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310『五月最後の朝』
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せやさかい
310『五月最後の朝』さくら
高校に入って変わったことはいっぱいあるけど、一番は通学の変化やね。
やっぱ、電車通学は違うでしょ!? と、思われるかもしれへん。
ところがちゃうんです。
電車に乗るのは人生で初めていうわけやないし、南海電車も地下鉄も物心ついたころから乗ってるしね。
一番の変化は自転車ですよ。
家から堺東までの二キロほどを自転車で走って『スナックはんぜい』の駐車場に停めさせてもらう。
むろん自転車は五歳くらいから乗ってるけど、毎日同じ道を走る云うのは人生で初めてやんか。
最初はね、本名というか真名というかは30号線やねんけど地元では13号線いう名前で通ってる道を北に向かって走ってた。
せやけど、家から13号線に出るには、東のごりょうさんの方に400メートルほど走らならあかへん。
堺東て、家の北の方角やさかいに、なんや損してる気分。堺東に着いたら、今度は駅とは反対の西に向かって100メートルほど入らならあかんしね。合わせたら、500メートル損してる気分。
せやさかい、時々、留美ちゃんと「あっちの方がええんとちゃう?」「こっちがいいよ」てな感じで道を変えた結果、時間にして一分ほど早なりました(^_^;)。
ちょっと人生得した気分。
昨日は、朝のうち雨が残ってて、テイ兄ちゃんに言うて車で行こかと思てたんやけどね。
「大した降りじゃないし、帰りは晴れるって予報だし」という留美ちゃんの説に従う。
うちには血のつながった従兄やけど、留美ちゃんには、まだ遠慮がある。
せやけど、それを言うたら、かえって留美ちゃんは意識してしもて負担になる。
「せやな、とっとと行こか!」と宣言して、ちょっと残念そうなテイ兄ちゃんをほって家を出発した。
「正解でしょ!?」
ペダルをこぐ留美ちゃんは、ちょっと得意そうに自転車を並走させた。
空はドンヨリで、時々、霧雨というかミストみたいな雨が顔とかまくった腕とかに当たって、風も微妙に向かい風で爽やか。制服は湿気るけど、明日から完全夏服の衣替えで、新品の夏服やさかいに、少々霧雨が染み込んでも気になりません!
「「おはようございます! 行ってきまーす」」
ハンゼイのマスターに挨拶。
駐車場にオキッパで駅に行ってもええねんけど、やっぱ「ケジメだよ」という留美ちゃんの意見で、毎朝ドアを開けて一言声を掛けていく。
たいてい「お、おはようさん!」と一言もらって駅に向かう。
時間にして五秒もかからへんコミニケーション。
モーニングのお客さんには常連さんも居てて、そういう顔見知りさんからも「おはようさん♪」と声を掛けてもらうこともある。
「あ、ちょうどええ」
今朝は、マスターに呼び止められた。
「「はい?」」
二人声が揃うと「双子みたい(^▽^)」と、常連の女の人。
うちらは全然似てへんねんけど「同じ制服着て自転車下りたばっかりで、きっと同じ呼吸してるからだよ」と留美ちゃんは言う。
うちは、それだけやないと思う。お互い親の都合で二年前からは同じ部屋で、姉妹同然の暮らしをしてるから。それに、なにより、如来寺のみんなは暖かい。けど、言うたら、留美ちゃんは頬っぺた真っ赤っかになるさかい、言いません。
「今日は10時で店閉めるから、モーニング余ってしもて、よかったらサンドイッチ持って行って」
そう言うて紙袋に入ったサンドイッチをもらった。
「あたしももらったのよ」
常連さんも袋を見せはる。
「ラッキー!」「あ、ありがとうございます」
お礼の言葉は揃いません(^_^;)。
「やったねえ!」
ニマニマしながら駅へ。
「ちょっと多いよ」
「ほんまや、一人で二人分以上あるやんか!」
食いしん坊のうちでも、ちょっと多い。
「メグリンにも知らせてあげよう」
「うん、そないしょ!」
メールを打って、三十秒で返事が返ってきて――頼子さんたちにも声かけよ!――ということになった。
そして、昼休みは期せずして『散策同好会臨時部会』的に、雨の上がった中庭でサンドイッチで昼ご飯。
なんか、めっちゃラッキーな一日!
せやけど、そうそう世の中うまいことは行きません……その話は、次回に。
ああ、話す気力あるやろか……。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー 頼子のガード
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
310『五月最後の朝』さくら
高校に入って変わったことはいっぱいあるけど、一番は通学の変化やね。
やっぱ、電車通学は違うでしょ!? と、思われるかもしれへん。
ところがちゃうんです。
電車に乗るのは人生で初めていうわけやないし、南海電車も地下鉄も物心ついたころから乗ってるしね。
一番の変化は自転車ですよ。
家から堺東までの二キロほどを自転車で走って『スナックはんぜい』の駐車場に停めさせてもらう。
むろん自転車は五歳くらいから乗ってるけど、毎日同じ道を走る云うのは人生で初めてやんか。
最初はね、本名というか真名というかは30号線やねんけど地元では13号線いう名前で通ってる道を北に向かって走ってた。
せやけど、家から13号線に出るには、東のごりょうさんの方に400メートルほど走らならあかへん。
堺東て、家の北の方角やさかいに、なんや損してる気分。堺東に着いたら、今度は駅とは反対の西に向かって100メートルほど入らならあかんしね。合わせたら、500メートル損してる気分。
せやさかい、時々、留美ちゃんと「あっちの方がええんとちゃう?」「こっちがいいよ」てな感じで道を変えた結果、時間にして一分ほど早なりました(^_^;)。
ちょっと人生得した気分。
昨日は、朝のうち雨が残ってて、テイ兄ちゃんに言うて車で行こかと思てたんやけどね。
「大した降りじゃないし、帰りは晴れるって予報だし」という留美ちゃんの説に従う。
うちには血のつながった従兄やけど、留美ちゃんには、まだ遠慮がある。
せやけど、それを言うたら、かえって留美ちゃんは意識してしもて負担になる。
「せやな、とっとと行こか!」と宣言して、ちょっと残念そうなテイ兄ちゃんをほって家を出発した。
「正解でしょ!?」
ペダルをこぐ留美ちゃんは、ちょっと得意そうに自転車を並走させた。
空はドンヨリで、時々、霧雨というかミストみたいな雨が顔とかまくった腕とかに当たって、風も微妙に向かい風で爽やか。制服は湿気るけど、明日から完全夏服の衣替えで、新品の夏服やさかいに、少々霧雨が染み込んでも気になりません!
「「おはようございます! 行ってきまーす」」
ハンゼイのマスターに挨拶。
駐車場にオキッパで駅に行ってもええねんけど、やっぱ「ケジメだよ」という留美ちゃんの意見で、毎朝ドアを開けて一言声を掛けていく。
たいてい「お、おはようさん!」と一言もらって駅に向かう。
時間にして五秒もかからへんコミニケーション。
モーニングのお客さんには常連さんも居てて、そういう顔見知りさんからも「おはようさん♪」と声を掛けてもらうこともある。
「あ、ちょうどええ」
今朝は、マスターに呼び止められた。
「「はい?」」
二人声が揃うと「双子みたい(^▽^)」と、常連の女の人。
うちらは全然似てへんねんけど「同じ制服着て自転車下りたばっかりで、きっと同じ呼吸してるからだよ」と留美ちゃんは言う。
うちは、それだけやないと思う。お互い親の都合で二年前からは同じ部屋で、姉妹同然の暮らしをしてるから。それに、なにより、如来寺のみんなは暖かい。けど、言うたら、留美ちゃんは頬っぺた真っ赤っかになるさかい、言いません。
「今日は10時で店閉めるから、モーニング余ってしもて、よかったらサンドイッチ持って行って」
そう言うて紙袋に入ったサンドイッチをもらった。
「あたしももらったのよ」
常連さんも袋を見せはる。
「ラッキー!」「あ、ありがとうございます」
お礼の言葉は揃いません(^_^;)。
「やったねえ!」
ニマニマしながら駅へ。
「ちょっと多いよ」
「ほんまや、一人で二人分以上あるやんか!」
食いしん坊のうちでも、ちょっと多い。
「メグリンにも知らせてあげよう」
「うん、そないしょ!」
メールを打って、三十秒で返事が返ってきて――頼子さんたちにも声かけよ!――ということになった。
そして、昼休みは期せずして『散策同好会臨時部会』的に、雨の上がった中庭でサンドイッチで昼ご飯。
なんか、めっちゃラッキーな一日!
せやけど、そうそう世の中うまいことは行きません……その話は、次回に。
ああ、話す気力あるやろか……。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー 頼子のガード
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