360 / 432
360『皆既月食と呪文』
しおりを挟む
せやさかい
360『皆既月食と呪文』さくら
ペコちゃんがすべった。
と言っても、なにかの試験に落ちたわけやないし、バナナの皮を踏んだわけでもない。
ベテランの芸人さんが、ここ一発のギャグをとばして反応が薄かった。こういうのを「スベった!」って言うでしょ?
その「スベった!」ですわ。
「昨日の皆既月食はすごかったよねえ(^▽^)/」
授業の冒頭でかましたんやけど、「あ、ああ……」いう反応がチラホラ。あとは「え、それなに?」という反応。
「あ、いや、だから昨日は皆既月食だったでしょうが」
言いながら、黒板に『皆既月食』と大きく書いた。
―― え、みんなで月を食べる? ――
そういうスカタンもちらほら。
なんちゅうか、それがどないしたいう感じ。
「ほら、太陽と地球と月が一直線に並んで、月が地球の陰に入って見えなくなることを言うんだよ!」
教師の性やろね、ペコちゃんは黒板に図を描いて、皆既月食の仕組みを説明。
―― ああ、なるほど ――
という空気にはなるねんけど、もう一つ感動が薄い。
たぶん、みんなテレビ見いひんし、新聞も読まへんからやと思う。
それに日食やったら、夜みたいに暗くなるけど、月食は、わざわざ空見てなら分からへんしね。
「昔はね、月食を見てしまったら死んでしまうとか運が悪くなるとか言って嫌われたんだよ。天皇さんなんか、月食の日は、月が出てくる前から籠ったりして、大変だったんだよ」
うんうん、なるほど……
やっぱり反応が薄い。
「えと、英語では……」
「total lunar eclipse(トータル ルナ― エクリプス)です」
ソニーが答える。
「そうそう、そうだよね。ヤマセンブルグとかじゃ言い伝えとかあるのかなあ」
「はい、ヨーロッパでも月食は不吉なものだとされていましたね。王さまの力が弱まるとされて、月食の日は、一日べつの人間を王さまとして立て、本物の王さまは一般人の格好をして隠れたりしました。月食が終わったら出てくるんですけどね」
「え、影武者?」
聞いたのはあたし。
「影武者はどうなるの?」
メグリンが聞く。
他の子ぉらは――それでそれでぇ?――いう子らと、悪い答え(殺されるとか)を予感して眉を顰めたりしてる。
「居なくなります」
え?
ちょっと斜め下の答えやったんで、みんなは俄然興味を持つ。
「居なくなるとは?」
「居なくなるんです」
「せやから、どう居なくなるのん?」
「それは聞いてはいけないんです。災いが起こります……」
ちょっと、シンとしてきた。
ソニーは――ちょっとまずかったか――いう顔をして、話を続けた。
「他にも、皆既月食の日に呪いをかけるとよく効くと言われています」
「ええ、呪いって、どんなん!?」
「両手をこんな風にして……ヘックマリオッサ! エイ!」
ちょっと雰囲気。
「しまった、ほんとにかけてしまった! みんな、ドアと窓を開けて! 呪いを逃がすから!」
ヒエ!
あたしが腰を浮かすと、他のみんなにも伝染って、いっせいにドアと窓を開ける。
ガラガラガラ!
「サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ!」
腕を大きく払うような仕草をしながら呪文を唱えるソニー!
大きく目を見開いたかと思うと、すぐに目を細めて、低く呪文を唱え続け、教室はシーーンと静まり返ってしまう。
「……と、まあ、こんな感じですね。雰囲気楽しんでいただけたら幸いです(^▽^)/」
パチパチパチ!
率先して拍手。みんなもそれにつられて拍手して、やっと平常の授業になった。
ほんまは、ソフィーとソニーがもう一チーム作って文化祭の劇をする話をしたかったんやけど、それは次にね。
「いやあ、さっきの魔法は真に迫ってたねぇ!」
帰りの昇降口でソニーを褒めたたえると、階段を怖い顔してソフィーが下りてきた。
で、なんやら英語で言い合いしたあと、二人で魔法の杖を持って走って行った。
「取りこぼしの魔法があるみたいよ……」
頼子先輩が渋い顔をして立っておりました(^_^;)
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
360『皆既月食と呪文』さくら
ペコちゃんがすべった。
と言っても、なにかの試験に落ちたわけやないし、バナナの皮を踏んだわけでもない。
ベテランの芸人さんが、ここ一発のギャグをとばして反応が薄かった。こういうのを「スベった!」って言うでしょ?
その「スベった!」ですわ。
「昨日の皆既月食はすごかったよねえ(^▽^)/」
授業の冒頭でかましたんやけど、「あ、ああ……」いう反応がチラホラ。あとは「え、それなに?」という反応。
「あ、いや、だから昨日は皆既月食だったでしょうが」
言いながら、黒板に『皆既月食』と大きく書いた。
―― え、みんなで月を食べる? ――
そういうスカタンもちらほら。
なんちゅうか、それがどないしたいう感じ。
「ほら、太陽と地球と月が一直線に並んで、月が地球の陰に入って見えなくなることを言うんだよ!」
教師の性やろね、ペコちゃんは黒板に図を描いて、皆既月食の仕組みを説明。
―― ああ、なるほど ――
という空気にはなるねんけど、もう一つ感動が薄い。
たぶん、みんなテレビ見いひんし、新聞も読まへんからやと思う。
それに日食やったら、夜みたいに暗くなるけど、月食は、わざわざ空見てなら分からへんしね。
「昔はね、月食を見てしまったら死んでしまうとか運が悪くなるとか言って嫌われたんだよ。天皇さんなんか、月食の日は、月が出てくる前から籠ったりして、大変だったんだよ」
うんうん、なるほど……
やっぱり反応が薄い。
「えと、英語では……」
「total lunar eclipse(トータル ルナ― エクリプス)です」
ソニーが答える。
「そうそう、そうだよね。ヤマセンブルグとかじゃ言い伝えとかあるのかなあ」
「はい、ヨーロッパでも月食は不吉なものだとされていましたね。王さまの力が弱まるとされて、月食の日は、一日べつの人間を王さまとして立て、本物の王さまは一般人の格好をして隠れたりしました。月食が終わったら出てくるんですけどね」
「え、影武者?」
聞いたのはあたし。
「影武者はどうなるの?」
メグリンが聞く。
他の子ぉらは――それでそれでぇ?――いう子らと、悪い答え(殺されるとか)を予感して眉を顰めたりしてる。
「居なくなります」
え?
ちょっと斜め下の答えやったんで、みんなは俄然興味を持つ。
「居なくなるとは?」
「居なくなるんです」
「せやから、どう居なくなるのん?」
「それは聞いてはいけないんです。災いが起こります……」
ちょっと、シンとしてきた。
ソニーは――ちょっとまずかったか――いう顔をして、話を続けた。
「他にも、皆既月食の日に呪いをかけるとよく効くと言われています」
「ええ、呪いって、どんなん!?」
「両手をこんな風にして……ヘックマリオッサ! エイ!」
ちょっと雰囲気。
「しまった、ほんとにかけてしまった! みんな、ドアと窓を開けて! 呪いを逃がすから!」
ヒエ!
あたしが腰を浮かすと、他のみんなにも伝染って、いっせいにドアと窓を開ける。
ガラガラガラ!
「サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ!」
腕を大きく払うような仕草をしながら呪文を唱えるソニー!
大きく目を見開いたかと思うと、すぐに目を細めて、低く呪文を唱え続け、教室はシーーンと静まり返ってしまう。
「……と、まあ、こんな感じですね。雰囲気楽しんでいただけたら幸いです(^▽^)/」
パチパチパチ!
率先して拍手。みんなもそれにつられて拍手して、やっと平常の授業になった。
ほんまは、ソフィーとソニーがもう一チーム作って文化祭の劇をする話をしたかったんやけど、それは次にね。
「いやあ、さっきの魔法は真に迫ってたねぇ!」
帰りの昇降口でソニーを褒めたたえると、階段を怖い顔してソフィーが下りてきた。
で、なんやら英語で言い合いしたあと、二人で魔法の杖を持って走って行った。
「取りこぼしの魔法があるみたいよ……」
頼子先輩が渋い顔をして立っておりました(^_^;)
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら
なかじまあゆこ
ライト文芸
嫉妬や憧れや様々な気持ちが交錯する。
派遣社員の成田葉月は突然解雇された。
成田葉月《なりたはづき》さん、申し訳ありませんが業績悪化のため本日で辞めて頂きたいと派遣先から連絡がありました。また、他に良い仕事があればご紹介しますので」との一本の電話だけで。
その後新しく紹介された派遣先は豪華なお屋敷に住むコメディ女優中川英美利の家だった。
わたし、この人をよく知っている。
そうなのだ、中川英美利は葉月の姉順子の中学生時代のクラスメートだった。順子は現在精神が病み療養中。
お仕事と家族、妬みや時には笑いなどいろんな感情が混ざり合った物語です。
2020年エブリスタ大賞最終候補作品です。
孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?
佐々木直也
ファンタジー
【素直になれないクール系美少女はいかが?】
主人公を意識しているくせにクールを決め込むも、照れすぎて赤面したり、嫉妬でツンツンしたり……そんなクーデレ美少女な王女様を愛でながら、ボケとツッコミを楽しむ軽快ラブコメです!
しかも彼女は、最強で天才で、だからこそ、王女様だというのに貴族からも疎まれている孤高のぼっち。
なので国王(父親)も彼女の扱いに困り果て、「ちょっと外の世界を見てきなさい」と言い出す始末。
すると王女様は「もはや王族追放ですね。お世話になりました」という感じでクール全開です。
そうして……
そんな王女様と、単なる平民に過ぎない主人公は出会ってしまい……
知り合ってすぐ酒場に繰り出したかと思えば、ジョッキ半分で王女様は酔い潰れ、宿屋で主人公が彼女を介抱していたら「見ず知らずの男に手籠めにされた!」と勝手に勘違い。
なんとかその誤解を正してみれば、王女様の巧みな話術で、どういうわけか主人公が謝罪するハメに。親切心で介抱していたはずなのに。
それでも王女様は、なぜか主人公と行動を共にし続けた結果……高級旅館で一晩明かすことに!?
などなど、ぼっち王女のクーデレに主人公は翻弄されまくり。
果たして主人公は、クーデレぼっち王女をデレデレにすることが出来るのか!?
ぜひご一読くださいませ。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ダッシュの果て、君と歩める世界は
粟生深泥
ライト文芸
町に伝わる“呪い”により祖父と父を亡くした宮入翔太は、高校二年生の春、「タイムマシンは信じるか」と問いかけてきた転入生の神崎香子と知り合う。その日の放課後、翔太の祖母から町に伝わる呪いのことを聞いた香子は、父と祖父の為に呪いの原因を探る翔太に協力することを約束する。週末、翔太の幼なじみの時乃を交えた三人は、雨の日に登ると呪いにかかるという深安山に向かい、翔太と時乃の話を聞きながら山頂で香子は試料を採取する。
それから一週間後、部活に入りたいと言い出した香子とともにオーパーツ研究会を訪れた翔太は、タイムトラベルについて調べている筑後と出会う。タイムトラベルに懐疑的な翔太だったが、筑後と意気投合した香子に巻き込まれるようにオーパーツ研究会に入部する。ゴールデンウィークに入ると、オーパーツ研究会の三人はタイムトラベルの逸話の残る坂巻山にフィールドワークに向かう。翔太にタイムトラベルの証拠を見せるために奥へと進もうとする筑後だったが、鉄砲水が迫っていると香子から告げられたことから引き返す。その後、香子の言葉通り鉄砲水が山中を襲う。何故分かったか問われた香子は「未来のお告げ」と笑った。
六月、時乃が一人で深安山に試料を採りに向かう途中で雨が降り始める。呪いを危惧した翔太が向かうと、時乃は既に呪いが発症していた。その直後にやってきた香子により時乃の呪いの症状は治まった。しかしその二週間後、香子に呪いが発症する。病院に運ばれた香子は、翔太に対し自分が未来の翔太から頼まれて時乃を助けに来たことを告げる。呪いは深安山に伝わる風土病であり、元の世界では呪いにより昏睡状態に陥った時乃を救うため、翔太と香子はタイムトラベルの手法を研究していた。時乃を救った代償のように呪いを発症した香子を救う手立てはなく、翌朝、昏睡状態になった香子を救うため、翔太は呪いとタイムトラベルの研究を進めることを誓う。
香子が昏睡状態に陥ってから二十年後、時乃や筑後とともに研究を進めてきた翔太は、時乃が深安山に試料を採りに行った日から未来を変えるためにタイムトラベルに挑む。タイムトラベルに成功した翔太だったが、到達したのは香子が倒れた日の夜だった。タイムリミットが迫る中、翔太は学校に向かい、筑後に協力してもらいながら特効薬を作り出す。間一髪、特効薬を香子に投与し、翌朝、香子は目を覚ます。お互いの為に自分の世界を越えてきた二人は、なんてことの無い明日を約束する。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる