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299『弥次喜多みたいな』

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せやさかい

299『弥次喜多みたいな』頼子 



 玄関の前を通りかかったら大きな声がした。

「ちょっと、そこの一年生!」

 声で分かった。長瀬先生が一年生を叱ってる。

 なにごとにも白黒のハッキリした先生で、いけないことをした生徒に容赦がない。

 で、玄関のガラス越しに見ていると……なんと、叱られているのは、我が愛しき後輩二人。

「なにやらかしたんだろうね?」

 わたしの疑問を無視して、ソフィーは周囲を見渡す。

「ヨリッチ、次は、真理愛館よ」

「え、なにが?」

「あの二人の行き先よ」

「そなの?」

「うん」

 ソフィーは、校内では友だち言葉だ。どうかするとタメ口ったりする。呼び方も『殿下』じゃなくて『ヨリッチ』だしね。

「あれ、ちがうよ?」

 二人は、真理愛館のある外ではなくて二階への階段を上がっていく。

「だいじょうぶ、先回りしてやろう」

 自信満々に言うので、図書館として使われている真理愛館へ。

「ちょっとだけ代わってくれる? 昼休みいっぱいは座ってるから」

 カウンターに行くと、図書当番の三年生に声を掛けるソフィー。

「え、いいの? ソフィー当番じゃないでしょ?」

「うん、大丈夫」

「よかった、職員室に用事があったから助かる」

「どうぞどうぞ。ヨリッチは目立たないところで見てて、もう三十秒もしたら、やってくるから」

「うん」

 ソフィーは、ササッと手櫛で髪の分け方を変えると懐からメガネを取り出した。

 わたしが二階の書架の陰にまわると同時に二人が入ってきた。

―― キョロキョロしちゃってぇ、初々しいなあ(^▽^) ――

 どこかで見た印象……思いついて吹き出しそうになる。

 小学生の頃読んだ『東海道中膝栗毛』の弥次さん喜多さんが、初めて奈良の大仏を見た時の様子に似ている。

 目を輝かせてキョロキョロしちゃって、とっても可愛いぞ(^0^;)。

「あのう、本は、いつから借りられるんですか?」

 留美ちゃんがカウンターのソフィーに質問した!

「あ、一年生ですね。来週には図書館のガイダンスがあるから、それ以降になります」

 シラっと応えるソフィー。

「蔵書数は、いくらくらいなんですか?」

 え、気づいてない?

「えと、ちょっと待ってね……」

 司書室に入って笑いをこらえるソフィー。

 でも、それは一瞬の事で、なにやら司書の先生と会話すると、またポーカーフェイスで戻ってきた。

「開架図書が15000、閉架図書が20000冊だそうですよ」

「「35000冊(꒪ȏ꒪)!!」」

「あ、声大きいよ」

「「すみません」」

 目を丸くすると、外したメガネを拭いているソフィーにも気づかずに、外に出ていく二人。

 さすがに、真理愛館に居る間は我慢したけど、予鈴が鳴って外に出て、二人で思い切り笑ってしまった。

 こっそり校舎の陰から窺うと、二人は高山右近と細川ガラシャの像の前で盛り上がってる。


「ハアー……さくらはまんまだけど、留美ちゃんは変わったわねえ……」

 ソフィーが感慨深そうにため息をつくと、わたしもつられてため息になる。

「そうだね……」

「ヨリッチ、寂しいの?」

「そんなことない! です!」

 昔のソフィーの口調で返してやったけど、女王陛下の諜報部員である、我がガードは、シレっと「さあ、鐘がなるわよ」と指を立てる。

 すると、ソフィーが魔法をかけたように五時間目のチャイムが鳴ったのであった(^_^;)。



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー      頼子のガード

 
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