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345『あずきバーとペコちゃん』

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せやさかい

345『あずきバーとペコちゃん』さくら   




 ねえ、見てよ!


 お風呂から上がったら、留美ちゃんがパソコンの画面を指さしてる。

「え……アハハハ( ´艸`)」

 思わず口を押えてしまう。

 動画のタイトルは『怒れるフランス人』です。


 フランス人のカップルが、浅草の雷門。はんぶん怒って、はんぶん面白がってる。

『日本はキュートで好きだけどさ、これはあり得ないわあ』

 男が、右手に持ったそれを左手で指差してる。女の人が『ちょっとやめときいや』いう感じ。でも、目ぇ笑てるから、なんや面白いこと言うんやろねえ。

 なにを言いよんねん? すると、お前にだけ教えたるいう感じでカメラに寄って来る。

『そこで買ったアイスなんだけどさ、世界で一番硬い! 硬すぎる! 知らずに齧りついたら、ぜったい歯を折ってしまうぞ!』

『でも、美味しいよ(^_^;)』

 彼女がフォローして、はんぶん面白がって、男がガキっと奥歯で嚙み切った!


 それは、うちが大好きな『あずきバー』やおまへんか!


 おぜんざいをそのままに凍らせたような、いかにも日本のアイスいう感じのあずきバー。

 うちらはまるカブリなんかはせえへん。

 最初、ペロペロ舐めて、それから前歯で削るようにして齧る。

 すると、お善哉の甘さが口の前の方から広がってきて、もっかい、ひと齧り。

 やがて、小豆が顔を出して、冷やし善哉。でもって、全体に張った霜が、だんだん小さなって、小さなったとこは柔らかなって、ガブっと齧りつける。

 他のアイスよりも溶けるのん遅いし、美味しいし、うちはあずきバーが大好き。

「これって、ソフィーが初めてあずきバー食べた時といっしょだよね」

 留美ちゃんがくすぐったそうに喜ぶ。


 まだ、語尾に「です」が抜けきれへんかったころのソフィー。

 本堂の階段に頼子さんと四人腰かけて食べたあずきバー。

『なにかの呪いですか!?』

 魔法使いの末裔は、戦闘的な顔であずきバーの齧り跡を見つめてたっけ。

 そのソフィーも、こないだ頼子さんと昼寝に来た時は、うちらと同じ食べ方をしてた。



 で、放課後のキャフェテリア。



 二割ぐらい霜が消えたあずきバーを持って、スマホを見つめてるペコちゃん先生。

 後ろからそーっと回って、留美ちゃんと覗いてみる。

 え?

 スマホの画面は、お台場の大観覧車とアンナミラーズの停止と閉店のニュースをやってる。

「え、あ、やだなあ(n*´ω`*n)」

 気ぃつい照れまくるペコちゃん先生。

「なにか、思い出があるんですか?」

 留美ちゃんにしては直球の質問。

「え、あ、うん……」

 そう言うて、あずきバーの先を二センチ近く齧る。フランス人の男並みに歯が強いみたい。二人で感心。

「「おお」」

「……学生の頃にね、ここでバイトしてたの」

「ええ!?」

 アンナミラーズは、うちでも知ってる。行ったことは無いけど、日本で一番制服の可愛い喫茶店ですやんか!

 ミニスカートの切り返しが高い位置(ほとんどオッパイの下)にあって程よくバストが強調されて可愛い!

 スカートはオレンジ系の暖色、色は何色かあって、ブラウスの白に映えてる。

 こ、これをペコちゃんが着てたぁ!?

「ほら、この人……」

 スクロールすると、雑誌の表紙にもなったという伝説の神メイド、いやカリスマウェイトレスさん!

 今は、結婚してお母ちゃんになってはるねんけど、最後にお客で来てはるのが写ってる。

「笑顔とか、人との接触の仕方というか接客とか、ここで勉強したんだよ……友だちも、ここのバイト仲間が多かったし。まる三年やって、ほんとに、わたしの青春だった……かな?」

「いやあ、先生やったら不二家でバイトしてたと思ってましたぁ(^▽^)/」

「アハハ、顔は生まれつきだからね」

 気が付くと、先生のあずきバーは最後のひと齧りを残すだけになってる。

「でも、なんであずきバーなんですか?」

「え? ああ、このあずきバーの会社の経営なのよ……ガブリ」

 先生は、最後をひと齧りにすると、時計を見て行ってしもた。

 うちらも、時間なんで部室にいくことにしました。

 二学期の学校も、いよいよ平常運転です。



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか     さくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 
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