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300『ちょっと、あんたたち!』

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せやさかい

300『ちょっと、あんたたち!』さくら 




 あーーおもしろかったぁ!


 もう五日目になる校内探検に一段落つけて中庭のベンチ。

 仰ぎ見る空は、ヒノキ花粉もピークを過ぎたとかで、あたしらの心のように澄み渡ってる。

 ちょっと、あんたたち!

 背中合わせのベンチから声がしてビックリする!

「「あ、せんせい!?」」

 朝のSHRから顔見てない担任のペコちゃん先生が怖い顔して睨んでる。

「え、あ……あ……」

「美人が台無しですよ」

 留美ちゃんのワタワタぶりも、うちのお愛想も無視して、こっちのベンチにやってきた。

 もし、不二家がホロ苦ビターチョコとか出したら、こういうペコちゃんがええなあと思ったけど言いません。

「同じ安泰中学出身だから仕方ないとこもあるけど、二人で動きすぎ」

「「え?」」

「なんか、反応までシンクロしてからに、ここは、真理愛学院高校なんだよ。二人でばっかり行動しないで、少しはクラスに溶け込む努力もしなさいよね」

「「あ……」」

 言われて初めて思い当たる。

「でしょ? クラスで友だちとかできた?」

「「あ……ああ(^_^;)」」

「休み時間になると、二人で喋ってるか教室飛び出すかでしょ。先生、ちょっと心配だよ」

「「すみません」」

「わたしも新学年で忙しいから中学の時ほど構ってあげられないからね……天は自ら助くる者を助くだよ」

「はい」

 留美ちゃんは、しおらしく反省モードになるけど、うちは、かねてからの疑問がムクムクと湧いてくるんを押えられへんかった!

「ペコちゃん先生は、なんで真理愛高校に居てるんですか?」

「え、あ……」

 攻守逆転して、留美ちゃんの反省モードもすっとんでしまう。

「それは……じつはね……」

 ベンチの背もたれに体重を預けて腕組みして空を見上げた。

 こういうポーズをすると、ペコちゃん先生は、ほんまにかいらしい。もし、企んで、こういう表情とかポーズしてんねんやったら、男殺しのペコちゃんて呼んであげる。

 けど、これは天然。

「実はね……安泰中学来た年に真理愛高校の採用、ほとんど決まってたんだけどね、諸般の事情で二年見送りになって、この一月に確定して、こうやって、何の因果か、あんたたちの担任してるわけですよ」

「そうだったんですか」

 留美ちゃんは納得の感じやけど、うちはひっかかる。

「ほな、安泰中学は腰掛けやったんですか?」

「ごめん……結果的には、そうなっちゃったけどね」

「ちょ、さくらぁ」

 気の優しい留美ちゃんは、止めときいう感じで袖を引く。

「真理愛は、うちの家から二分でこられるの」

「「え?」」

「学校の裏の方にある神社が家なのよ」

「そうやったんや!」

 いや、せやけどや……近いからいうだけで選ぶのは、中高生ならともかく、社会人というか教師としてはどうなんやろ。

「なんか、言い訳っぽくなるけどね。うちのお父さん体弱くって、神社って、よっぽど大きなところじゃないと大変なんだよ。ここも安泰中学も始業は八時だけども、家を出る時間は一時間違うからね……ま、そういう事情さ、文句ある!?」

「いえいえ」

「アハハハ」

「ね、あんたたちも、もう少しクラスに目を向けようね」

「「ハヒ(^_^;)」」

「あ、そうだ。わたし、ここでも文芸部の顧問だから、入るんだったら言ってね」

「「はい」」

 そう言うと、足早に職員室のある本館の方へ駆けていくペコちゃん。

 照れくさいんと違て、ほんまに忙しいからという感じ。

 一週間続いた学校探検も面白かったけど、この昼休みの五分ほどは、貴重やったと思う。

 しかし。

 カソリックの高校で神社の娘が先生やって、お寺の娘が生徒でいてて、日本はええ国やと思いました。


☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー      頼子のガード

 
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