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351『三年ぶりの如来寄席』
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せやさかい
351『三年ぶりの如来寄席』さくら
なんで今日が晴れなん!?
朝の青空を見上げて歯ぎしりするあたしです!
昨日は三年ぶりの如来寺寄席やったんです!
朝から雨の中を桂米国さんは、お弟子さんを連れて、うちの本堂に来てくれはりました。
「いやあ、三年ぶりの阿弥陀さんの神々しいこと!」
そない感激すると、鈴(りん)を鳴らして手を合わせはります。
米国さんは、いちおうプロテスタントで浄土真宗やありません。
せやけど、お寺の本堂でやるんやさかい、ちゃんとご挨拶はするわけです。
「ナマンダブナマンダブ……」
ちゃんと念仏も唱えはります。
「異教徒なのに、なぜお念仏を?」
米国さんより早く頼子さんといっしょに来てるソフィーが聞きます。
「お念仏は『南無阿弥陀仏』でしょ、南無は『もしもし』いう呼びかけやし、阿弥陀仏は仏さんの名前。つまり『もしもし仏さん』という意味。これから本堂を使わしてもらいますいうご挨拶。なにごとも挨拶で始まって挨拶で終わるっちゅうわけです」
「でも、それならお念仏でなくとも……」
「うん、ソフィーさんも、そうやと思うねんけど、日本人に挨拶するときは日本語でっしゃろ?」
「はい、礼儀です」
「二人とも英語で会話できるけど、いま、日本語で話してまっしゃろ?」
「あ……はい。そういうことなんですね」
ソフィーの日本文化理解が、また一歩進みました。
組み立て式の高座を作って、メクリを整え、テルテル坊主ぶら下げて、あとは雨が止むのを待ちました。
けど、雨は止みません。
「10月10日は晴れの特異日やねんけどなあ……」
と、テイ兄ちゃんは、本堂の縁側から空を睨みます。
雨を怨むのは、檀家さんのことなんです。
檀家さん、主に婦人部。婦人部いうのは、平均年齢70歳ちょっとくらい。
「いや、70歳もっとや」
テイ兄ちゃんが言いなおします。
そうなんです、年寄りが多いので雨の日はお寺にくるのんが大変なんです。
神経痛やらリウマチには厳しいし、人によっては電動車いすやったりして、健康でも来るのんが大変なんです。
それから、学校の方は動員が効きすぎました(^_^;)。
散策部はもちろんのこと、生徒会からも会長の田中真央と執行部全員。田中会長は人気声優百武真鈴でもあるので、そのファンが学校の内外から聞きつけて30人ほど。
他にも、担任のペコちゃん、体育の長瀬先生(意外な落語ファンやそうです)やら、うちらのクラスメートも3人ほど。
それから、正式に王女さまになったので、頼子さんファンもボチボチと。
総勢100人ほどの入りで、お寺の檀家さんは、そのうちの10人ほど。
「みんな、檀家のお婆ちゃんたちを前にこさせてあげて!」
会長の田中真央さんが仕切って、お婆ちゃんたちを最前列に。
「いやあ、なんか同じ苗字で、孫みたいやなあ」
と田中のお婆ちゃんが喜ぶ。
「よねちゃん、孫やないやろ、ひ孫やで!」
と、加藤のお婆ちゃんがチャチャ入れしはります。
うひゃひゃひゃひゃ(^Д^)
テンション高く笑うけど、あした大丈夫やろかと心配しました。
前回同様、うちと頼子さんは着物着てお茶子です。
会場整理とめくり、お囃子が録音やいうのは、ちょっと残念やけど、これは経費の関係。
出し物は『所帯念仏』『はてなの茶碗』『千両蜜柑』『地獄八景亡者の戯れ(前半)』の三本。
それぞれ面白かったんやけど、紹介してると、めっちゃ長うなるんで、別の機会にね。
落語会そのものは大盛況。せやけど、檀家さんの数が少なかったんで、如来寺の催し物というよりは、完全なイベントになってしもた。
「まあ、ええで、にぎやかなんが一番や」
テイ兄ちゃんは明るく返してくれる。
田中のお婆ちゃんは、張り切り過ぎて、帰ってから寝込んではるそうです。
「檀家さんのこと、いちばんに考えてくれて、ありがとうなあ」
お祖父ちゃんが喜んでくれた。
喜んでくれるのはええけど、頭撫でるのんは、堪忍してほしい(^_^;)
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
351『三年ぶりの如来寄席』さくら
なんで今日が晴れなん!?
朝の青空を見上げて歯ぎしりするあたしです!
昨日は三年ぶりの如来寺寄席やったんです!
朝から雨の中を桂米国さんは、お弟子さんを連れて、うちの本堂に来てくれはりました。
「いやあ、三年ぶりの阿弥陀さんの神々しいこと!」
そない感激すると、鈴(りん)を鳴らして手を合わせはります。
米国さんは、いちおうプロテスタントで浄土真宗やありません。
せやけど、お寺の本堂でやるんやさかい、ちゃんとご挨拶はするわけです。
「ナマンダブナマンダブ……」
ちゃんと念仏も唱えはります。
「異教徒なのに、なぜお念仏を?」
米国さんより早く頼子さんといっしょに来てるソフィーが聞きます。
「お念仏は『南無阿弥陀仏』でしょ、南無は『もしもし』いう呼びかけやし、阿弥陀仏は仏さんの名前。つまり『もしもし仏さん』という意味。これから本堂を使わしてもらいますいうご挨拶。なにごとも挨拶で始まって挨拶で終わるっちゅうわけです」
「でも、それならお念仏でなくとも……」
「うん、ソフィーさんも、そうやと思うねんけど、日本人に挨拶するときは日本語でっしゃろ?」
「はい、礼儀です」
「二人とも英語で会話できるけど、いま、日本語で話してまっしゃろ?」
「あ……はい。そういうことなんですね」
ソフィーの日本文化理解が、また一歩進みました。
組み立て式の高座を作って、メクリを整え、テルテル坊主ぶら下げて、あとは雨が止むのを待ちました。
けど、雨は止みません。
「10月10日は晴れの特異日やねんけどなあ……」
と、テイ兄ちゃんは、本堂の縁側から空を睨みます。
雨を怨むのは、檀家さんのことなんです。
檀家さん、主に婦人部。婦人部いうのは、平均年齢70歳ちょっとくらい。
「いや、70歳もっとや」
テイ兄ちゃんが言いなおします。
そうなんです、年寄りが多いので雨の日はお寺にくるのんが大変なんです。
神経痛やらリウマチには厳しいし、人によっては電動車いすやったりして、健康でも来るのんが大変なんです。
それから、学校の方は動員が効きすぎました(^_^;)。
散策部はもちろんのこと、生徒会からも会長の田中真央と執行部全員。田中会長は人気声優百武真鈴でもあるので、そのファンが学校の内外から聞きつけて30人ほど。
他にも、担任のペコちゃん、体育の長瀬先生(意外な落語ファンやそうです)やら、うちらのクラスメートも3人ほど。
それから、正式に王女さまになったので、頼子さんファンもボチボチと。
総勢100人ほどの入りで、お寺の檀家さんは、そのうちの10人ほど。
「みんな、檀家のお婆ちゃんたちを前にこさせてあげて!」
会長の田中真央さんが仕切って、お婆ちゃんたちを最前列に。
「いやあ、なんか同じ苗字で、孫みたいやなあ」
と田中のお婆ちゃんが喜ぶ。
「よねちゃん、孫やないやろ、ひ孫やで!」
と、加藤のお婆ちゃんがチャチャ入れしはります。
うひゃひゃひゃひゃ(^Д^)
テンション高く笑うけど、あした大丈夫やろかと心配しました。
前回同様、うちと頼子さんは着物着てお茶子です。
会場整理とめくり、お囃子が録音やいうのは、ちょっと残念やけど、これは経費の関係。
出し物は『所帯念仏』『はてなの茶碗』『千両蜜柑』『地獄八景亡者の戯れ(前半)』の三本。
それぞれ面白かったんやけど、紹介してると、めっちゃ長うなるんで、別の機会にね。
落語会そのものは大盛況。せやけど、檀家さんの数が少なかったんで、如来寺の催し物というよりは、完全なイベントになってしもた。
「まあ、ええで、にぎやかなんが一番や」
テイ兄ちゃんは明るく返してくれる。
田中のお婆ちゃんは、張り切り過ぎて、帰ってから寝込んではるそうです。
「檀家さんのこと、いちばんに考えてくれて、ありがとうなあ」
お祖父ちゃんが喜んでくれた。
喜んでくれるのはええけど、頭撫でるのんは、堪忍してほしい(^_^;)
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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