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321『海の日 お祖父ちゃんと』

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せやさかい

321『海の日 お祖父ちゃんと』さくら   




 え、海の日ぃやったんか!?


 たまたま、お祖父ちゃんと二人だけのリビング、新聞読んでたお祖父ちゃんが声を上げる。

 時々、こういうことがある。

 お祖父ちゃんは、二年前に住職の仕事をおっちゃんに譲った。

 テイ兄ちゃんが、なんとか務まるようになってきたし、他所よりは檀家の多いお寺やけど、さすがに三人でやるほどやない。

 膝とかもガタがきて、長時間の正座がきついことも理由の一つ。

 正座は、坊主には必須条件。

「親鸞さんは胡座でお経唱えてたんやけどなあ……」

 と膝をさすりながら言うてた。

「そら、お父さん、親鸞さんの時代は正座の習慣なかったからなあ」

 おっちゃんが笑って、中坊やったうちはビックリした。

「昔は正座せえへんかったん?」

「うん、正座が習慣づいたのは江戸時代やなあ」

「「「え、ほんま!?」」」

 従兄妹同士三人でびっくりしたのも懐かしい思い出。

 昔は、天皇さんや将軍さんの前では、みんな胡座かいてたそうです。



 ま、それはおいといて、お祖父ちゃんのスカタン。



 やっぱり、檀家周りもせんと、うちで隠居生活してたら曜日感覚とかなくしてしまう。

 ひょっとしたら、ボケのはじまり!?

「まだ、ボケてへんわ!」

「え、なんも言うてへんけど」

「そんな顔してた」

「アハハ……」

「海の日て、ちょっと前までは20日やったやろ」

「え、せやった?」

「そうや、七月は、他に祝日あれへんやろ」

「えと……ほんまや」

 柱のカレンダーを見る。

「ちょっと前やと思うねんけど、七月にも祝日欲しいいうことで祝日になったんや」

「国も、たまにはええことするねえ(^▽^)」

「元々は、祝日やないけど海の記念日いうて昔からあったんや」

「そうなん?」

「明治天皇がな、地方巡行を終えて、初めて船で東京に帰ってきはったんを記念して、戦前につくられた記念日や」

「え、え、せやったらせやったら、天皇さんが初めて飛行機に乗らはった日を『空の日』とか、初めて自動車に乗らはった日ぃを『陸の日』とか増やしたらええのに!」

「天皇さんは祝日請負人とちゃうでえ」

「子どもは賛成すると思うよ」

「たしか、明治天皇は灯台の見回り船に乗って帰って来はったんや。明治の……9年ごろやったかなあ、日本でも主だったとこには灯台ができてな、その灯台を点検したり灯台守の生活必要品とかを届けるための船や。そういう海洋日本を支えてる仕事や人に思いをいたさはったんやなあ」

「へえ、そうなんや」

 あらためてカレンダーを見る。ほんまに、七月で一回だけの祝日が神々しく見えてくる。

 カレンダーの上半分を見ると『アミダさまのお救いは年中無休』と書いてある。



「ああ、あっついあっつい~~~~」



 檀家さんが見たら「お布施返せえ!」ていいそうなアホな顔、衣の裾をたくし上げてテイ兄ちゃんが返って来る。

 なるほど、うちの仏弟子も年中無休ではありました。

「おつかれさん!」

 キンキンに冷えた麦茶をビールジョッキに入れて持って行ってやるさくらでありした(^_^;)。




☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー      頼子のガード
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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