せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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317『暑いさかい(^_^;)』

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せやさかい

317『暑いさかい(^_^;)』さくら   




 ミストいうのはええもんやなあ……


 この暑い中、高校の同窓会で大阪城に行ってきたお祖父ちゃんが、汗拭きながら感激してる。

「お義父さん、もうお歳なんですから、控えてくださいね……」

 甲斐甲斐しく舅の背中を拭きながらおばちゃんがこぼす。

「いや、美保さん、かんにん。ホテルのラウンジで喋ってたら、目の前に大坂城やさかい、ついなあ(^_^;)」

 同窓会そのものは、馬場町(ばんばちょう)のホテルでやったんやけど、窓から見える大阪城に感動して、何十年かぶりで行ったらしい。

「で、ミストって?」

 麦茶を並べながら詩(ことは)ちゃん。

「観光局務めとった奴がな『天守閣にミストが付いたんやで』て言いよってな、それで、みんなで行こういうことになって」

「子どもみたい、天守閣までは坂道だらけなのにぃ、お祖父ちゃん血圧高いんだからね」

 詩ちゃんも手厳しい。

 たしかに、大坂城は、東西南北のどこから入っても、けっこうな坂道がある。

「アハハ、それが、もう小学校の遠足気分で、楽しかった。切符買うて、天守閣の石段上ると、石段の上までミストでなあ。子どもの頃にお祖母ちゃんが(お祖父ちゃんのお祖母ちゃん)境内の水まきしてくれてなあ、その下を近所の子らとキャーキャー言いながら、なんべんも潜ったのんを思い出した」

「それて、いつごろ?」

「昭和……三十年ごろかなあ」

「さすがに、終戦直後!」

「あほ言いいな、戦争は十年も前に終わっとる」

「十年なんて、まだまだ終戦直後みたいなものよ」

「そうよね、お義父さん、ほんと気を付けてくださいね」

「ああ、あははは」

 笑ってごまかすお祖父ちゃん。

 あとで新聞見たら、その大阪城のミストのことが写真付きで載ってた。

 観測史上最速ちゃうかいうくらい早く梅雨があけて、まだ蝉も鳴かへんいうのに体温並みの暑さが続いてる。




 お祖父ちゃんがミストに感激した晩にペコちゃん先生が電話してきた。

 なんでも、お知り合いの神社の御神木を切るので見にけえへんかというお誘い。

 このクソ暑いのに二の足やったんやけど、頼子さんがその気になって、散策部のみんなで出かけることになった。



 うわあああ……!

 来て見てビックリ! 境内の御神木やいうさかい、てっきり鳥居か拝殿の前あたりにある、ちょっと大きいくらいの楠を想像してた。

 なんと、森ですわ!

「神社創建のころからの森やさかい、1200年くらいは、そのまんまの河内の森ですわ」

 若い神主さんにお祓いしてもろて、入り口の鳥居を潜る。

「「「「「「ウワアアアアアアアア」」」」」」

 みんなの声が揃う。

 鳥居を潜ったとたんに、体感温度が5度くらい下がる。

「幸いなことに、うちの森は、桃山時代に四半分削られただけで、そのまんま残ってるから、よその神社のよりも涼しいんですわ」

「きっと、涼しさを好む神さまもおられるんですねえ」

 ソフィーが感動して、神主さんに水を向ける。

「そうです、御祭神には河内縣主命(かわちあがたぬしのみこと)がおられましてなあ、涼し気な清浄を好まれたそうです。鬱蒼とはして見えるんですが、定期的に氏子さんが入って、枝打ちやら下草刈りとかはやってるんですわ」

「氏子さんにお若い方がおられるんですか?」

 ペコちゃん先生が、ちょっと羨ましそうに聞く。

「いえいえ、うちもお年寄りが多なってしまいましてなあ、今回の伐採も、それが原因の一つですわ……ああ、これこれ、この木ぃですわ」

 うわあああ……

 それは、他の木ぃよりも一回りは大きな木で、大きさの割には、真っ直ぐに立ってる。

 その木の周りは、心なし、他よりも涼しくて、この森の主いう感じ。

「榧(かや)ですか?」

 ソフィーが質問すると、なんでか、ちょっと神主さんはたじろいだ感じ。

「い、いやあ、外国の方やのに、よう知ってはる。はい、ここらへんでは、ちょっと珍しい木なんですけどね、倒木の恐れがあるんで、やむかたなしですわ(^_^;)」

 実際の伐採は、もうちょっと涼しなってかららしい。

 それにしても、惜しい木や。

 汗が引くまで、御神木を眺めて、社務所でお茶を頂いて帰りました。

 あ、むろん、来た時と帰る時は、拝殿にお参りしたよ。



 その夜、夢にごりょうさんが現れた。



「あれはな、稲の実り具合を見る途中、よく休んだ森でなあ、名誉に思った縣主が丹精込めて手入れをしていてくれたものだ……」

「そうやったんすか!?」

「そうか、いまでも大切にしてくれているのだなあ、伐採される時は、わたしも見届けにいこう。榧の木は、将棋や碁盤の良い材料になる。家具の材料としても一級品だ、役にたてばよいのだがな……」

 え、そうか、神主は伐採した木を売り飛ばして一儲けを狙っとるんか!

 それで、ソフィーが聞いた時、ギクリとしよったんか!?



「あはは、さくらと居ると退屈しないわ」



 頼子さんに笑われた。

 あたしは、帰りの車の中で寝てしもた。

 車の中で、ソフィーが榧の木は、いろんなものの材料になって、それを売ったお金で神社の維持費やら整備費の一部にするという話をしてたらしい。

 似たようなことはヤマセンブルグの教会でもやってて、親近感を感じたらしい。

 神主さんは、ソフィーにまっすぐ見つめられて、ちょっとビックリしたらしい。

「だろうね、ソフィーはガードで眼光鋭いもんねぇ」

 留美ちゃんは感心するけど、あたしはちゃうと思う。

 頼子さんとはタイプちゃうけど、あのまんま魔法学校映画の主役が務められそうなベッピンさん。

 そのベッピンさんに至近距離で見つめられて、正直におたついたんやと思う。

 神主さん、うちには、終始近所の子ぉに話すみたいやったしね。

 ええんです、モテない歴を十五年もやってると、そういう勘だけは鋭いんです。



 なんや、大阪城のミストから変な方向にいってしもた。

 まあ、これも、暑さのせいです。

 チャンチャン。




☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー      頼子のガード
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