、階段の上まで逃げてきてる。

 子ネコの頃やったら「おーよしよし」って抱っこしたんねんけど、10キロ超えのブタネコは放っとく。

 リビングに足を踏み込むと、アホのうちでも分かった。

 なんかの試合に勝ったんや。

 アナウンサーとコメンテーターが興奮組に「奇跡の勝利!」「大金星!」とか言うてて、会場の歓声が怒涛の波音みたいに木霊してる。

「さくら、勝ったよ! 日本勝った!」

 詩ちゃんがパジャマにカーディガンで抱き付いてくる。ついさっきまで、うちといっしょに寝ぼけてた留美ちゃんはソファーでおばちゃんと手ぇとりあってるし、テイ兄ちゃんはおっちゃんとジョッキ片手にできあがってる。お祖父ちゃんまでワンカップの蓋あけながら、もう目つきがおかしい。

「ほら、さくらも、こっちおいで!」

「え、あ、うん……お祖父ちゃん、酒臭い~(^_^;)」

「ほら、感動の瞬間! リプレイやぞぉ」

 浅野おおおおおお スーパーゴーーーーーール!! ウオオオオオオ!!

「うわあ!」「キャー!」「かっこいい!」「惚れるううう!」「ニャアア!」

 みんなすごい興奮で、繰り返されるゴールの瞬間に痺れまくり。

 うちもお祭り騒ぎは好きやから、いっしょに「うわああ!」とかやりたいんやけど、ちょっと乗り損ねる。

 留美ちゃんも文化祭で疲れてるはずやねんけど、もう、お目々ギンギラギン。



 文化祭の代休を挟んだ昨日の学校でも、みんなサッカーの話があちこちでやってて、授業に来る先生らも最初にもサッカーの話をしてて、保健の長瀬先生なんか半分サッカーの話で潰してしもた。

 お目出度いのは分かるねんけど、うちは、もう一つ入っていかれへん。

「むう、なんか共産党の議員みたいだぞ」

 頼子先輩にも意地悪を言われる。

「頼子さん、もしさ、ホットドッグ早食い世界大会があって、日本人が優勝しても、そんな風にホットになれます?」

「え、なにそれ?」

「金魚すくい世界大会とか」

「うん?」

「ハナクソ飛ばし世界一とか」

「さくらぁ、ちょっと変」

「あ、いやいや、すんません。で、なんで共産党さんがでてくるんですか?」

「ネットでいいからニュースぐらい見なさいよね」

 そう言いながら、頼子さんはスマホでニュースを見せてくれます。

―― 日本勝っちゃうしで、残念 ――というツイート。

 スクロールすると、日本人ならみんな喜ばなければならないのはおかしい的な話もあってビックリ。

「まあ、あとで謝ったり訂正したりしてるんだけどね」

「あ、うちは、そんなんとはちゃいますから」

「ああ、ごめんごめん。これ見た後だったから、ちょっと重なっちゃった」

「うちて、サッカーだけちごて、スポーツ一般苦手っちゅうか……」

 言葉を濁してると、頼子さんは椅子を回して向き合ってくれる。

「いや、そんな大層なことちゃいますねんけど」

 なんかシビアになりそうと思てると、ソフィーが呼びに来て中断。

 ああ、話が横っちょいきそう。

 続きは、また今度ね(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか      さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 
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