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362『文化祭は明日になりました』

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せやさかい

362『文化祭は明日になりました』さくら    




 今日は朝から文化祭!


 ……のハズやったんやけど、平常通りの水曜日の授業です。

 なんでかっちゅうと、この雨ですわ。

 週間予報で、今日の勤労感謝の日ぃだけが高確率で雨やいうのは、先週の土曜日には分かってた。

 先週の土曜と言うと、マスコミまで呼んで、華々しく公開リハーサルをやった日。

 陣頭指揮と演出でメッチャ忙しいはずの前生徒会長の百武真鈴(本名の田中真央よりも通りがええ)は、それを見越して秘密裏に学校と交渉してたんやて!

「晴れていなければ企画は失敗です! 23日は90%の確率で雨になります、どうか24日に変更してください!」

 校長、理事長、組合の分会長、PTA会長、同窓会長、生徒会顧問、三年生学年主任、学食のオーナーなんかに働きかけてた。

 なんせ、三年生には最初で最後の文化祭、これがポシャッタら、留年してもっかい三年生をやらならあかん。

 で、20日の月曜日には24日への延長が決まって、予測通りに雨が降ってるというわけです。



「ちょっとぉ、いちおう授業なんだよ、みんな!」



 ペコちゃんが、バサリと教科書を教卓に叩きつけてキレた。

「午後からは、完全に文化祭準備できるんだから、集中しなさい!」

 ペコちゃんいうのは愛称で、本名は月島さやか。担任で現社の先生。

 愛称の通り、笑うとペコちゃんそっくり。

 明日の本番に向けて、いろいろ細かい作業やらやり残しがあるんですわ。衣装のフリフリつけたり、チラシを用意したり、食券を束にしてホッチキスで止めたり、ダンスのフリを確認したり。

 クラスの半分くらいが、そういうのんを机の下やら教科書で隠したりしながらやってる。

 ガサゴソガサゴソ……

 お嬢様学校やさかい、一応は片づけるんやけど、ぜんぜん授業には身ぃ入らへん。

 ペコちゃんいうのんは、笑顔の神さまみたいなもんやと思う。

 えべっさん(戎さん)、大黒さん、ビリケンさん、ドラえもん……デフォルトが笑顔のキャラはいっぱいあるけど、ペコちゃんは独特やと思う。

 ペコちゃんは、AMAZONのトレードマークみたいな口して、チョロッと舌出した笑顔。

 他のキャラは、もっと派手に笑ってるけど、目ぇはかまぼこ型かXになってる。

 笑顔やけど、目ぇ開いてるのはペコちゃんの特徴。

「月島先生って、元々は神社の巫女さんでしょ。笑顔は、職業的に顔に刻まれたもので、実は違うんだと思う」

 留美ちゃんが言うたことがある。

「よく観るとね、月島先生、目だけは笑ってないことが多い。先生がほんとうに怒ったらどういう顔になるんだろうね」

 そんなことを寝物語に言うたこともある。

「大魔神て古い映画があるじゃない。大映だったと思うんだけど、穏やかな埴輪の顔してるのが、いったんキレると、悪魔みたいな憤怒の顔になるんだよね……あんな感じ」

「そうなん? ちょっとググってみよ……」

 で、初めて大魔神の変身を見てビビってしもた。

「こんなのもあるよ……」

 留美ちゃんは、他にも美女が般若になったりとか、メロスが激怒した時の顔とか、怖い変身をいっぱいググって見せてくれて。

 最後にペコちゃんが激怒した顔……それは留美ちゃんがペンタブで描いたイラストやったけど、メッチャ怖い。

 で、あたしは率先してノートを開いて恭順の姿勢。

 すると、あたしの周囲から、徐々に授業の態勢になって、なんとか事なきを得る。



 やっぱりペコちゃん大明神の威力はすごい(^_^;)



「ちがうよ」

 四限が終わって、みんなで学食へ。列に並ぼうとしたら留美ちゃんが顔を寄せてくる。

「え、なんで?」

「それだけさくらの影響力も大きいということだよ」

「ええ、ないない(^_^;)」

 ハタハタハタ

 手にしたトレーを団扇みたいに振る。

 うんうん。

 留美ちゃんの後ろでメグリンが、変身前の大魔神みたいな顔で神妙に頷いておりました。

 ソニーは我関せずと、早々とランチをゲットしてテーブルに着いて、明日は、いよいよホンマの本番です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか      さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  
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